第50章 大家さん、神の予想を超える

第591話 DMUの職人班にライバルが出現したかもしれない

 MOF-1グランプリから1ヶ月が経った9月22日の土曜日、モルガナが八王子ダンジョンを改築作業を終わらせた。


「殿、拙者の八王子ダンジョンを改築したでござる。殿にはテストプレイをお願いしたいでござる」


「テストプレイ? 良いぞ」


も設置したから楽しみにしててほしいでござる」


 宝箱という言葉を聞いた瞬間、リルが藍大の隣に颯爽と現れた。


『話は聞かせてもらったよ』


「リルも一緒に行く?」


『勿論だよ。宝箱が隠されたダンジョンは僕に対する挑戦だからね』


 このやり取りを通りすがったブラドが聞いて溜息をついた。


「モルガナよ、吾輩が忠告したというのに何故それを聞かぬのだ」


「拙者も”アークダンジョンマスター”でござる。リル先輩に挑んでみたいと思ったでござるよ」


「ならば己の未熟さを痛感するが良いのだ」


 それだけ言ってブラドは優月とユノの待つ部屋へと戻っていった。


 その後、藍大は四聖獣とゲンを連れて八王子ダンジョンの7階に移動した。


 以前の7階はモルガナの居場所だったが、今は中ボスを配置した階層に変わっている。


『ご主人、扉を開けるね』


「頼む」


 リルに<仙術ウィザードリィ>でボス部屋の扉を開けてもらうと、その中にはトリニティワイバーンが待ち構えていた。


『今日のお昼はステーキだね!』


「お肉だニャ!」


『お肉だ!』


「「「ウィア!?」」」


 威厳のある感じで出迎えようとしたが、まさかの食肉扱いにトリニティワイバーンは動揺を隠せなかった。


『お肉~!』


 リルが<天墜碧風ダウンバースト>であっさりとトリニティワイバーンを凍らせてしまった。


 このボス部屋にいたトリニティワイバーンはLv90だったのだが、リルにかかれば一撃で倒されてしまった。


 シャングリラダンジョンの雑魚モブモンスターという立場から八王子ダンジョンの中ボスになれたけれど、リルの前では等しく雑魚モブだったようだ。


『ご主人、お肉ゲットしたよ』


「よしよし。今日の昼はリクエスト通りステーキにしてあげよう」


『やったね!』


 リルは嬉しくて尻尾をブンブンと振るった。


 藍大達は冷凍保存されたトリニティワイバーンを回収してから8階へと進んだ。


「SA〇UKEじゃね?」


 8階の入口は8つある斜めに立てかけられた足場を飛び移りながら進むエリアになっていた。


 足場から落ちると池のようだが、その池が普通の水なのか怪しい。


『ご主人、この池は落ちたら触れた時間だけ疲れるんだって』


「やっぱり普通の水じゃなかったか」


 リルが<知略神祝ブレスオブロキ>で鑑定した結果を聞き、藍大はやはり罠を仕掛けていたかと苦笑した。


『ご主人、ミオと一緒に僕の背中に乗ってよ』


「そうさせてもらおうかな」


「失礼するのニャ」


 藍大とミオを乗せたリルがひょいひょいと八艘飛びを披露して突破し、ドライザーとフィアはその後に空を飛んでこのエリアを突破した。


『楽しかったね。もっとやりたいな』


「地下神域にアスレチックゾーンを作ってもらえないか伊邪那美様に頼んでみようか」


『賛成! いっぱい運動していっぱい食べる!』


『名案じゃな。運動不足解消に丁度良いのじゃ。準備するから楽しみにしてておくれ』


 藍大達の様子を見守っていたらしく、藍大とリルの話を聞いて伊邪那美はそれを採用することにしたようだ。


 帰ったら地下神域にSA〇UKEのセットが準備されていてもおかしくないだろう。


 足場エリアの次に藍大達を待ち受けていたのは逆走するベルトコンベアーだった。


 ベルトコンベアーの両脇の壁と天井は棘だらけであり、壁やを蹴って進むことはできない。


『また楽しそうなギミックだね!』


「モルガナは一体何を目指してるんだ?」


 リルは嬉しそうにしているが、藍大はモルガナの意図が読めなくて困惑した。


 ドライザーとフィアは飛んで進み、藍大とミオはリルの背中に乗ったまま進む。


 リルだから大して時間をかけずに突破できたが、人間の冒険者だったらこう簡単にはいかないはずだ。


 足場エリアで池に落ちれば疲労した状態で挑む訳だから、逆走するベルトコンベアーは冒険者をもっと疲れさせる仕掛けになっていると言えよう。


 それでもこの2つのエリアで飛べるモンスターが冒険者を襲わないだけまだマシだろう。


 もしもここでモンスターが投入されれば、この先に進める者は少ないのではないだろうか。


 と思っていたが、モルガナの用意した8階は決してやさしくなかった。


 逆走するベルトコンベアーエリアを突破した藍大達を待ち受けていたのはモンスターハウスだった。


「ツインヘッドラプトルLv90の群れか」


「出番が来たニャ!」


『いっぱい焼いちゃうよ!』


『ボス、命令オーダーを』


「ミオとフィア、ドライザーで掃討せよ。リルは俺の護衛だ」


「了解ニャ!」


『は~い!』


『承知した』


 ミオ達は嬉々としてツインヘッドラプトルを倒していく。


 素早いだけでなく、肉食で獰猛なツインヘッドラプトルだがミオ達にかかれば容易く屠られてしまう。


 3分もかからずにツインヘッドラプトル達は物言わぬ屍になった。


「みんなお疲れ様。よくやったな」


「活躍できて良かったニャ」


『フィアもいっぱい倒したの』


『問題ない』


 藍大がミオ達を労っていると、リルがモンスターハウスの入口付近の壁を<神裂狼爪ラグナロク>で破壊した。


 その壁の奥には宝箱が隠されていた。


『ご主人、宝箱見つけたよ~』


「モンスターハウスの入口付近か。地味にチェックしない所だよな」


『ワフン、僕を騙せると思ったら大間違いだよ』


「リルに探せない物はないもんな」


「クゥ~ン♪」


 藍大が宝箱を見つけてご機嫌なリルの顎の下を撫でると、リルは嬉しそうに藍大に身を寄せて甘えた。


 宝箱を収納リュックにしまい込んだ後、モンスターハウスの先の通路はボス部屋に向かって一直線だった。


 しかし、3つの頭を持つスピノサウルスが藍大達の行く手を阻む。


「トライヘッドスピノLv95。鶏冠から雷を放てるぞ」


『次は僕の番だよね?』


「そうだな。リルのターンだ」


『雷なら僕の方が上だよ』


「「「ギャァァァァァ!?」」」


 リルの<雷神審判ジャッジオブトール>を受けてトライヘッドスピノは悲鳴を上げて倒れた。


 ちょっと雷を使えるからと油断していたようだが、リルの使う<雷神審判ジャッジオブトール>と比べれば児戯に等しい。


 油断したトライヘッドスピノは上には上がいるということをその身をもって知る羽目になった。


『一丁上がり!』


「お疲れ様」


 リルがニコニコしながら言うものだから、藍大も微笑みながらその頭を撫でてやった。


 トライヘッドスピノの解体を済ませ、取り出した魔石はドライザーに与えることにした。


「ドライザー、魔石だ」


『かたじけない』


 ドライザーがトライヘッドスピノの魔石を飲み込むと、ドライザーの体の光沢がより一層上品なものに変わった。


『ドライザーのアビリティ:<創岩武装ロックアームズ>がアビリティ:<鍛治神祝ブレスオブヘパイストス>に上書きされました』


『おめでとうございます。四聖獣の半数が神に興味を持たれました』


『初回特典として伊邪那岐の力が80%まで回復しました』


『報酬として逢魔藍大の収納リュックに神栗しんりつの種が贈られました』


「ドライザーが神に祝福された!?」


『ドライザーも僕と一緒だね』


『この力、大切に使わせてもらう』


「羨ましいニャ! ミーも神様に祝福されたいニャ!」


『フィアだって祝福してほしいの!』


 ドライザーが鍛冶の神として名高いヘパイストスの祝福を受けたため、ミオとフィアは自分も祝福が欲しいと主張した。


 (聖獣に神が注目してる? これから一体何が起きるんだ?)


 藍大はドライザーが強くなったことを嬉しく思う反面、時代が再び動きそうだと考えた。


 リルだけが同じ神話の神から興味を持たれただけならギリギリわかるけれど、神話に関係ないドライザーが関わりのあるアビリティを持っているとはいえヘパイストスに注目されるのには理由がありそうである。


 ちなみに、<鍛冶神祝ブレスオブヘパイストス>はMPを消費して自由に武装を創り出せるアビリティだ。


 武装を構成する物質も自由にできるだけでなく、何か素材があればそれを合成して消費MP量は減少する。


 勿論、神の力だから扱う素材は鉱物に留まらない。


「DMUの職人班にライバルが出現したかもしれない」


『ボスの命令とあらばどんな武器も防具も作ってみせよう』


「やる気満々じゃん」


『強化される前よりも創作意欲が増したように思える』


「帰ったら試しに何か作ってもらおうか」


『楽しみだ』


 ドライザーが珍しくご機嫌なので、藍大は帰ったらエルが驚くかもしれないと思った。

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