第65章 大家さん、宣告される

第771話 月のダンジョンを攻略しろってこと?

 5月6日の未明、藍大は宇宙を背景に地球を見下ろす白い螺旋階段の上に立っていた。


「ここは何処だ?」


「あっ、藍大だ。良かった~」


『ご主人だ! 舞もいる!』


 藍大は自分だけがここに呼び出されたのかと思ったが、すぐに舞とリルの姿が現れたのでホッとした。


 知らない場所に独りぼっちというのは心細い。


 だからこそ、舞とリルも藍大の姿を見てホッとしたのだろう。


「神様会議が行われる神域じゃないよな?」


「そうだよね。夢の神域は真っ白な空間だもん」


『ここは創世神界の入口だって。階段を上り切った先に創世神様が待ってるらしいよ』


 リルが<知略神祝ブレスオブロキ>で自分達のいる場所を鑑定したらしい。


「創世神って響きからして伊邪那美様よりも上位だよな」


「だよね~」


『ご主人も舞も僕の背中に乗って! 一気に駆け上がるよ!』


「よろしく頼む」


「よろしくね~」


 リルは地下神域とは違った形式で走れそうだとすっかりやる気満々だ。


 尻尾を振って早く背中に乗ってくれとアピールしている。


 藍大と舞を背中に乗せた後、リルは嬉しそうに言う。


『飛ばすからしっかり掴まっててね』


「「了解」」


 藍大と舞の準備ができたとわかった途端、リルが最初から猛スピードで螺旋階段を駆け上がり始める。


『ワッフン!』


 リルは藍大と舞を背中に乗せても全然へっちゃらな様子で、どんどん上へと駆け上がる。


 1分経たない内に螺旋階段の終わりが見えてしまった。


 階段を超えた先に遭ったのは巨大な扉だった。


 それは今までに藍大達が見たどの扉よりも大きいだけでなく神聖な感じがした。


「リル、ここまで連れて来てくれてありがとう」


「ありがとね~」


『全力で走れて楽しかったから大丈夫だよ』


 ニコニコしながら言うリルの頭を藍大と舞が優しく撫でた。


 扉をどうするかはさておき、ここまで自分達を運んで来てくれたリルを労うのが先だからだ。


 リルをしっかり労った後、藍大は再び巨大な扉を見て腕を組んだ。


「これは俺達だけで開けられるのか?」


「私、壊すなら得意だよ」


 その瞬間、舞はミョルニルとヤールングレイプル、メギンギョルズよ来いと念じて装着した。


 ミョルニルで扉を壊す気満々である。


「待て待て。流石にそれは不味いでしょ。この先が創世神界なんだろ? 創世神様の家の玄関をぶっ壊す真似は避けた方が良い」


「そっか~。わかった~」


 舞は扉を壊さないことが決まると3つの神器を念じて消した。


 扉を壊すならば出して使うべきだけれど、壊さずに入るならば神器は相手の警戒を生むだけだ。


 わざわざ藍大達が喧嘩腰でいく必要はないのだから、舞が神器をしまったのは正しいと言えよう。


「まずはシンプルにノックしてみよう。もしかしたら開けてくれるかもしれないし」


 そう言って藍大はコンコンと扉をノックしてみたところ、扉の一部分が四角い枠を模るように光り始めた。


『掌を四角い枠に押し付けて下さい』


 合成音声が藍大に指示を出したため、藍大はそれに従って掌をべったりと押し付けてみる。


『”魔神”逢魔藍大であることを確認しました。ロックが解除されます』


 アナウンスの後にガチャっと音が鳴ってロックが外れて扉が自動的に開かれた。


「開いたな」


「開いたね」


『流石はご主人だよ』


 リルは藍大が扉を開けたことに誇らしげな表情をしていた。


 そんなリルが愛らしくて藍大はリルの頭をわしゃわしゃと撫でた。


 扉が完全に開いてから藍大達はその奥に進んでみたけれど、そこはたくさんの映像が背景になった空間だった。


「まさか、世界各地の映像なのか?」


「そうだと思うよ。ほら、あそこにモフリパークが映ってるもん」


「クゥ~ン・・・」


「よしよし。怖くない、怖くないぞ」


 舞が見つけてしまったモフリパークの映像を見つけ、リルは天敵1号にテイムされた同胞モフモフを見てしまったことでしょんぼりした。


 藍大はリルの気持ちを落ち着かせるためにその背中を優しく撫でてあげた。


「興味深いね」


 突然声がしたと思って後ろを振り返ってみると、機械の翼と頭の上に歯車を浮かせた女性がいた。


「いつの間に!?」


「誰!?」


『ご主人、創世神様だよ!』


「正解。私はデウス=エクス=マキナ。創世神だよ。でも、ここに来れた君達は特別にマキナって呼んで良いよ。敬語も面倒だから要らない」


 マキナは優しく微笑みながら自己紹介した。


 背中の翼と頭の上の歯車に目が行ってしまうけれど、それらを除けば白い法衣を着た金髪碧眼の美女だ。


 その微笑みに藍大は何か見覚えがあり、それが何か思い出そうとしてじっとマキナの顔を見つめてしまう。


「私の顔に見覚えがあるのは当然だよ。髪色や髪型は違うけど、私の顔はサクラと同じだから」


「そういうことか。でも、なんでマキナ様とサクラが同じ顔なんだ?」


「それはサクラが私の代わりに藍大の最初の従魔になるように配置したから。ついでに言えば、シャングリラダンジョンを創ったのも私だよ。ただ、ちょっとミスがあってサクラはマネーバグに襲われちゃったんだけどね」


「・・・そうか。サクラやみんなと出会えたきっかけをくれてありがとう。でも、サクラがマネーバグに襲われたのはマキナ様のミスだったんだな」


 色々思うところはあったけれど、藍大はとりあえずマキナにお礼を言った。


 それから、ダンジョンにしては珍しいモンスター同士の戦闘が起きた原因を知って藍大はようやく謎が解けたとスッキリした。


「それについては申し訳なく思ってる。目が覚めたら私の代わりにサクラに謝ってほしい。一部でも私の力を受け継ぐあの子のことを虐めたくてマネーバグに襲わせた訳じゃないから」


「わかった。マキナ様の力の一部って<運命支配フェイトイズマイン>?」


「その通り。あのアビリティそのものを最初から与える訳にはいかなかったから、<不幸招来バッドラック>なんて初期アビリティから始めさせることになったけどね」


「そりゃそうでしょ。<運命支配フェイトイズマイン>を最初から使えたらチートだわ」


 仮に<運命支配フェイトイズマイン>が最初から使えたのなら、藍大達のダンジョン探索はもっとイージーモードだっただろう。


 ただし、そのせいで出会えなかっただろう仲間がいることや身に着けられたはずの経験が得られないという点では問題があると言えよう。


『僕からも質問。シャングリラダンジョン以外のダンジョンでマキナ様が創ったものはあるの?』


「ない。私が創ったダンジョンは後にも先にもシャングリラダンジョンだけ。それ以外は邪神が地球を滅ぼすために創った。ちなみに、藍大にサクラを託したのは貴方が従魔士に覚醒したってわかったからだよ。舞から質問はない? あれば答えるよ?」


「それじゃあ、なんでいきなり私達がここに呼ばれたのか知りたいな~」


 舞の質問は真っ先に訊いておくべき質問だった。


 自分達が神様会議を行う夢の神域ではなく、マキナのいる創世神界に呼ばれた理由が気にならないはずがない。


「きっかけはソロモン72柱のモンスターがテイムあるいは討伐されて月のダンジョンが解放されたから」


「月のダンジョン? 月にダンジョンがあるのか?」


「邪神は月にダンジョン創ってその最下層に引き籠ってる」


「月のダンジョンを攻略しろってこと?」


「ピンポーン」


 マキナはニッコリと笑って藍大の質問を肯定した。


 その仕草を見て藍大はふと思った。


「ちょっと待った。月面で行動するのって難しくないか? 重力的な面でも呼吸的な面でも」


「安心して。そんな時こそサクラの<運命支配フェイトイズマイン>が使えるよ」


「・・・まさか、自分達だけ月面でも地球上と変わらぬことわりで動けるようにできるってこと?」


「サクラならそれができる」


「マジか」


「すご~い」


『やっぱりサクラは従魔筆頭なだけあるね』


 マキナの説明を受けて藍大達はサクラってすごいと改めて感じた。


「ちなみに、マキナ様が一緒に来てくれるなんてことはないんだよな?」


「ごめんね。私が直接的介入をすると因果とか諸々が滅茶苦茶になって事後処理が大変なことになるから手が出せないんだ」


「まあ、そんな回答になるって思ってた」


 予想通りの回答だったから藍大は落ち込むこともなかった。


 マキナは申し訳なさそうに話を続ける。


「だからアドバイスだよ。時間の許す限り、地球の神々の力を取り戻してそのお礼として力を貰ってね」


「待った。時間の許す限りってどゆこと? 月のダンジョンに挑むのに制限時間があるの?」


「月のダンジョンが解放された今、そのダンジョンがモンスターで溢れてスタンピードになったら藍大達以外誰も手を出せないよね。邪神がモンスター達を戦わせて強化しようとした場合、最悪月が消滅する。タイムリミットは月末だと思った方が良いかな」


「最後にしれっととんでもない情報ぶち込まれたけど頑張ってやってみるわ」


 マキナに月が消滅すると宣告された直後、目覚める時の感覚が襲って藍大達の精神は創世神界から現実に戻った。

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