第682話 性別:司なフレンズってことか

 未亜達が連れ帰って来た3人組に会議室で事情聴取を行うことになった。


 その場にいる全員の耳に翻訳イヤホンをセットし、3人組については椅子に座らせてロープで拘束してある。


 後でちゃんと報告できるように記録を取る準備ができたところで政宗がパンドラの方を向いて頷く。


「3カウントで<停止ストップ>を解除するよ。3,2,1,0」


 パンドラが<停止ストップ>を解除した瞬間に3人組はぎょっとした表情になる。


『サイクロプスは何処だ!? 取り巻きのモンスターは!?』


『ここは何処よ!?』


『いつ捕まったの?』


 3人組は1人が背の高い男性、1人が平均的な体型の女性、もう1人が顔も体つきも中性的でどちらかわからない者で構成されている。


 日本側は代表の政宗が話しかける。


「ここは日本が占領するフロンティアのDMU出張所です」


『何を言っている? ここはSK国だったはずだろ?』


『私達が集落から出て来ないからって馬鹿にしてるわね?』


博文ブォエン依依イーイー待って。この人達は嘘をついてない』


ナー、鑑定したのか?』


『うん。ここは確かにフロンティアのDMU出張所だった』


 娜と呼ばれた中性的な者はこの状況に驚いているようだけれど、それでも残り2人よりは落ち着いていた。


 娜はこの話から鑑定士なのだろうと推察し、健太はこっそりパンドラに話しかける。


「娜って人は鑑定士? というか男女どっちだ?」


「鑑定士だよ。その割にはかなり鍛えてるみたいだけどね。性別は男」


「性別:司なフレンズってことか」


「納得や」


 健太とパンドラの話を聞いて未亜もなるほどと頷いた。


 その会話は政宗の耳にも届いていたが、他の職員全員が聞こえていた訳でもないようだと判断して政宗は改めて3人組に名乗らせることにした。


「博文さんと依依さん、それから娜さんにも名乗ってもらいましょう。勿論どこの所属でどの職業技能ジョブスキルかも含めてです」


『こんな卑怯な真似をする奴等に誰が名乗るか!』


『そうよ! 卑怯者に名乗る名前はない!』


『名乗った方が良い。あそこの猫が強過ぎる。下手に機嫌を損ねないように名乗るべき』


 娜はパンドラのこともしっかり鑑定しており、その実力を知って絶対に逆らってはいけないと判断した。


 未亜や健太、アスタをスルーして自分だけ圧倒的強者認定されたことにパンドラは機嫌を良くした。


「パンドラさんや、偉いご機嫌やないですか」


「何か言った?」


「な、なんも言ってへんで」


 目の笑っていない笑みを浮かべたパンドラが尻尾ビンタの体勢を見せれば、未亜はお仕置きが嫌で口を閉じた。


 そんなやり取りが行われたせいで娜はやはりパンドラが一番強いのだと確信した。


 娜の立場は博文と依依よりも上にあるらしく、2人は娜の意見に従う。


胡博文フー・ブォエン。クンルンの里に所属する兵士だ』


林依依リン・イーイー。同じくクンルンの里に所属する拳闘士よ』


『僕は李娜リー・ナー西王母シーワンムー様を祀るクンルンの里の長の息子。そちらの猫さんが言った通り鑑定士だ』


 娜の言葉を聞いた瞬間に未亜と健太はピンと来た。


「こんな所に神の関係者(仮)がおるなんてなぁ」


「偶にはがっつり外出してみるもんだ」


 フロンティアに護衛することを外出で片付けて良いのかはわからないが、普段と違う行動をしなければ新しい発見を得られる可能性が低いのは間違いない。


「とりあえず、後でクラン掲示板に報告を書き込んどいて。もしかしたら伊邪那美様から何か言ってくるかもしれないし」


「せやな」


「了解」


 今まで国同士の関係が良くなかったこともあって旧C国の神に関する情報は少なかったので、西王母の情報が得られるのは未亜達にとってラッキーだった。


 それはそれとして、政宗はひとまず事情聴取を続ける。


「貴方達がフロンティア付近にいた理由とこちらにモンスターを押し付けようとしていた理由について話してもらいましょう」


『これは僕から話す。この近くに来たのは偶然。僕達の里が”大災厄”に襲われて逃げて来た結果、道中でアダマントサイクロプスが率いる群れに遭遇してどうにかしようと考えた。こちらの戦力は少ないから、余裕のありそうなそちらに任せて逃げようとした。生き残るためだから反省も後悔もしてない』


 娜は自分が話をした方が手っ取り早いと判断して自ら進んで話した。


「潔く話してくれますね。こちらはその方が手間が省けるので歓迎しますが。それで、”大災厄”とはレラジェですか? グシオンですか?」


『どちらでもない。グラシャラボラスっていう空飛ぶヘルハウンドみたいなモンスターだ』


「フロンティアにはまだ”大災厄”がいたということですか。これは至急上に報告しないとヤバいですね」


 政宗は想定外の悪いニュースが入ったため眉間に皺を寄せた。


 日本とシャングリラリゾートにはモンスターが入り込めない結界が展開されているが、フロンティアにはそれがないからだ。


 政宗には今聞いた話の内容だけではクンルンの里の総力がどれぐらいかわからない。


 里を潰すぐらい他の”大災厄”もやっているし、まだ”災厄”のモンスターでもできなくはない。


 仮に今襲われたなら未亜達がいるからどうにかなるかもしれないけれど、未亜達が日本に帰ったタイミングでグラシャラボラスにフロンティアを襲撃されたら倒せる者がいないだろう。


 ここまで聞いていて健太が首を傾げた。


「なぁ、今の今までグラシャラボラスが”大災厄”として表に全然出てこなかったのはなんでだ?」


「確かにそうやな。ブエルやグシオン、レラジェみたいに全く話題にならんっちゅうのは変やで」


「ただ単に目撃者が残らないぐらいサーチ&デストロイが得意なだけじゃないの? それか旧C国の政府やDMUが海外への嫌がらせで情報を隠蔽してたか」


「「あぁ・・・」」


 パンドラの予想に健太と未亜がそれはあり得ると頷いた。


 政宗はパンドラの予想を娜にぶつけてみることにした。


 クンルンの里がどこにあるかは知らないし、SK国が滅びたことを知らなかった時点で最近の変化に疎い可能性は高いがそれでも訊かない訳にもいかないのだ。


「グラシャラボラスに襲われた時、貴方達以外皆殺しにされて情報が外に出なかったんですか?」


『奇襲かどうかと言われると微妙。少なくとも里周辺でモンスターの食い残しみたいなものはグラシャラボラスに襲われる前にも発見できた。父上やその周りの者のプライドが高く、他に頼ろうとはしてなかった』


「それでは、旧C国内でも情報交換はしっかりできていなかったってことですかね」


『そうだと思う。父上は政府やDMUが頭を下げるなら協力してやらんでもないとか言ってた』


 娜の話を聞いてその場にいる日本人全員が額に手をやった。


「流石やらかす大国はどこもプライドだけは高いですね」


「どうしましょうか。グラシャラボラスどころか他にも”大災厄”が存在してても不思議じゃないですよこれ?」


「芹江部長の胃をまた攻撃してしまいます」


「ブフッ」


 最後の職員のコメントに健太が笑ってしまった。


 茂が胃の痛みを抑えようと胃薬を飲むシーンを想像してしまったようだ。


 茂にとっては絶対に笑い事ではないけれど、茂の関係者として笑ってしまうのは仕方がない。


「娜さんはグラシャラボラスについてどこまでわかりますか? また、他にグシオンやレラジェ以外に”大災厄”のモンスターを知ってるならば全て話して下さい」


『構わないけどこちらにも条件がある』


「条件? この状況で貴方達が条件を付けられるとでも思ってるんですか?」


『そちらにすれば些細なもの。僕達を日本で保護してほしい』


「それは約束しかねます。上席に確認しなければできるともできないとも言えません」


『わかった。まずは上席に相談してほしい。それを約束してくれるなら知っている限りの情報を話す』


 娜は博文や依依、それ以外の旧C国人と違ってプライドが邪魔をして話をできない人物ではなかった。


 最優先事項は自分達の身の安全であると設定し、そのためならば情報交換に応じるぐらいにはプライドが高くないようだ。


 博文と依依は日本人に頭を下げて保護してもらうなんてまっぴらだと顔に書いてあるけれど、自分達よりも偉い娜の決定に口を挟めないらしい。


 その後、政宗は娜できる限り情報を引き出してまとめた。


 政宗はそれを茂に報告し、未亜達は同じ情報をクランの掲示板で共有することにした。

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