第721話 ご主人、夕食の時間が過ぎちゃったよ!

 オーロラダンジョンの6階は藍大達の予想通りでいきなりボス部屋だった。


 その中は巨大な氷のコロシアムになっており、中心にはフルプレートアーマーの巨人がいた。


「よくぞここまで来た小さき者達よ」


「食べられないタイプの”ダンジョンマスター”か~」


『残念だね~』


「がっかりである」


 食いしん坊ズがあからさまにがっかりしたのを見て巨人がキレた。


「ちょっと待て! いきなりやって来てくせに何様だ貴様等!」


「”魔神”だけど何か?」


「”戦神”だよ~」


「”色欲の女帝”」


『”風神獣”だよ』


「”憤怒の皇帝”である」


『”怠惰の皇帝”』


「ひぇっ!?」


 藍大達の名乗りを聞いて巨人は仰け反った。


 インゲルはそのラインナップで浮くので名乗れなかったが、どう考えても出会った時点で絶望する面々を前にすれば当然の反応だろう。


 絶望する巨人が何者か探るべく藍大はモンスター図鑑で調べてみた。



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名前:なし 種族:ユミル

性別:雄 Lv:100

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HP:4,500/4,500

MP:3,500/3,500

STR:3,500(+1,000)

VIT:3,000(+1,000)

DEX:2,000

AGI:3,000

INT:2,000

LUK:2,000

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称号:ダンジョンマスター(オーロラ)

   巨人の王

   到達者

アビリティ:<格闘術マーシャルアーツ><氷結拳フリーズフィスト><火炎拳フレイムフィスト

      <大地隆起ガイアライズ><放電咆哮スパークロア><闘気鎧オーラアーマー

      <自動再生オートリジェネ><全激減デシメーションオール

装備:ニブルヘイムアーマー

   ヤールングレイプル=レプリカ

備考:絶望

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 (能力値はかなり高いけど舞達が勝つビジョンしか見えない)


 ユミルが絶望しているからというのもあるが、藍大はユミルを脅威とは感じられなかった。


「”ダンジョンマスター”はユミルLv100。あのガントレットはヤールングレイプル=レプリカだから壊さないように倒そう」


「特に舞」


「サクラ、一言余計だっつーの!」


 サクラに茶々を入れられた舞は駆け出した。


「こっちに来るなぁぁぁぁぁ!」


「アォォォォォン!」


 ユミルは舞を恐れて<放電咆哮スパークロア>を放つが、リルがすかさず<神狼魂フェンリルソウル>でそれを打ち消した。


「リル、サンキュー! ぶっ飛べオラァ!」


 舞は雷光を纏わせたミョルニルを全力で投げてユミルの腹部に命中させる。


 その一撃でニブルヘイムアーマーに罅が入り、ユミルは攻撃を受けた勢いを殺し切れずに後ろに2,3歩下がる。


『あの巨体を動かすなんて・・・』


 舞の力を目の当たりにしてインゲルが信じられないものを見た表情になる。


「吾輩を忘れては困るのだ!」


 ブラドが<憤怒皇帝ラースエンペラー>でユミルを追撃すれば、ユミルの体勢が大きく後ろに傾いた。


「頭が高い」


 サクラが<百万透腕ミリオンアームズ>でユミルの上半身を押せば、ユミルは地面に仰向けになるように打ち付けられた。


 そこに舞が嬉々として跳びかかる。


「ヒャッハァァァァァッ! ボコボコにしてやるぜぇぇぇぇぇ!」


 そこから先は舞がひたすらユミルを殴り続ける作業と化した。


 ユミルは<闘気鎧オーラアーマー>と<自動再生オートリジェネ>、<全激減デシメーションオール>のせいで簡単には死ねない。


「楽にしてあげる」


 サクラが<深淵支配アビスイズマイン>でユミルの首を刎ねたことにより、ユミルは一方的にやられる恐怖から解放された。


 もっとも、それは自分の死と引き換えだったのだが。


「掌握完了なのだ」


 ユミルから”ダンジョンマスター”の権限を奪ったブラドが満足そうにしている。


「藍大~、倒したよ~」


「主、やっつけたよ」


『ご主人、撫でて~』


「みんなお疲れ様。順番だぞ」


 藍大はリクエストに応じて家族サービスタイムに入る。


 舞達が満足した後、ユミルの解体を済ませて戦利品を回収した。


「魔石はサクラのものだな」


「うん。ありがとう」


 サクラは藍大に魔石を食べさせてもらったことにより色気が増した。


『サクラのアビリティ:<百万透腕ミリオンアームズ>がアビリティ:<十億透腕ビリオンアームズ>に上書きされました』


 (サクラの腕はどこまで増えるんだろう?)


 藍大はそんなことを思いながらサクラの頭を撫でた。


「数は力だよ、主」


「サクラの場合、質よりも量って訳じゃなくて質も高いもんなぁ」


「ドヤァ」


「よしよし」


 サクラを甘やかしてから丁度良い頃合いになったため、藍大達は5階にあるマグニの神域に戻った。


『師匠、私はここまでとさせていただきます。流石に連絡も相談もなく日本に行くのは不味いですから』


「それもそうですね。では、先にDMU本部にお送りします。今日はありがとうございました」


『こちらこそ貴重な経験ができました。ありがとうございました』


 リルの力でインゲルをDMU本部に送った後、藍大達はマグニと愛を連れてシャングリラの地下神域に戻った。


 日本時間では日付が変わっていないけれど、子供達は間違いなく寝ている時間だ。


 それに気づいたリルがハッとした表情になる。


『ご主人、夕食の時間が過ぎちゃったよ!』


「夜遅いから作り置きで簡単に済ませよう」


「おかえりなのじゃ。それで、何を話しておるんじゃ藍大達は?」


 藍大とリルが帰って来たので伊邪那美が出迎える。


『僕達、時差で晩御飯食べてないんだよ!』


「それは由々しき事態じゃな」


 リルの言葉を受けて伊邪那美がシリアスな表情になった。


 これが逢魔家の食いしん坊ズクオリティである。


「・・・あの、ご挨拶をさせていただけますでしょうか?」


 自分達の存在が忘れられているのではと思った愛が口を開いた。


「おっと、そうじゃったな。妾が伊邪那美。地下神域のまとめ役じゃ」


「立石愛です。親の資格があるとは言えませんが、血縁上では舞の母親です。マグニ共々お世話になります」


「うむ。色々話はあるじゃろうがまずはマグニを運ぶのじゃ」


 マグニを伊邪那美達の神社の客間に運び込んだことにより、藍大の耳に伊邪那美のアナウンスが届く。


『おめでとうございます。逢魔藍大は世界で初めて異国の神を神域で保護しました』


『初回特典として須佐之男命が完全復活しました』


『神格を持たない者も地下神域がシャングリラリゾートの神域と行き来自由になりました』


『おめでとうございます。逢魔藍大は世界で初めて5柱の神を完全復活させました』


『初回特典として櫛名田比売の力が20%まで回復しました』


 須佐之男命が完全復活したと聞いて藍大達はすぐに神社の外に出た。


 騒がしい須佐之男命のことだから、マグニが眠っているところに現れて煩くする可能性が高いからだ。


 実際、藍大の読みは正しかった。


「兄貴ぃぃぃぃぃ!」


 須佐之男命は全力で兄貴と叫びつつ、櫛名田比売をお姫様抱っこしたまま走って来た。


 その後ろから天照大神と月読尊が遅れて走って来ている。


 普通に走っている2柱よりもお姫様抱っこをしながら走った方が早い須佐之男命とは一体なんなのだろうか。


 ツッコミは不在である。


 須佐之男命は藍大達の前にやって来て止まると櫛名田比売を地面に降ろした。


「兄貴、ワイも完全復活できました! いつでもどこでも兄貴が呼べば行くんで困ったらすぐに呼んで下さい!」


「わかった。わかったから落ち着け。そもそも、櫛名田比売様が一緒にいるんだからいつでもどこでもは呼べないだろ」


「そうですの。いくら藍大に恩があるとはいえ、私のことをないがしろにしてほしくないんですの」


「お、おう、ごめんよ。でもな、俺は兄貴に恩を返さないと漢としてのプライドに関わると言うか」


 須佐之男命の言い分を聞いて櫛名田比売はやれやれと首を振る。


「藍大は貴方を従僕として呼びつけたりしませんの。困った時は呼んで良いか相談してくれますの。藍大、そうでしょう?」


「そうだな。何か力を借りる時は無断で召喚したりせずに呼んで良いか確認する。ある程度先読みができる状況だったら事前に呼び出すかもしれないって話は通すぞ」


「ほら、藍大はできた神ですの。貴方は暴れたいからって藍大を理由にしてはいけませんの」


「でもよぉ」


「いけませんの」


「はい」


 神としての力は須佐之男命の方が上なのだが、どこからどう見ても櫛名田比売の方が須佐之男命を尻に敷いている。


「須佐之男、夫婦仲良くしろ。困った時はちゃんと力を借りるからさ」


「うっす!」


 須佐之男は藍大に言われると本当に素直である。


 とりあえず、舞の母親探しも無事に終わったので食いしん坊ズ達の視線による催促に応じて藍大達は1階に上がって遅めの夕食を取ることにした。

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