第597話 宝箱、見つけられる、うっ、頭がでござる・・・

 2階はだまし絵屋敷ではなく美術館と呼んだ方が良さそうな内装になっていた。


 通路の両脇には全身鎧の置物や絵画が並んでおり、通路の真ん中に立って仁王立ちするようなモンスターはいない。


「石像と絵画に注意してくれ。置物はリビングポーンLv65で絵画はアートマジシャンLv65だ」


 藍大がリル達に注意した途端、何も気づかずに通過する冒険者を奇襲する作戦だったそれらが慌てて藍大達の正面に立ち塞がった。


 奇襲プランAが駄目なら物量作戦プランBらしい。


『僕達の邪魔はさせないよ』


 リルが静かにそう言いながら<天墜碧風ダウンバースト>を発動したことにより、リビングポーンとアートマジシャンの混成集団は力尽きた。


『ルナがLv72になりました』


『お父さん強い!』


『ワッフン』


 ルナに尊敬の眼差しを向けられてリルは得意気である。


「次は私の番」


「わかった。次はリュカに任せよう」


 リュカがルナに褒められて羨ましそうにしているので、藍大はリュカの頭を撫でて次は任せると口にした。


 次の戦闘で自分もルナに尊敬してもらうんだとリュカは気合十分なようだ。


 戦利品回収を済ませて通路を進んで行くと、鎧の置物の武器が剣から槍に変わって絵画に描かれているのも魔術士から銃士に変わっていた。


「リビングランサーとアートガンナー。どっちもLv65だ」


「今から本気出す」


「む?」


 リュカの発言にモルガナがピクッと反応したが、それは彼女が基本的に楽をしたがる性質だからだろう。


 リュカは<深淵拡大アビスエンハンス>で強化した後、<影狼狩シャドウハント>で次々に敵を蹴散らしていく。


『お母さん忍者みたい!』


「ニンニン」


『わ~い!』


 ルナの感想をしっかり聞いていたらしく、リュカは自分が思う忍者らしいやり方で残りの敵を倒した。


 ルナはその姿を見て興奮しているようで尻尾がブンブンと振っていた。


『ルナがLv73になりました』


 (ゼルが余計なことを吹き込まないようにしなければ)


 リュカの動きやルナの興奮する姿を見て藍大はゼルが入れ知恵しないように注意することを決めた。


 ネットサーフィンが大好きなゼルは逢魔家で最もアニメや漫画等に詳しくなってしまった。


 その知識で既に色々と影響を与えてしまっているため、リュカとルナの純粋な忍者のイメージを壊さないようにした方が良いだろう。


 もしも注意しなかったら、ルナが今後忍者の真似をすると言った時にワッショイとか言い出しそうだと考えているからだ。


 リュカが満足そうな表情で戻って来ると、モルガナがリュカに話しかける。


「リュカ先輩、ゴウランガでござる!」


「『『え?』』」


「もう手遅れだったか」


 リル一家はモルガナが何を言っているのかわからず首を傾げていたが、藍大には言いたいことがわかったので顔が引きつっていた。


 モルガナは逢魔家のメンバーの中でゲンとゼルと特に仲が良い。


 それゆえ、既にゼルから布教されていたようだ。


「モルガナ、ちょっと」


「なんでござるか?」


 藍大に手招きされてモルガナはふよふよと藍大に近づく。


「リュカやルナにその忍者を教えちゃ駄目だ。良いね?」


「わかったでござる」


 モルガナは聞き分けの良い従魔だった。


 藍大に逆らうと美味しい料理をお預けされてしまうかもしれないと考え、布教したい気持ちよりも藍大の作る料理を優先したらしい。


 藍大とモルガナが話し込んでいる間、リルが何か見つけたようで藍大に話しかけた。


『ご主人、ちょっとこっちに来て』


「どうしたリル?」


『隠し部屋見つけた』


 そう言ってリルは足元の少しだけ出っ張った部分を踏んだ。


 その直後に左側の壁がバタンと音を立てて開いた。


『またお父さんに負けちゃった』


『ワフン。僕に探し物で勝つにはまだまだ経験が足りないよ』


「クゥ~ン・・・」


 ルナもリルに負けじと隠し部屋を探していたようだが、リルに先に見つけられてしまってしょんぼりしている。


「こればっかりはリルの独壇場だからなぁ。流石はリルだな」


「クゥ~ン♪」


 ルナの頭を撫でて励ました後、藍大は期待する視線を向けるリルの頭をわしゃわしゃと撫でる。


 リルがとても嬉しそうに鳴いているのを見てモルガナは頭を抱えていた。


「宝箱、見つけられる、うっ、頭がでござる・・・」


 八王子ダンジョンの増築をした時に宝箱をあっさりと見つけられたことを思い出したようだ。


 それから隠し通路を進み、藍大達は隠し部屋に辿り着いた。


「金貨の山でござる!」


「落ち着けモルガナ」


 隠し部屋には金貨や財宝が山のように積み上がっており、その中に宝箱が配置されていた。


 モルガナは金貨の山を見て興奮しており、持ち帰れるだけ持ち帰ろうと目が訴えていた。


「止めたのにはちゃんと理由がある。リル、説明頼む」


『任せて。モルガナ、この金貨やお宝は欲望の虜ってトラップだよ。金貨も財宝も拾えば拾うだけ白骨化が進んじゃうんだ。金曜日のシャングリラダンジョンでもこれが使われてるフロアがあるよ』


「酷いでござる! あんまりでござる! 期待させといて落とすとは悪魔の所業でござるよ!」


 モルガナは奥尻島ダンジョンの”ダンジョンマスター”はなんて性格が悪いんだと憤慨した。


 そんな時、リルが視線を感じてその方角を見ると巨大なズタ袋に手足が生えたような見た目の怪物がいた。


『ご主人、スプリガンLv70だよ!』


「このフロアの掃除屋か。欲望の虜とスプリガンの組み合わせってブラドの真似だよな」


『ダンジョンの構造にも著作権を導入してほしいのだ』


 藍大の頭の中にブラドの声が響いた。


 藍大を通して奥尻島ダンジョンのことを知り、自分のアイディアがパクられたことに不満があるようだ。


 そんなブラドは帰ってから慰めるとして、今は目先のスプリガンをどうにかしなければならない。


『ご主人、このスプリガンは私がやる!』


「わかった。自由にやって良いぞ。何かあっても俺達がフォローするから」


『うん!』


 スプリガンは<剛力投擲メガトンスロー>で欲望の虜をルナに投げつける。


 呪い避けのズタ袋を装備していることにより、スプリガンは欲望の虜の影響を受けないからこんなことができる訳だ。


『当たらなければ問題ないよ!』


 ルナはスプリガンの攻撃を躱して<深淵嵐アビスストーム>で反撃する。


 深淵が渦巻き荒れ狂う中心にいるスプリガンはガリガリとHPを削られるが、<剛力腕槌メガトンハンマー>で欲望の虜を散らしてルナの攻撃の威力を軽減した。


 そして、<等価交換エクスチェンジ>で欲望の虜の一部を戦槌ウォーハンマーに変えてルナに殴りかかる。


『隙だらけだよ!』


 ルナは<十字月牙クロスクレセント>をスプリガンに放ち、残りHPが僅かになっていたスプリガンはその攻撃で倒れた。


「アォォォォォン!」


 スプリガンを倒した達成感からルナは勝利の雄叫びを上げた。


『ルナがLv74になりました』


 アナウンスが止んだ時にはルナが藍大達の前にご機嫌な様子で戻って来た。


『勝ったよ!』


『お疲れ様。良い戦いっぷりだったよ』


「流石私達の娘だね」


 ルナは両親に褒められてご満悦である。


 藍大はルナを労ってからスプリガンの魔石を取り出してルナに与えた。


『ルナのアビリティ:<十字月牙クロスクレセント>がアビリティ:<輝狼爪シャイニングネイル>に上書きされました』


 ルナの体が少し大きくなったようだが、すぐに<収縮シュリンク>で自分にとって丁度良いサイズに戻った。


「ルナも聖獣になる力を秘めてるのかもな」


『私もお父さんみたいになりたい』


『そのためにはよく動いてよく食べてよく寝ないとね』


『うん!』


 (健康的で何よりだ)


 リルのアドバイスが健康な生活だったので藍大はほっこりした。


 その後、隠し部屋を出てボス部屋まで一直線に移動した。


 途中で現れた雑魚モブを蹴散らし、ボス部屋に突入した藍大を待ち受けていたのはメイスを持ったリビングナイトだった。


「ベルセルクレリックLv75。殴るのと回復が得意でタフなフロアボスだ」


「ま」


「モルガナ、帰ったら舞にハグされるぞ」


「まだ言い終わってないでござる! 冤罪でござる!」


「まだ言い終わってないと言ってる時点でアウトだ」


「しまったでござる」


 藍大とモルガナがそんな話をしていると、リュカがいつの間にか<深淵拳アビスフィスト>でベルセルクレリックを吹き飛ばしていた。


『ルナがLv75になりました』


「先手必勝」


『お母さん強い! ルナもああいうのやりたい!』


 リュカがドヤ顔で言ってのけるのを見てルナはリュカに憧れたらしい。


 先程はルナがリルに憧れていたが、今度はリュカに憧れるとは忙しい。


 戦利品回収の後、ベルセルクレリックの魔石は功労者のリュカに与えられた。


『リュカのアビリティ:<剛脚月牙グレートクレセント>がアビリティ:<深淵月牙アビスクレセント>に上書きされました』


「リュカの蹴りがまた強くなったな」


「フフン」


 魔石の影響で強者の風格が増したけれど、藍大に撫でられて喜ぶリュカはやはりリュカのようだ。


 時間もまだ余裕があったので、藍大達はこのまま3階に進んだ。

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