第569話 なんだ、魔王の上は大魔王じゃないのか

 5階はいきなり扉から始まった。


「ボス部屋だな」


『ヴァインオルトロスがLv85だったから、次は”ダンジョンマスター”が出現するんじゃない?』


「なんだってどんとこいなんだからねっ」


「このメンバーなら負ける気がしないです」


『(σ゚∀゚)σソレナー』


「拙者が”アークダンジョンマスター”になるまで秒読みでござる」


 仲良しトリオとモルガナの余裕オーラがすごいので藍大は注意する。


「慢心は良くない。油断せずに行こう」


「勿論なのよっ」


「はいです!」


『(゚∀゚ゞ)ok』


「わかったでござる」


『それじゃあ開けるよ』


 女性陣が落ち着いたのを確認してからリルが<仙術ウィザードリィ>で扉を開けた。


 部屋の中で藍大達を待ち受けていたのは螺旋状の一本角が生えた白馬だった。


『臭う。臭う臭う。雄に体を売った雌からクソみてえな臭いがする。この酷い臭いと比べればタラスクの糞はラベンダーみたいなもんだ』


「マスター、あいつムカつくのよっ」


「蜂の巣にしてやるです!」


『ナンダトー!ヽ(メ`⌒´)ノコラー!!ヽ(メ`□´)ノ オシオキジャー!!!ヽ(メ`皿´)ノ』


 ユニコーンの言葉に仲良しトリオがキレた。


「ユニコーンらしいと言えばユニコーンらしいのか」


 藍大はそんなコメントをしながらモンスター図鑑でユニコーンのステータスを確認し始める。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ユニコーン

性別:雄 Lv:90

-----------------------------------------

HP:2,500/2,500

MP:3,000/3,000

STR:2,000

VIT:2,000

DEX:2,500

AGI:2,500

INT:2,000

LUK:2,000

-----------------------------------------

称号:ダンジョンマスター(秦野)

   偏執狂

アビリティ:<紫雷光線サンダーレーザー><氷結突撃フリーズブリッツ><怒気角アングリーホーン

      <魔力吸収マナドレイン><上級回復ハイヒール><上級治癒ハイキュア

      <念話テレパシー><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:不快

-----------------------------------------



 (攻撃も回復もできるなら欲しい奴は多いだろうな)


 ユニコーンと聞けば、まず間違いなく額の角に強力な治癒や解毒の力を秘めているなんて話を思い浮かべるだろう。


 それを裏付けるような回復系アビリティを有していることから、藍大はテイマー冒険者ならユニコーンをテイムしたいと思うに違いないと判断した。


 しかし、藍大がユニコーンをテイムしたいかと質問されたら答えはNOである。


 何故なら、ユニコーンは仲良しトリオを悪く言ったからだ。


 能力値的にもアビリティ的にも優良物件ではあるが、口が悪ければ軸となる考え方も相容れない。


 そんなモンスターをテイムすれば、テイムする側もされる側もお互いに不幸である。


 それゆえ、藍大はユニコーンをテイムせずに倒す決断をした。


 藍大がユニコーンを倒すつもりである一方で、ユニコーンもまた目の前の不快な連中を一刻も早く処理しようと動き出す。


『汚物は消毒だぁぁぁ!』


 ユニコーンが<紫雷光線サンダーレーザー>でゴルゴンを狙った。


「やらせないです!」


『何ぃっ!?』


 先制攻撃でゴルゴンにダメージを与えてやると思っていたユニコーンだが、メロが<魔力弩マジックバリスタ>を早撃ちして<紫雷光線サンダーレーザー>を相殺されて驚く。


「追いかけっこを始めるのよっ」


 ゴルゴンも狙われっ放しでいるはずがなく、<緋炎支配クリムゾンイズマイン>で緋炎の蛇を創り出してからユニコーンを襲わせた。


『上等だコラ!』


 ユニコーンは<怒気角アングリーホーン>を発動して角による攻撃の威力を怒りの分だけ強化し、<氷結突撃フリーズブリッツ>で正面から緋炎の蛇を撃ち破ろうとする。


 だがちょっと待ってほしい。


 ユニコーンが相手をしているのはゴルゴンとメロだけではないのだ。


『コラー! ( `Д´)ノ』


 ゼルは自分を忘れるんじゃないと<暗黒支配ダークネスイズマイン>でユニコーンが走っている一帯に暗黒の棘を生やす。


『ぐはっ!?』


 下からの攻撃は想定外だったらしく、ユニコーンはゼルの不意打ちで串刺しになった。


 足の止まったユニコーンに緋炎の蛇が追いつき、そのままユニコーンと暗黒の棘を飲み込む。


 緋炎の蛇の中でユニコーンが激痛のあまり叫び、<紫雷光線サンダーレーザー>を乱発して緋炎の蛇を打ち消す。


 全身傷だらけで酷い火傷になっているが、<上級回復ハイヒール>と<上級治癒ハイキュア>で危機的状況を脱した。


 そう思って油断したのがユニコーンの致命的なミスである。


「リル、そろそろ終わらせよう」


『任せて』


 リルが藍大の指示を受けて<仙術ウィザードリィ>でユニコーンを地面に押さえつけた。


 今までは仲良しトリオの戦いをおとなしく見ていたけれど、ユニコーンに回復されて戦闘が長引くのは面倒だと考えて藍大はリルに介入するよう指示を出したのだ。


「モルガナ、とどめ刺しちゃって」


「かたじけのうござる。ありがたくいただくでござるよ」


 モルガナは藍大にお礼を言って<氷結吐息フリーズブレス>で身動きの取れないユニコーンを凍らせた。


『モルガナの称号”ダンジョンマスター”が称号”アークダンジョンマスター”に上書きされました』


『逢魔藍大の称号”魔王”が称号”魔皇帝”に上書きされました』


『おめでとうございます。逢魔藍大が世界で初めて称号”魔皇帝”を所有しました』


『初回特典として伊邪那岐の力が70%まで回復しました』


『報酬として逢魔藍大の収納リュックに神甘藷しんかんしょの種が贈られました』


 (なんだ、魔王の上は大魔王じゃないのか)


 モルガナが”アークダンジョンマスター”になったことにより、藍大の”魔王”が”魔皇帝”に変化した。


 藍大は”魔王”がいずれ変化するとしたら大魔王になると思っていたため、”魔皇帝”は予想外だったらしい。


 そんな”魔皇帝”の称号の会得条件は2つだがかなり厳しい。


 1つ目は”魔王”が”邪神代行者”を討伐をすること。


 2つ目は”ダンジョンロード”の従魔1体と”アークダンジョンマスター”以上の従魔1体を使役すること。


 ”魔王”の取得条件だって決して楽ではない以上、”魔皇帝”の取得条件がそれよりも厳しいのは当然だろう。


 ただし、取得によって得られる効果はその分強力だった。


 従魔からの好感度が上がりやすくなり、召喚している従魔の全能力値が120%になる。


 それに加えて従魔以外のモンスターから好かれやすくなる効果もある。


 テイマー系冒険者にとって喉から手が出る程欲しい称号なのは間違いない。


「殿、拙者やったでござる! ”アークダンジョンマスター”になったでござる!」


「よしよし。よくやったな」


 モルガナは藍大に褒めてもらって嬉しそうにしている。


 その後ろからリルが笑顔で近付く。


『ご主人、”魔皇帝”に昇格おめでとう!』


「そっか。リルにはバレちゃうよな」


『ワフン、僕には全部お見通しだよ♪』


「愛い奴め。ありがとな」


「クゥ~ン♪」


 藍大に易しく頭を撫でられてリルが気持ち良さそうに鳴いた。


 そのやり取りを見て仲良しトリオがはしゃぎ始める。


「このマスターをどなたと心得るのよっ」


「優しくて頼りがいのある”魔皇帝”なのです!」


『((`・∀・´))控えろー』


 (このマスターってヒント言ってないか?)


 ゴルゴンの口上にツッコミを入れたくなったが、藍大はその気持ちを堪えてゴルゴン達の頭を順番に撫でる。


 その後、ユニコーンを解体して取り出した魔石は”アークダンジョンマスター”になった記念にモルガナに与えた。


『モルガナのアビリティ:<竜巻爪トルネードネイル>がアビリティ:<竜巻飛斬トルネードスラッシュ>に上書きされました』


 モルガナのパワーアップが済んだ後、リルは思いついたように藍大に訊ねる。


『ご主人、”魔皇帝”になった時に何かご褒美を貰わなかったの?』


「リルは鋭いな。実は、神甘藷しんかんしょの種を手に入れた。あっ、甘藷ってのはサツマイモのことだぞ」


『サツマイモ? スイートポテトさんだね!』


「食べる前からさん付けしてる!?」


「マスター、種は私に任せるです! 立派なサツマイモを育て上げるです!」


 リルがまだ見ぬスイートポテトにテンションが上がっている一方で、メロも早く帰ってサツマイモを育てるんだと藍大のローブを引っ張る。


 秦野ダンジョンでやるべきことはもう何も残っていないから、藍大達は地下神域に神甘藷の種を植えるべく急いで帰宅した。

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