第684話 兄さんはエリクサー病にかかっとるからしょうがないんよ

 クラン掲示板で”楽園の守り人”の方針を決まった直後、政宗が会議は終わったのだろうと判断して未亜達に近づいた。


「”楽園の守り人”の皆さんにお願いがあります。グラシャラボラスの捜索と討伐を依頼したいのです」


「「「やっぱり」」」


 未亜と健太、パンドラが口を揃えて同じ反応をした。


 政宗はそれを見て苦笑した。


 自分がそう頼むと未亜達が予想していたであろうことを政宗も承知した上で頼んだからである。


 未亜と健太は家族相手で判断基準が甘くなると判断してパンドラが窓口になる。


「もう報酬以上の仕事はした。DMUは追加でしれっとさっきよりも難易度の高い仕事を僕達に頼む訳だけど、それに対する報酬は何?」


「グラシャラボラスの死体とフロンティアで既にDMUが確保した領土の一部を”楽園の守り人”に割譲します」


「その権限が政宗にあるの?」


「芹江部長から許可を貰いました。”楽園の守り人”のメンバーが納得してもらえるならば良いとのことです」


 そこまで聞いた後、パンドラは<形状変化シェイプシフト>で九尾の白猫の姿から白い服を着た執事の姿に変身した。


「茂に電話したらスマホ貸して。僕が茂と話すから」


「・・・わかりました」


 パンドラは未亜の兄だからという理由だけで政宗を信用するつもりはないらしい。


 パンドラの意図を理解した政宗はスマホで茂に架電してからそれをパンドラに渡す。


『もしもし、天門さん?』


「もしもし、こちらパンドラ。政宗にスマホを借りてるよ」


『そのスマホからかかって来るとは思ってなかった。報酬の確認ってことか?』


「その通り。確認だけど、DMUが確保した領土の一部を割譲って茂が考えたの?」


『いや、天門さんだ。俺が考えた報酬じゃないって思って連絡したんだろ?』


「当然。茂が僕達にメリットのない報酬を出すとは思えないからね」


 電話越しに茂が苦笑しているのをパンドラの耳が聞き取った。


 メリットのない報酬だとパンドラが言ったのはDMUが確保した領土の位置が理由である。


 旧C国にシャングリラリゾートのようなある程度まとまった広さの領地を貰えるならまだしも、旧C半島国南部の一部だけ割譲されても管理するのが面倒なのだ。


 フロンティアに遠征している中小クランならそれでも大喜びしたかもしれないが、地下神域もあって土地に困っていない”楽園の守り人”が小規模の飛地があるのは不便だろう。


 パンドラが言外に政宗ってセンスないねと言われたような気がしたからこそ、茂は苦笑したのである。


『パンドラは報酬として何を望む? できる限り応じるつもりはあるぞ』


「グラシャラボラスの死体はそのままで飛び地を宝箱1個とチェンジ。手つかずのダンジョンを探索してるんだからまだキープしてるのがあるんじゃない?」


『ご明察。交渉材料になると思ってフロンティアでキープしてるのがあるよ。それでグラシャラボラスを倒してくれるなら快く宝箱を報酬にするよ』


「交渉成立だね。茂は話がわかるね。それじゃあ、政宗に説明よろしく」


『わかった。政宗に代わってくれ』


 パンドラは政宗にスマホを返し、政宗は電話を受け取って茂から領地の代わりに宝箱を渡すようにと指示を受けた。


 政宗としてはここで宝箱を渡したら他のクランに対する虎の子の交渉材料がなくなると思ったが、上司からの命令ではNOとは言えない。


 結局、政宗はパンドラからの評価を下げるだけに留まった。


 パンドラは報酬の交渉が終わったため、未亜達を連れてDMUの出張所を出た。


 ワイバーンの姿に変身して未亜達を背中に乗せて空を飛び、周りに身内しかいなくなったところで未亜が口を開いた。


「兄さんはエリクサー病にかかっとるからしょうがないんよ」


「エリクサーを最後まで使わずに行っちゃうやつか。俺なんてここだって思ったら我慢しないで使っちゃうけどな」


「ウチもそうや。下手な我慢でゲームオーバーとか嫌やし。兄さんはM気質あるからそういう時に無理しちゃうねん」


「エリクサー病は他所でやってる分には良いけど報酬の交渉でされる側としては許せない。だから僕は茂に直接交渉した」


「「さすパン」」


 未亜と健太ならあそこまでストレートに宝箱をくれとは言えなかったため、流石パンドラと称賛した。


 この話は終わってしばらくグラシャラボラスを探していると、未亜が気になるモンスターを見つけた。


「なぁ、あそこにいるゴブリンおかしいと思わへん?」


「ん? おかしいな。ゴブリンなのに滅茶苦茶ゴブリンよりも強そうなモンスター達を従えてるじゃん」


「未亜、褒めてあげる。グラシャラボラスじゃないけど良い感じに強いモンスター見つけたじゃん」


 そう言ったパンドラの目にはゴブリンのステータスが別のモンスターのものに見えていた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ロノウェ

性別:雄 Lv:85

-----------------------------------------

HP:2,000/2,000

MP:1,980/2,000

STR:1,600

VIT:1,200

DEX:2,000

AGI:1,800

INT:1,600

LUK:1,300

-----------------------------------------

称号:大災厄

   臆病

アビリティ:<魔法模倣マジックコピー><創魔武器マジックウエポン><武器精通ウエポンマスタリー

      <形状変化シェイプシフト><敵意押付ヘイトフォース

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:綺麗な腰蓑

備考:変身中(ゴブリン)

-----------------------------------------



 上空からロノウェの姿とステータスを確認した後、パンドラはその情報を未亜達に伝えた。


 パンドラから情報を聞いた未亜と健太の反応は違った。


「ゴブリンにしては強そうなんて思ってたら滅茶苦茶強いやんけ」


「魔法系アビリティをコピーできるの羨ましい」


 未亜が外見に騙されるどころだったとホッと息を吐く一方、健太は魔術士として<魔法模倣マジックコピー>を保有していることに憧れた。


 <魔法模倣マジックコピー>があれば自分よりもINTの低いモンスターの魔法系アビリティをコピーしたい放題である。


 健太も四次覚醒のおかげで使える魔法は多くなったが、いくらでもコピーできると知れば健太が憧れるのも当然と言えよう。


「”大災厄”なら倒さないとね。あれは仕事の範囲外だけど、その分好きにして良い訳だし」


 パンドラはロノウェを見てニヤリと笑みを浮かべた。


 ロノウェは上空に自分達を見下ろす未亜達を見つけて慌てて攻撃を開始した。


「総員攻撃!」


 ロノウェの指示によって地上にいるモンスター達が一斉に攻撃を仕掛けて来る。


「ウチに任せとき!」


 それだけ言って未亜は魔力矢を放ってそれを分裂させた。


 未亜の攻撃が地上のモンスター達の攻撃を打ち消してなお威力が残ってしまい、地上に落ちていく。


 その攻撃がモンスター達を適度に減らしていき、それを見ていた健太がハッと気づいた。


「しまった。こうしてる間にも俺の出番がなくなっちゃうじゃん! 俺も戦うぜぇぇぇ!」


 自分でテンションを上げた健太がマルチコッファーから魔弾を連射していく。


「冗談じゃない」


 ロノウェは一方的にやられて堪るかと変身を解除して元の姿に戻る。


 その姿とは黒い執事服にモノクルをかけたイケオジの悪魔であり、地上にいては狙い撃ちされてしまうと思って未亜達と同じ高さまで飛んで来た。


「キャラ被りは許さない」


「ごぱっ!?」


 パンドラが<負呪破裂ネガティブバースト>をロノウェにぶつけて地面に墜落させた。


 パンドラとロノウェではレベルが15も離れており、パンドラのINTはロノウェよりも高い。


 そのせいで<魔法模倣マジックコピー>は不発に終わってしまった。


 そんなロノウェに<憂鬱メランコリー>の効果がようやく効いて来た。


「止せ! 来るな! 止めろ!」


「折角なんだから回収できる物が多い方が良い」


 <憂鬱メランコリー>の効果に苦しむロノウェはもうパンドラにとって敵に値しない。


 着地してからパンドラは九尾の白猫の姿に戻り、<熔解刃メルトエッジ>でロノウェにとどめを刺した。


 魔石を取り出して飲み込むとパンドラはご機嫌になった。


「パンドラ、どんなアビリティを会得したんや?」


「<全耐性レジストオール>が<全半減ディバインオール>になった。色んな意味で攻撃が通りにくくなるのは良いことだよ」


「せやな」


 パンドラがロノウェの死体を回収した直後、モンスターの遠吠えが未亜達の耳に届いた。

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