第757話 お爺ちゃんの神器を揃えたよ~

 グレモリーを倒した後はフロアボスの部屋まで何もない一直線だった。


 休憩は要らないと舞達が言えば、藍大達はそのまま部屋の中に突入する。


 ボス部屋の中にいたのは上半身が巨人で下半身が大蛇、肩から無数の蛇を生やすモンスターが宙に浮いていた。


 藍大はすぐにモンスター図鑑でフロアボスの正体を調べた。



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名前:なし 種族:テュポーン

性別:雄 Lv:100

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HP:4,000/4,000

MP:3,500/3,500

STR:3,000

VIT:3,000

DEX:3,000

AGI:3,000

INT:3,500

LUK:3,000

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称号:地下18階フロアボス

   到達者

   歩く魔導書

アビリティ:<台風牢獄タイフーンジェイル><氷結隕石フリーズメテオ><大地隆起ガイアライズ

      <百万雨槍ミリオンランス><緋炎爆弾クリムゾンボム><震撼腕槌クエイクハンマー

      <自動再生オートリジェネ><全激減デシメーションオール

装備:なし

備考:神は全て消す!

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 (本能レベルで神が嫌いか)


 ギリシャ神話においてテュポーンはガイアがゼウスに復讐するために生み出されたが、この個体も初対面の藍大達に感じる神らしさを感じて怒っている。


『ご主人、テュポーンの奥に武の祠があるよ!』


「マジか。あの巨体が邪魔して見えてなかった。じゃあ、あいつを倒せば舞のメギンギョルズ=レプリカを強化できるな」


「戦闘でうっかり壊さないようにしないと。そうだよね、舞?」


「わかってるっつーの!」


 既に戦闘モードの舞はオリハルコンシールドをテュポーンの顔目掛けてぶん投げた。


「効かぬ!」


 テュポーンは投げられたシールドを<震撼腕槌クエイクハンマー>で打ち返し、それを舞が回転して勢いを受け流しつつキャッチした。


 壊れないオリハルコンシールドだからこんなことができているが、並大抵のシールドならこのやり取りだけで大破している。


「貴様等はこの祠が大事なようだな。ならば」


「やらせないから」


 テュポーンが<震撼腕槌クエイクハンマー>で武の祠を壊そうとしたのを察し、サクラが<十億透腕ビリオンアームズ>でテュポーンの動きを封じた。


「おのれ、神でもない小娘風情が!」


 (あっ、余計なことを・・・)


 テュポーンはサクラが地味に気にしている部分に触れてしまったため、藍大はサクラの顔を見るのが怖かった。


 藍大は”魔神”で舞は”戦神”、リルが”風神獣”なのに自分は”色欲の女帝”ではあっても神ではない。


 それをサクラが気にしていないはずがなかった。


「お前は言ってはならないことを言った。主、テュポーンを潰す許可を」


「素材が勿体ないから駄目。せめて首を刎ねるぐらいで収めてくれないか?」


「むぅ、仕方ない。リル、私の代わりにテュポーンの動きを止めて」


『良いよ~』


 リルは<雪女神罰パニッシュオブスカジ>でテュポーンの体を全身氷漬けにした。


 テュポーンはしぶとくてまだHPが残っており、<自動再生オートリジェネ>と<全激減デシメーションオール>の効果ですぐに動き出そうとするがサクラがそれを認めない。


「テュポーン、主の慈悲に感謝して喜べ。主に慈悲の心がなければお前の存在は跡形もなく消えてた」


 そう言った時にはサクラが<運命支配フェイトイズマイン>の余剰エネルギーを刃に変換してテュポーンの首を刎ねていた。


 LUK∞の力で攻撃されればタフなテュポーンも流石にHPが尽きてしまい、凍った首がごとりと音を立ててボス部屋の床に落ちた。


 藍大は戦闘が終わったのを確認してからサクラを抱き締めて頭を撫で始めた。


「サクラ、よく我慢できたな。偉いぞ」


「私が神になれるまであと8ヶ月は長過ぎる」


「よしよし。神化の杯以外にも神になる手段を探そうな」


「うん。ありがとう主」


 サクラは藍大が自分のために困難な探し物をしてくれることに感謝した。


 サクラが落ち着いた後、藍大は舞とリルのことも労ってからテュポーンの解体を済ませて魔石はリルに与える。


 藍大から魔石を与えられて飲み込むとリルの体が神々しく輝いた。


『リルのアビリティ:<神狼魂フェンリルソウル>がアビリティ:<風神狼魂ソウルオブリル>に上書きされました』


『おめでとうございます。リルが従魔で世界で初めて自身の名を冠するアビリティを会得しました』


『初回特典として櫛名田比売の力が70%まで回復しました』


 光が収まった後、リルは藍大に甘えるいつものリルだった。


「よしよし、愛い奴め」


「クゥ~ン♪」


 藍大はリルの頭をわしゃわしゃと撫でつつ、モンスター図鑑で<風神狼魂ソウルオブリル>の効果を確かめた。


 アンデッド型モンスター全般や悪魔系モンスターに特別効く咆哮なのは変わらないが、味方のHPとMP以外を制限時間付きで倍にできるのは強烈なオプションだ。


 ついでに言えば、リルが味方と思うモンスターならばアンデッド型モンスター全般や悪魔系モンスターであっても効果対象外にできるので、自由度も上がったと言えよう。


 リルをたっぷりと甘やかした後はいよいよ武の祠の出番である。


「舞、奉納しようか」


「うん!」


 舞は藍大に言われて装備していたメギンギョルズ=レプリカを武の祠に奉納した。


 すぐに武の祠が神聖な光に包み込まれ、光が収まると黒銀色の鱗が覆い、正面に狼の顔のマークがあるのは変わらず、その両脇に紫色の雷マークが入ったベルトが現れた。


『舞、おめでとう! メギンギョルズになってる!』


「やったね! リル君、効果はどんな感じ?」


 リルは舞に訊かれてメギンギョルズの効果について説明した。


 1つ目は使用者のSTRとVITが2倍になること。


 2つ目は破壊不能であること。


 3つ目は使用者が念じれば自動で装着できること。


 4つ目は使用者が死ぬまで変わらず、今は舞専用であること。


 レプリカだった時よりも強化の幅が上がっており、壊れないから舞が安心して使える装備になったのは間違いない。


『おめでとうございます。逢魔舞は現代で初めて神器を3つ手に入れました』


『初回特典として櫛名田比売の力が80%まで回復しました』


『おめでとうございます。逢魔舞がトールの神器をコンプリートしました』


『報酬として櫛名田比売の力が90%まで回復しました』


 藍大の耳に伊邪那美のアナウンスが届いた。


 舞はチラチラと藍大の顔を見てコメントを待っている。


「舞、おめでとう。これでコンプリートだな」


「うん、藍大達のおかげだよ! 後でブラドにもお礼のハグをしないとね!」


『そんなの要らないのだ!』


 舞がハグと口にした瞬間、ブラドが全速力で断った。


 しかし、その声はテレパシーなので藍大以外には届いていない。


 (ブラド、諦めて舞にハグされてくれ)


 舞がブラドにお礼の気持ちを伝えたいと思うのは悪いことではない。


 それゆえ、藍大はブラドに諦めろと心の中で伝えた。


 地下18階でやるべきことを終えた藍大達は帰宅し、その足で地下神域へと移動した。


 神社にいるマグニと愛に揃った神器を披露するためだ。


「お爺ちゃんの神器を揃えたよ~」


「なん・・・だと・・・」


 マグニはメギンギョルズを探すと言ってから1週間も経たずに舞が持ち帰って来たのでフリーズした。


「おめでとう。貴女は本当にすごい子ね」


 愛は一瞬驚いたけれど、すぐに微笑んで舞の頭を撫でた。


 一緒に暮らしてマグニも目覚めた今、母親としてできることを少しずつし始めたのだ。


 舞は愛に頭を撫でられて最初はびっくりしたが、すぐにそれを受け入れて笑った。


 男親はいても女親はいなかったから、愛に褒められて嬉しかったのである。


 マグニがショックで固まったままだったため、藍大達はマグニ達の部屋の前で控えていた櫛名田比売の用件を済ませることにした。


「藍大、感謝するですの。貴方のおかげで完全復活まであと少しですの」


「狙って力を取り戻す手伝いをした訳じゃないんだけどね」


「それでも良いんですの。これは私からのお礼ですの」


 櫛名田比売が藍大の手を握ると伊邪那美のアナウンスが藍大の耳に届いた。


『逢魔藍大は称号”櫛名田比売の神子”を獲得しました』


「これで藍大はモンスター以外についても食材限定で鑑定ができるようになったんですの。美味しい料理を作るのに役立ててほしいんですの」


「ありがとう。これならみんなにもっと喜んでもらえるよ」


「良いんですの。私もお供えされる貴方の料理のファンですの。これからもよろしくですの」


 この後、藍大が昼食で頑張ったのは言うまでもない。


 また、夕食はウシュムガルとアダマスフィドラーを使って豪華なディナーになり、逢魔家全員が大満足だった。

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