第810話 よいではないかよいではないか

 3日後、藍大と舞、サクラ、リルはシャングリラリゾートの神域に真奈と雑食教皇を連れて来た。


「ここが選ばれし者しか入れないシャングリラリゾートですか」


「神々がここにいらっしゃるんですね。楽しみです」


「神々に雑食を試食してもらうことを楽しみにしてるんですね、わかります」


「勿論です!」


 雑食教皇が楽しみにしているのはそれに尽きるので、藍大は苦笑するしかなかった。


 本当はリーアムと美海も審査に呼ばれていたのだが、リーアムはモフリパークの関西進出に関わる外せない用事で見学を断念し、美海は神々に会うのは恐れ多いと見学を辞退した。


 それゆえ、真奈も雑食教皇も従魔だけ連れて来ている。


 その時、藍大達の前に伊邪那美率いる審査の審査員達が現れた。


「待たせたの」


「いや、こっちは今来たところだ」


「・・・なんだか今のはデートの待ち合わせっぽかったのじゃ」


「良いな~。藍大~、親子でデートしたい。明日でどう?」


「主、親子デートしよう。5回すればみんな平等だね」


「それだ!」


 伊邪那美が思い付きで物を言ったことで、舞とサクラが親子でお出かけしたいという欲求が刺激されたようだ。


 そこに伊邪那美が待ったをかける。


「できれば天照ともデートしてやってほしいのじゃ」


「じゃあ6回だね」


「1週間は7日あるから、最後はリル達が主と戯れる日にしよう」


『賛成!』


 (あっという間に明日から1週間の予定が埋まっちゃった。別に良いけど)


 自分が発言する暇もなく予定が決まってしまったため、藍大はやれやれと困ったように笑った。


 舞達とデートしたり、リル達と戯れること自体は藍大としてもウェルカムだから、藍大に断るつもりは全くない。


 だが、藍大はふと明日のスケジュールを思い出した。


「あれ、明日ってマキナ様に呼ばれて宴じゃなかったっけ?」


「そうだよ。でも、朝から夕方はフリーだから問題ないよ」


「わかった」


 藍大は身内で話にかかりきりになり、真奈と雑食教皇を放置していたことに気づいて2人の方を向いた。


 申し訳ないことをしたと思った気持ちはその時に吹き飛んでしまった。


 何故なら、真奈はどうしてなのか黒猫に化けて神域にやって来たバステトをガン見しており、雑食教皇は今日来た神々に相応しい雑食料理についてブツブツ言っていたからだ。


 バステトも真奈を見つめ返したまま数秒が経過すると、真奈がよしと頷いて動き出す。


「ダン〇ン! フィー〇キー! ドゥー〇ディーサーザコンサ!」


「いやいやいやいや! マジですか真奈さん!?」


『これが天敵1号。業が深すぎるよ』


 踊り始めた真奈を見て藍大がツッコミを入れれば、藍大の隣にいたリルは藍大にぴったりと身を寄せてどうにか平常心を保ちながらコメントした。


 バステトを含めて神々はきょとんとしていたが、真奈は踊るのを止めない。


 しかし、2回目にリズムを聞いている内にバステトもリズムに乗って体を揺らし始めてしまう。


 3回目にはバステトが真奈のダンスに釣られて近寄ってしまう。


「モフラ!」


「ニャア!? しまったニャ!」


 バステトは猫に化けていたせいで踊りの効果を強く受けてしまったらしく、その強制力に抗えずに真奈に確保されてしまった。


 モフラーがモフモフを確保したとして、あっさり解放される確率は0%だ。


「よ~しよしよしよしよしよし!」


「ニャアァァァァァ! 止めるニャアァァァァァ!」


「バステトは馬鹿なのじゃ」


「まごうことなき馬鹿だな」


「馬鹿なんだな」


「馬鹿以外に適切な表現が思いつかん」


 伊邪那美達審査員はバステトに馬鹿判定を下してジト目で見ていた。


 バステトがわざわざ猫の姿で神域にやって来た理由だが、モフ神になろうとしている真奈のモフラーっぷりを調べるためだった。


 そこでバステト自身が犠牲になる意味があったのかと問われれば、全員がNOと答えるだろう。


 審査は既に始まっていて、自分をモフれないようならまだまだだと言おうと思っていたバステトは真奈の踊りに見事に釣られてしまい、今はひたすらモフられている。


「「クゥ~ン・・・」」


「ガルフまでしょんぼりしてる!? よしよし、怖くないぞ~」


 リルが真奈のモフラーっぷりを見てしょんぼりするのはいつものことだけれど、今日はガルフもいつの間にか藍大の近くに来てしょんぼりしていた。


 リルだけ頭を撫でるのは差別している気分になるので、藍大はリルとガルフの頭を平等に撫でてあげた。


 藍大に頭を撫でてもらったことにより、リルもガルフも気分が落ち着いて来たらしい。


 数分後にはリルとガルフの尻尾が元通りになっていた。


 (そろそろ真奈さんを止めるか)


 藍大はモフられ疲れて何も言えなくなっているバステトを見て、これ以上はバステトが本格的に不味いことになると判断した。


「真奈さん、そろそろバステト様をモフるのは止めましょう。貴女がモフってるのはEG国の神様ですよ?」


「よいではないかよいではないか」


「真奈さん、ステイ!」


 藍大はリュカの<強制行動フォースアクション>を発動した直後、真奈の背筋がピンと伸びてバステトをモフる手が止まった。


 その間に藍大が真奈の手からバステトを救う。


「バステト様、しっかりして下さい」


「・・・はっ、藍大、よく助けてくれたニャ。真奈は危険ニャ。私がただの猫になる所だったニャ」


「猫だったのじゃ」


「ただの猫だろ」


「飼い主のスキンシップにぐったりした猫だったんだな」


「策士策に溺れるとは正にこれじゃろうて」


「酷いニャ! みんな辛辣ニャ!」


 伊邪那美達の誰も自分に同情的なコメントをくれなかったものだから、バステトは黒猫から猫耳と尻尾を生やした女神の姿に戻って藍大に抱き着こうとした。


 藍大を篭絡して自分の味方にしようとしたのだ。


 ところが、それは現実にはならなかった。


 藍大に抱き着こうとした瞬間、目には見えない何かで拘束されてバステトは身動きが取れなくなったのである。


「私の前で主に抱き着こうとは大した度胸」


 無論、バステトを拘束したのはサクラの<十億透腕ビリオンアームズ>である。


「ニャア、話せばわかるニャ。解放してほしいニャ」


「主に色目を使おうとしたことは万死に値する。罰としてモフデモート卿への生贄に捧げる」


「後生ニャ! それだけはやめてくれニャ!」


 目を潤ませて本気で嫌がっているバステトを見て、藍大はこれでバステトも懲りただろうと判断した。


「サクラ、その辺で止めておこう」


「主がそう言うなら仕方ない。バステト様、主に感謝するように」


「勿論ニャ。藍大の慈悲に感謝するニャ」


 (新神のサクラに力関係で負けてるのは良いんだろうか?)


 ふと藍大はそのようなことを思ったが、ロキですらサクラと敵対しようとはしなかったのを思い出して何も言わないでおいた。


 真奈もバステトが人型になって落ち着きを取り戻したようだったので、真奈の拘束を解除してから伊邪那美に訊ねる。


「伊邪那美様、真奈さんと雑食教皇の審査だけどどっちから先にやる?」


「真奈はもうモフ神で良いと思うのじゃが皆はどう思うかの?」


「異議なし」


「良いと思うんだな」


「構わん」


「文句なしにモフ神ニャ。私の犠牲でみんなをそれを理解したはずニャ」


 伊邪那美達はバステトに対する真奈の対応から、これ以上審査なんて要らないのではないかという意見で一致した。


 バステトに至ってはモフられた感触がまだ残っているらしく、早く真奈の審査を終えて話題を変えたいとすら思っているようだ。


 5柱の審査員が真奈をモフ神認定しようとしたところ、真奈がもう終わってしまうのかと慌てて口を開く。


「そんな!? もっと私がモフ神に相応しいか審査しましょうよ!」


「真奈さん、これ以上何を審査されるつもりですか?」


 藍大のツッコミに伊邪那美達がそうだそうだと頷く。


 これ以上何を見せられてもどの道モフ神認定するのだから、次の雑食教皇が雑食神に相応しいかという次の審査に移って良いだろうというのが伊邪那美達の総意だ。


「ガルフにモフモフとマッサージをしてる姿を見てもらうことで、普段の私を知ってもらいましょうよ!」


『主人、もう一考して』


「ガルフもそう言ってるし、そもそもバステト様をモフってた真奈さんはいつも通りの真奈さんだったからパフォーマンスは十分だと思いますよ?」


「藍大の言う通りなのじゃ。真奈よ、其方は既に十分モフ神としての実力を発揮してみせたのじゃ。其方は我等がモフ神として認定するのじゃ」


 伊邪那美が宣言した直後、藍大の耳にアナウンスが届く。


『おめでとうございます。逢魔藍大のサポートにより新種のモフ神が誕生しました』


『初回特典として集めた神の中で現時点で完全回復していない者達が一律で10%分回復しました』


 藍大の口添えによって真奈がモフ神になった。


 それを見て再び元気をなくしたリルの頭を藍大が撫でて元気づけたのは言うまでもない。

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