第51章 大家さん、三貴子を探す

第603話 さっきのだらけた服装は省エネだったのかニャ?

 時が少し経って11月になった。


 日本では国内のダンジョン全てが掌握されただけでなく、藍大が伊邪那美と伊邪那岐を復活させたことが発表されていた。


 いい加減日本に神がいないと言い張るのは無理があったこと、国内の冒険者達が藍大なら神の加護を貰っているだろうと予想していたので公表したのだ。


 伊邪那美と伊邪那岐が復活したと宣言する動画を”楽園の守り人”とDMUが共同で撮影すれば、信じない冒険者なんていない。


 むしろ世論はやっと発表したかという感じだったりする。


 ついでに言えば諸外国にダンジョンを掌握しておかなければ今防げているスタンピードも防げなくなる可能性があると通知する意図もあり、それを受けた諸外国はダンジョン探索により一層力を入れることになった。


 そして、日本の冒険者にはDMUから2つの選択肢が与えられた。


 1つ目は日本国内で今まで通り探索して生計を立てるもの。


 国内トップクランは掌握したダンジョンからモンスター素材を安定供給して国の発展に協力しているため、こちらを選んでいる。

 

 2つ目は海外派遣プログラムに参加するもの。


 海外派遣プログラムはDMUが取り仕切っており、各国からの依頼に応じてDMUがプログラムに参加する冒険者を派遣するという取り組みだ。


 このプログラムでは冒険者の戦闘ランクによって派遣される場所が決まっているため、日本の冒険者に決して無謀な真似はできないようになっている。


 中堅中小クランや無所属冒険者の場合、日本で探索を継続しても上を目指せるとも限らないから率先してプログラムに参加する傾向にある。


 そんな風に日本が舵取りをしている訳だが、藍大は11月3日の土曜日にリルとゲン、三聖獣を連れて宮崎県の天岩戸神社にやって来た。


 10月は神の復活発表やら国内外の対応方針をDMUやトップクランと共有するのにドタバタしてしまい、三貴子の探索が遅くなってしまった。


 天岩戸神社には”グリーンバレー”の結衣が掌握する天岩戸ダンジョンがあるだけでなく、天照大神のゆかりの地であることからその所在を探しに来たのだ。


「リル、何か怪しい物はないか?」


『あると思うよ。伊勢神宮では何も感じなかったけど、ここには何かある感じがする』


「フィア、何か感じるかニャ?」


『感じないよ。ミオは?』


「感じないニャ。リルの嗅覚は本当にすごいニャ」


 リルが辛うじて感じ取れるぐらいならば、ミオやフィアでは感じ取ることはできないようだ。


 ドライザーは沈黙を守っているあたり、何もピンと来るものがないのだろう。


「ゴルゴンはご神体の天岩戸にきっと何かあるって言ってたよな」


『そうだね。僕の鼻もご神体の方から微弱な反応をキャッチしたよ』


「ゴルゴンの予想通り?」


『多分ね。行ってみようよ』


 藍大はゴルゴンの予想とリルの嗅覚を頼りにご神体のある場所に移動した。


 2025年にダンジョンが出現した大地震の影響で、ご神体の場所は一般人では辿り着けないぐらい岩だらけになってしまった。


 それでもリルに乗ったりドライザーやフィアのように空を飛べば目的地まで容易に辿り着けた。


「光ってる?」


『光ってるね』


『幻想的だ』


「ピカピカしてるニャ」


『でも弱ってるよ』


 藍大達が辿り着いた先にあったのは白く光る球であり、弱々しく点滅していることから残りのエネルギーに不安があるようだ。


 藍大の目を通してその光景を見ていたのか、伊邪那美と伊邪那岐の声が藍大の頭に響く。


『見つけたのじゃ』


天照大神あまてらすおおみかみだよ』


「どうやらビンゴらしい。流石リルだな。ゴルゴンにも後でお礼しないと」


『ワフフン♪』


「愛い奴め」


 ドヤ顔のリルの頭を撫でた後、藍大達は消えかかっている光の球に近づいた。


『お父様・・・お母様・・・』


 弱った声が聞こえた瞬間、藍大達は光に飲み込まれてしまった。


 眩しさのあまり目を閉じたが、しばらくして目を開けてみると藍大達は白い空間の中にいた。


 藍大とリルにとってはお馴染みの空間だが、それ以外のメンバーにとっては初めてなので警戒していた。


『ボスの正面クリア』


「左側も問題なしニャ」


『右側も大丈夫だよ』


 ドライザーとミオ、フィアは藍大とリルを囲って状況を報告した。


「みんな、ここに敵は現れないから安心して良いぞ」


『そうだよ。ここにはきっと天照大神がいるだけだから』


「ここに来られる者達がいるとは驚きました」


 そう言って藍大達の前に突如現れたのは赤いジャージを着た黒髪ロングの女性だった。


 その女性はヘッドホンを首にかけており、クッションを抱えていた。


 どう見てもオフを満喫していたようである。


「伊邪那美様はあんなラフな服着ないのニャ。本当に神様かニャ?」


「あっ、しまった。これは外向きの服じゃなかった・・・」


 ミオの発言で自分の今の服装を思い出したらしく、目の前の女性が顔を真っ赤にして姿を消した。


 そして、10秒立たない内にいかにも神様が着そうな服装で現れた。


「よくぞここまで来られましたね」


『パパ、あの女がさっきの醜態をなかったことにしようとしてるよ』


「フィア、そう思っても口にしちゃ駄目だぞ」


 フィアの正直な感想に藍大が注意すると、その女性は羞恥心でプルプルと震えていた。


 リルはその流れを変えるように質問する。


『お姉さんは天照大神なの?』


「その通りですよ。私は天照大神と呼ばれる神です」


『そうなんだ~。僕はリル。ご主人の従魔で風神獣だよ』


「風神獣なのに従魔なんですか?」


『そうだよ。こっちが僕のご主人』


 リルが嬉しそうに藍大を紹介する。


「どうも。主人の逢魔藍大です。みんなの主人なだけでなく、伊邪那美様と伊邪那岐様の神子でもあります」


 藍大の自己紹介を聞いて天照大神は目を丸くした。


 しかし、これ以上の醜態は晒せないとすぐに正気に戻って藍大に近づき、あれこれよく観察して頷いた。


「お父様とお母様の気配が貴方から感じられたのはそういうことでしたか」


「信じてもらえるんですね。口で言うだけじゃ信じてもらえないと思いましたが」


「そもそも貴方達が私の神域に入って来れた時点で只者ではないでしょう。それに、貴方達が来てくれたおかげで消えかけていた私の力が多少なりとも戻ったのです。お父様とお母様の神子ならばそれも可能でしょうし信じますとも」


「さっきのだらけた服装は省エネだったのかニャ?」


「その通りですけどあの姿のことは忘れて下さい。良いですね?」


「無茶言わないでほしいニャ。あんな強烈な登場をして忘れろとか横暴だニャ」


 (ミオに全面的に同意だわ)


 いくら恥ずかしくても人前に出られない服装で出て来た天照大神が悪いのだから、藍大達にその記憶を消せと言われても困るのである。


 そんな時、藍大の両側に伊邪那美と伊邪那岐が現れた。


「無茶なことを言ってはならぬのじゃ」


「そうだね。いくらピンチだったとしても、人前に現れる時の装いくらい気を付けるべきだよ」


「お父様!? それにお母様も!?」


 突然両親が現れれば天照大神は驚きを隠せずに目を見開く。


「なんだ、最初から出て来ないから見守ってるつもりなのかと思ったよ」


「サプライズというやつじゃ」


「伊邪那美が天照大神を驚かせたいって言うから便乗してみた」


 なかなかに茶目っ気のある神達である。


「コホン、お父様もお母様もご無事で何よりです」


「そんな余所余所しい喋り方をしなくても良いのじゃ」


「そうだよ。折角久しぶりに会えたんだから、昔みたいに甘えても良いんだよ?」


「や、止めて下さい! これ以上私の威厳をなくさないで下さい!」


 伊邪那美と伊邪那岐が現れて天照大神はとてもやりにくそうだ。


 そんな彼女に追い打ちをかける聖獣が2体いる。


「最初からなかったのニャ」


『なかったよね~』


「なん・・・ですって・・・」


 天照大神は膝から崩れ落ちてしまった。


 そんな天照大神を藍大が励ます。


「元気を出して下さい。その内きっと良いことがありますよ」


「ありがとうございます。藍大、貴方がお父様とお母様の神子である以上、私と貴方は姉弟です。敬語は不要ですから気軽に話して下さい」


「わかった。それじゃ、天照大神って長くて呼びにくいから天照って呼んでも良い?」


「できればお姉ちゃんと呼んで下さい」


「なんで?」


 いきなりお姉ちゃんと呼んでほしいと神に頼まれればそんな疑問が生じるのも無理もない。


「リルにお姉さんと呼ばれて嬉しかったからですが何か?」


「・・・では間を取って天姉あまねえで」


「その呼び名も良いですね。採用します」


 どうしてこうなったと藍大が思ったのも仕方のないことである。

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