第693話 A国要らない
時は有名人について語るスレが藍大達がバティンをタコ殴りにして倒す動画で盛り上がった後に遡る。
茂が残業を終えてから藍大達を労うために訪ね、夕食が終わっていたことに酷く残念がっていた時のことだった。
テレビのニュース番組を見ていた仲良しトリオが驚いて立ち上がる。
「大変なのよっ。A国が魔神国の属国になるのよっ」
「マスターが建国したことになってるです!」
『<(  ̄ ≧ ̄)> 頭が高い! 控えろ~!』
(ゼルは王様の真似か?)
そんなことを思いつつ、藍大は視界の端で茂が胃薬を服用しているのをチラッと見た。
この手の話は掲示板に燃料を投下するものでしかない。
早い内に対処した方が良いだろう。
「よし、要らないって答えるか。舞は撮影頼む。ゴルゴン、アナウンサー役したいか?」
「絶対誰にも譲らないんだからねっ」
藍大の問いにゴルゴンは自分がアナウンサーだとやる気満々な様子で答えた。
「藍大とゴルゴンちゃん、撮るよ~」
「いつでもOK」
「アタシも良いのよっ」
テレビを消して2人の準備が整ったのを確認した後、舞がスマホで動画の撮影を始める。
「こちら現場のゴルゴンなのよっ。マスター、A国が魔神国の属国になりたいって言ってるのよっ。率直な気持ちを言ってほしいんだからねっ」
「A国要らない」
「マスター、ありがとなのよっ。現場からは以上なのよっ」
ここで舞が撮影を終了してみんなで動画をチェックする。
「藍大、まさかそのまま”楽園の守り人”のホームページにアップする気か?」
「Of course」
茂の問いに対して藍大はアルカイックスマイルでサムズアップしてみせる。
「何これ無性に腹立つ!」
「落ち着くんだ茂。イライラは胃の大敵だぞ」
「おう、現在進行形で胃が痛いぞ畜生」
「アップ完了したよ~」
「舞、サンキュー」
舞がホームページにA国要らない宣言の動画をアップした後、様々な掲示板が大盛り上がりになった。
テレビをつけるとニュース番組のキャスターが速報が入った。
『ただいま入って来た情報によりますと、”楽園の守り人”のギルドマスターである逢魔藍大氏の動画を受けてCN国の首相とDMU本部長が感謝のメッセージを贈りました』
キャスターが映っていた画面からCN国の首相の映る画面へと切り替わる。
『ありがとうございます。スカッとしました』
それからすぐにCN国のDMU本部長のメッセージへと切り替わる。
『スカッとしました。東洋の魔神は最高です! ありがとうございます!』
この2つのコメントに対して仲良しトリオはうんうんと頷いていた。
「打てば響くんだからねっ」
「片言じゃなくて自然な日本語でお礼を言ってるのがポイント高いです」
『(^o^)/ええじゃないか』
そのタイミングで茂のスマホが震える。
茂が藍大の家を訪ねていると知ってメールで連絡を入れて来るのはDMUの職員以外にあり得ない。
誰からだろうかと茂がスマホの画面を見たところ、差出人は志保だった。
「うわぁ、マジかぁ」
「どうした?」
茂が信じられないものを見たと言わんばかりの表情になったため、藍大が今度は何事かと訊ねた。
「核保有国が藍大のA国要らない宣言を受けて核兵器の放棄を宣言した」
「今まではあくまで各国の冒険者や有識者が言ってるだけで政府は放棄するって言ってなかったんだっけ?」
「その通り。それが核兵器の放棄をこのタイミングで宣言してくるとか藍大に媚びる気満々じゃねえか」
茂が告げたビッグニュースは少し遅れてニュースキャスターにも届けられたらしく、速報の表示が再び目立った。
現在生放送中のニュース番組関係者は大忙し間違いなしである。
「核兵器の放棄の宣言=俺に媚びるになるのはなんで?」
「ちょっと待つのよっ」
「ゴルゴン?」
「どうやら名探偵ゴルゴンの時間らしいから説明は任せる」
茂はゴルゴンが自分に説明を任せろと態度でアピールするから譲った。
繊細な胃袋を持つ気遣いのできる大人、それが茂である。
「大前提として、所属する冒険者の力に自信がなければマスターの庇護下に入りたい国ばかりなのよっ」
「ふむ」
「マスターがA国要らない宣言をした結果、A国を要らないと言った理由の1つとして核兵器を保持してるからだと保有国の首脳達は考えたんだからねっ」
「ふーん。別に核兵器を持ってるかどうかなんてどっちでも良いんだけどな。庇護とかめんどいからやらないし」
藍大は何を勘違いしてるんだ各国首脳はと溜め息をついた。
「アタシもそうだと思ってるのよっ。でも、保有国の首脳達はマスターが核兵器を嫌ってると思う決定的な理由があるんだからねっ」
「どんな理由?」
藍大が首を傾げるとゴルゴンはサクラの方を見る。
「私?」
「そうなのよっ。サクラが<
「真実は食いしん坊ズが食べられないワイバーンの存在に怒っただけだったりするんだが、そういった首脳達は俺からの心象を良くしようとA国要らない宣言を受けて行動した。だから媚びたって言いたいんだな?」
「正解なのよっ」
ゴルゴンが我が意を得たりとにっこり笑った。
藍大はゴルゴンの頭を撫でながら茂に視線を向ける。
「俺の考えもゴルゴンさんと同じだ。理由はともあれ、今日は歴史的な日として後世まで語り継がれるのは間違いない」
「2030年9月24日、逢魔藍大がA国要らない宣言をするって?」
「違う、そうじゃない。と言いたいところだけどそれも多分歴史に残るだろうよ。俺が言いたいのは核兵器放棄の方だ」
そのように茂が言っていると、掲示板を読み漁っていた舞が顔を上げる。
「藍大~、掲示板では魔神様ショックって言葉で一連の騒動が名付けられてるみたいだよ~」
「どことなくオイルショックを連想させる呼び名になってないか?」
「まあ、世界中で喜ぶ声もあれば阿鼻叫喚な所もあるだろうからショックで間違いないだろ」
藍大が魔神様ショックはどうなんだと不満そうに言えば、茂が仕方ないじゃないかと宥めた。
『ご主人、僕のことをモフモフしてリフレッシュしてね』
「ありがとな」
「クゥ~ン♪」
リルがモフモフされて気持ち良さそうにしているが、こうなるのは藍大に対してだけだ。
口が裂けても他のモフラー達にはこんなことは言わないだろう。
藍大が落ち着いた頃に伊邪那美の声によるアナウンスが藍大の耳に届く。
『おめでとうございます。逢魔藍大の発言で世界平和に向けて大きく前進しました』
『報酬として月読尊が完全復活しました』
『地下神域がアップグレードされます』
アナウンスが終わった直後、リビングに月読尊が現れる。
「あっ、月兄じゃん。復活おめでとう」
「藍大、復活させてくれたことを感謝します。ようやく僕もここの食卓で食事できるよ」
「楽しみにしてたんだ?」
「勿論です。いつも母上達が地上で食べてる間、僕は楠葉と一緒にお供え物を静かに食べてますから」
藍大の祖母である国生楠葉は5柱の神に仕えることを生き甲斐にしており、食事の時間は地下神域を出られない神と食事をするようにしていた。
楠葉と静かに食べる食事も決して嫌ではないのだが、やはり月読尊も両親や姉と一緒に供え物ではない本物を味わいたいようだ。
『月兄も食いしん坊ズに入る?』
「お誘いは嬉しいのですが、僕は母上達と違って食べる量が普通ですから厳しいでしょう」
リルの軽い勧誘に対して月読尊はやんわりと断った。
リルはちょっぴりしょんぼりしているけれど、サクラと仲良しトリオは月読の言い分に頷く。
「何事も適量が良い」
「そうなのよっ。無理して食べるのは駄目なのよっ」
「マスターの料理は美味しいですが、食べ過ぎたら大変なのです」
『ε=┌( ・д・)┘運動せねば』
「そうですね。僕も姉上が太らないように必死に運動してるのを見て、だったら食べ過ぎないようにすれば良いのにと何度も思いましたから」
女性陣の意見にうんうんと月読が頷いている一方、茂が燃え尽きていたので藍大が声をかける。
「おーい、茂? 大丈夫か?」
「最後の最後に月読尊復活とかマジで俺の胃を的確に攻め過ぎ。いや、月読尊の復活は嬉しいことなんだけど」
茂が今まで静かなのは不意打ちで月読尊が復活したからだった。
茂は明日も仕事があるので、藍大からお詫びにシャングリラ産の食材をお土産に包んでもらってから帰宅した。
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