第613話 愚弟をテイムしてくれてありがとうございました

 対話で説得するのは難しいと判断し、藍大は須佐之男命の憑依したシックスゲーツを改めてモンスター図鑑で調べた。



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名前:なし 種族:シックスゲーツ

性別:雄 Lv:50

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HP:1,200/1,200

MP:1,500/1,500

STR:1,300

VIT:1,400

DEX:900

AGI:900

INT:1,500

LUK:1,000

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称号:神の器

アビリティ:<多重思考マルチタスク><螺旋水線スパイラルジェット><紫雷波サンダーウェーブ

      <水壁ウォーターウォール><自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:憑依(須佐之男命)

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 (Lv50にしては強い。その程度だな)


 須佐之男命の戦力分析を終えて藍大はそのように判断した。


 倒すのは簡単だが、倒してしまった場合に憑依している須佐之男命がどうなるかわからない。


 藍大達は須佐之男命を無力化するしかなかった。


『『『くたばれ!』』』


『『『もしくはワイの糧になれ!』』』


「寝言は寝て言え」


 須佐之男命が攻撃を仕掛けようとしているのを察知し、藍大はゲンの力を借りて<強制眼フォースアイ>で須佐之男命を地面に押し付ける。


『くそ!』


『体が!?』


『なんで動かねえんだ!』


『ふざけんな!』


『ワイを解放しろ!』


『母ちゃんに会わせろ!』


 須佐之男命は体が動かなくとも口は動かせるので悪態をついたり要望だけ述べた。


 そんな須佐之男命に教育的指導が必要だと考え、藍大はリルに閃いたアイディアが実行可能か確かめる。


「リル、須佐之男命を殺さない程度に手加減して<神裂狼爪ラグナロク>って使える?」


『難しいけどできるよ』


「そうか。じゃあ、須佐之男命を教育しよう。リルが首を落としたら奴の再生を待つ。再生したら首を落とすを繰り返す。<自動再生オートリジェネ>が発動しなくなるまでMPを使い切ったら、フィアの<讃美歌ヒム>で回復させつつ攻撃を続ける」


『わかった!』


『は~い!』


 藍大の作戦はリルの力加減が鍵となる。


 神を殺せる攻撃を手加減して何度も使い、須佐之男命にどちらの立場が上なのかわからせる訳だ。


『始めるよ~』


 今から恐ろしい教育的指導を行うとは思えぬ呑気な口調でリルが宣言し、そのままギリギリまで手加減した<神裂狼爪ラグナロク>で須佐之男命の首を1つ落とす。


『『『『『うがぁぁぁぁぁ! 首がぁぁぁぁぁ!』』』』』


 首を斬り落とされた痛みで残り5つの頭が苦悶の叫び声を上げる。


 <自動再生オートリジェネ>が発動して斬り落とされた首が再生したら、再びリルが<神裂狼爪ラグナロク>で斬り落とす。


 これを何度も繰り返すことで須佐之男命は<自動再生オートリジェネ>が発動できなくなるぐらいMPを消耗した。


『もう殺せ!』


『殺してくれ!』


『殺されて生え変わるのは嫌だ!』


『楽になりてえ!』


『もう終わらせてくれよ!』


 残った5つの頭が殺してほしいと懇願するが、藍大達の教育は終わらない。


「フィア、頼む」


『任せて~』


 フィアの<讃美歌ヒム>が須佐之男命のHPを回復させる。


 それを確認してからリルが<神裂狼爪ラグナロク>で首を1つ斬り落とす。


『『『『ぎゃあぁぁぁぁぁ!』』』』


 カウントダウンが始まる。


 フィアは<讃美歌ヒム>で須佐之男命の首を再生させたりせず、あくまでHPの回復に努めた。


 それにより、リルに斬り落とされた首はもう再生しない。


 残り3つ、2つと減って首が最後の1つになった時、須佐之男命の心は折れた。


「許してくれ。ワイは全面的に負けを認める。兄貴の舎弟でもパシリでもなんでもなるからもう止めてくれ。ワイは兄貴に忠誠を誓う。悪かった」


 そう言った直後にシックスゲーツの体から白い光球が現れ、それが神域で出会った時と同じ須佐之男命の姿になって土下座した。


『おめでとうございます。逢魔藍大が須佐之男命を屈服させました』


『逢魔藍大が称号”須佐之男命の兄貴”を会得しました』


『天照大神の力が10%まで回復しました』


『報酬としてフィアのアビリティ:<応援歌チアーソング>がアビリティ:<火神応援エールオブアグニ>に上書きされました』


 (フィアのアビリティが強化されるなんてラッキー!)


 藍大はとんでもない称号をスルーしてフィアが神の名を冠するアビリティを会得したことを喜んだ。


 しかし、すぐに気を引き締めて須佐之男命が余計なことを考える前に収納リュックから木刀を取り出した。


 この木刀は黄金の林檎の樹の枝をドライザーが加工した物で、須佐之男命をこれに宿らせるつもりなのだ。


「須佐之男命、これに宿れ」


「わかった」


 須佐之男命が木刀に宿ったのを確認すると、藍大はそれを収納リュックの中にしまった。


 やっと須佐之男命の保護に成功したため、藍大は大きく息を吐いた。


『ご主人、お疲れ様』


「リルもな。みんなも協力ありがとう」


『問題ない』


「お疲れ様ニャ」


『大変だったね~』


 須佐之男命を落ち着かせるまでに時間がかかったせいで全員疲れていた。


 それでもリルは藍大が新しく手に入れた称号を鑑定して知り、嬉しそうに尻尾を振った。


『すごいやご主人! ”須佐之男命の兄貴”だって!』


『流石はボスだ。鼻が高いぞ』


「半端ないニャ。神兄貴ニャ」


『パパはやっぱり世界一!』


「あぁ、そんな称号もゲットしちゃったんだった」


 考えないようにしていたけれど、リル達にここまで喜ばれてしまえば無視することもできない。


「リル、その称号の効果も教えてくれないか?」


『任せて。須佐之男命からの好感度上昇と一部の神からの好感度もしくは警戒度上昇だね』


「神々に目を付けられた訳だ」


『ご主人が地球のトップに君臨するのも秒読みだね』


「君臨しないから」


 リルがとんでもないことを言われて藍大はきっぱりと否定する。


『そうなの? ご主人が地球を支配したら僕達は誇らしいよ?』


「地球を掌握して各国の面倒を見ることになってみろ。我が家の食事を作る時間が削られちゃうぞ」


『大変だよ! それは良くない!』


「それは困るのニャ!」


『パパのご飯が食べられなくなるのは嫌だ!』


 食いしん坊ズは藍大に詰め寄る。


 そんな食いしん坊ズの頭を撫でて落ち着かせた後、藍大達は八坂ダンジョンで他にやることもないので帰宅した。


 帰宅してすぐに藍大とリルは地下神域に向かったが、地下神域に着いた途端に藍大は天照大神に抱き締められた。


「天姉、いきなりどうした?」


「愚弟をテイムしてくれてありがとうございました」


「テイムしてないからな? 教育したら忠誠を誓われただけだ」


「それはモンスターのテイムと何が違うのです?」


 天照大神が純粋な目をして首を傾げるけれど、藍大は断固として天照大神の言い分を認めるつもりはない。


「いやいや、全然違うから。リルやサクラ達と須佐之男命を一緒にすんなよ」


「・・・それもそうですね。失礼しました」


 聞き分けの悪いマザコンの弟と賢くて頼りになるリル達を一緒にしてはいけないと判断したらしく、天照大神は藍大に謝罪した。


 天照大神に離れてもらうと、藍大は気になったことを訊ねた。


「伊邪那美様と伊邪那岐様は何処行った? それと月兄も」


「お母様が愚弟の言葉にショックを受けて運動しており、お父様と月読尊もそれに付き合っています」


「ビンタするぐらい怒ってたもんな」


「まったく困った愚弟です。藍大、従順になった愚弟を見てみたいです。見せてもらえませんか?」


「わかった」


 藍大は収納リュックから須佐之男命が宿った木刀を取り出し、その中から着流しを着て刀を持った悪ガキの姿をした須佐之男命が現れた。


『おめでとうございます。逢魔藍大が須佐之男命をシャングリラの地下神域まで護衛することに成功しました』


『報酬として地下神域に海エリアが追加されます』


「海が増えたのか。海産物も獲れたりして」


『マグロいるかな!?』


「後で見に行こうな」


『うん!』


 リルは肉も良いけどマグロも食べたいと思ったらしく、新設された海に期待する。


 嬉しそうなリルを愛らしく思って藍大はリルの頭を優しく撫でた。


「リルさん、もしもお望みならマグロを手配するぜ?」


「そんなことができるのか須佐之男命?」


「へい。兄貴と兄貴が頼りにするリルさんのためなら用意するぜ」


「じゃあよろしく」


「任せてくれ」


 藍大に従順な須佐之男命を見て天照大神は自分の目を疑った。


「これがあの愚弟ですって?」


「なんだ姉ちゃん。もう引き籠らなくて良いのか?」


「おい、天姉を虐めるな。後が面倒だろ」


「すまん兄貴。姉ちゃんも悪かった」


「えぇ・・・」


 須佐之男命が素直に謝ったことは天照大神にとって衝撃でしかなかった。


 その後、須佐之男命に母ちゃんは太ってないと言われていつも通り昼食をいっぱい食べる伊邪那美の姿が逢魔家で見られたらしい。

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