第48章 大家さん、異国の神に助けを求められる

第567話 いつも感謝とモフモフを忘れません

 6月9日の土曜日、藍大はゲンとゴルゴンと一緒に藍大達が結婚式を挙げたホテルに来ていた。


 今日は真奈とリーアムの結婚式であり、藍大は真奈からスピーチを頼まれていたのでこの場に来るしかなかったのだ。


 今年の国際会議で真奈とリーアムを結ぶ決定打になったのは自分の提供した転職の丸薬(調教士)だから、藍大が自分には関係のないことだと言って逃げられるはずもない。


 招待状には家族や従魔も自由に連れて来て構わないと記されており、その下には手書きで是非ともリル君を連れて来て下さいと記されていたが、リルは全力で参加を拒否した。


 何故なら、新郎新婦の両方が天敵であるだけでなく、招待客にもモフラーが数多く含まれていたからだ。


 リルがモフラーの巣窟にわざわざ足を踏み込むような真似をする訳がなく、同行者は護衛として藍大を守れるゲンと誰かを連れて行くことになった。


 結婚式に出たいメンバーでじゃんけんをすることになったが、じゃんけんに参加したのは仲良しトリオだけだった。


 仲良しトリオ全員を連れて行くと新郎新婦よりも目立ってしまうため、じゃんけんで勝ち残ったゴルゴンが藍大に同行することが決まった。


 ゲンが<絶対守鎧アブソリュートアーマー>で藍大のスーツに憑依している以上、ゴルゴンだけが藍大の傍にいるように見えるから藍大は彼女に注意する。


「ゴルゴン、他人に迷惑をかけたりはぐれたりしないようにな」


「大丈夫なのよっ。マスターは心配し過ぎなんだからねっ」


「これが心配だけで済めば良いんだが」


「大船に乗ったつもりでいてほしいわっ」


 ゴルゴンは得意気な表情で言ってのける。


 藍大は自分の心配が杞憂になることを祈った。


 そこに志保と茂がやって来た。


「逢魔さん、おはようございます」


「藍大、おはよう」


「吉田本部長、おはようございます。茂もおはよう」


「今日はリル君がいないんですか?」


「モフラーの巣窟に来る訳ないじゃないですか」


「そうでしたか。残念です」


 志保はあわよくばリルを撫でさせてもらおうと思っていたので、本気で残念そうに言った。


「リルは連れて来なくて正解だ。吉田さんもなんだかんだでモフラーだからな」


「遂にモフラー認定されたか。誰からモフラーと認定されたんだ?」


「真奈さんだ。吉田さんは暇さえあれば視察と称してモフランドに言ってたからそれで認定された」


「ガチ中のガチから認定されたら間違いない。リルを連れて来なくてマジで正解だったわ」


 気づけば志保がモフラーのトップからモフラー認定されていたため、リルは次に志保に会う際は注意しなければならないだろう。


 藍大達が話していると、ぐったりした表情の誠也が向こうからやって来た。


「ようこそお越し下さいました」


「誠也さん、お疲れのようですね」


 代表して藍大が声をかければ、誠也は空元気な返事をせずに正直に頷いた。


「はい。愚妹とリーアム君の結婚式の調整が難航しまして、今も最後の打ち合わせをしてきたところです」


「・・・心中お察し申し上げます」


 真奈とリーアムの結婚式の時点で普通の結婚式のはずがない。


 赤星家としてはどうにか身内の恥を可能な限り減らしたいところだから、誠也が全力で式の運営に関わったのだろう。


 それでもどうにもならないところがあったから、誠也はこんなにぐったりしているのだと思うと藍大は同情しないはずがない。


「なんだか楽しそうな結婚式になりそうねっ」


「ゴルゴン、ちょっと静かにしような」


「わかったわっ」


 ゴルゴンが純粋な目でワクワクを隠さずにいるので、藍大は苦笑しながらゴルゴンに落ち着くよう注意した。


 その後、係員の指示で藍大達はチャペルへと移動して全ての準備が整うと、司会者の女性が口を開いた。


「それでは、新郎新婦の入場です」


 その言葉が式場内に響き渡った直後、荘厳な扉が開いて真奈とリーアムが腕を組んで入場し始めた。


 だがちょっと待ってほしい。


 腕を組んで歩く2人の後ろからガルフとニンジャが付いてきているのだ。


 それを見た参加者達が羨ましそうに口を開く。


「良いなぁ」


「モフモフと一緒に入場とか妬ましい」


「私の時もそうすれば良かった」


 (モフラー自由過ぎだろ)


 藍大達の結婚式も一夫多妻第一号ということで型破りだったけれど、これは藍大達のそれとは違う意味で型破りと言えよう。


 真奈達が定位置に辿り着くと、司会者が開式を宣言する。


「只今より、赤星真奈様、リーアム様の結婚式を始めます」


 今日の結婚式は人前式をベースに真奈達の希望を混ぜてアレンジしている。


 誠也がストッパーとしてどこまで機能できたのかはこれから明らかになるだろう。


「続いて新郎新婦の誓いの言葉に移ります。よろしくお願いします」


 司会者にバトンを託されると、最初に真奈が口を開いた。


「本日、私達は皆様の前で結婚式を挙げられることを感謝し、ここに夫婦の誓いをいたします」


「常にお互いとを大切にし、ダンジョンではそれぞれの長所を活かして探索を進めます」


「いつも感謝とを忘れません」


「笑顔の絶えない明るい家庭を築き、子供が生まれれば笑顔との溢れる家庭にします」


「どんな時にも家族を信じ支え合い、死が2人を分かつまで永遠に寄り添います」


「喧嘩をしてもして必ず仲直りします」


「これらの誓いを心に刻み、これらは夫婦として力を合わせて新しい家庭を築いていくことをここに誓います。赤星真奈」


「赤星リーアム」


 誓いの言葉が終わると、再び司会者にバトンが回った。


「素敵な誓いの言葉をありがとうございました。それでは、新郎と新婦の指輪の交換に移ります」


 (それ本気で言ってる!? プロってすげえな!)


 藍大は少しも動じた様子を見せない司会者のプロ根性に感動した。


 ちょくちょく現れるモフモフという単語にツッコむこともなく、素敵な誓いの言葉と言ってのける司会者のメンタルに藍大は驚かずはいられない。


「むぅ、少佐達もなかなかやるのよっ」


「ゴルゴン、静かに。それと張り合う必要はないから」


 悔しそうに言うゴルゴンの頭を藍大はわしゃわしゃと撫でて静かにさせる。


 その一方で真奈とリーアムは指輪の交換に移っていた。


 真奈がリーアムの左手の薬指に結婚指輪を嵌めると、リーアムも真奈の左手の薬指に結婚指輪を嵌めた。


「真奈様とリーアム様が指輪の交換を終えました。それではこちらの特別な結婚証明書にご記入と押印をお願いします」


 何かしらモフモフを絡めて来るのではないかと恐れていたが、藍大は自分の予想が外れたのでホッとした。


 しかし、誠也の顔が引きつっているのでそれは間違いなのだろう。


 署名までは問題なかったが、押印のタイミングでガルフとニンジャが前脚を朱肉に押し付けてから結婚証明書に押し付けたのだ。


 (やりやがった・・・)


「流石は少佐。これが少佐」


「プリンスモッフルもわかってるわね」


「モフラーに幸あれ」


 藍大や茂が顔を引き攣らせている中、モフラー達が感心していた。


 ガルフとニンジャは押印した後に係員に前脚を拭いてもらい、それぞれ真奈とリーアムの後ろに戻る。


「署名が終わりましたので、最後に真奈様とリーアム様の誓いのキスをもって夫婦の成立とさせていただきます」


 真奈とリーアムが普通にキスをすると、藍大は自分達の時のことを思い出した。


 藍大から舞とサクラにキスするはずだったが、舞が我慢できなくなって藍大の唇を奪った。


 サクラもそれに便乗して藍大の唇を奪ったため、誓いのキスという点においては真奈達の方が一般的である。


「これらのキスをもちまして、赤星真奈様とリーアム様の結婚が成立しました。新郎新婦が退場します。ご来場の皆様、温かい拍手にて祝福して差し上げましょう!」


 司会者の誘導に従い、参加者達は惜しみない拍手を真奈とリーアムに送った。


 この後に披露宴が行われる訳だが、藍大のスピーチはそこでやらなければならない。


 結婚式だけでもぶっ飛んだものになっているのだから、披露宴もまともなものではないだろう。


 (ちゃんとスピーチできるのか不安になって来た)


 普通に披露宴でスピーチするならクランのメンバーやマルオの結婚の時にやったけれど、真奈とリーアムの披露宴が普通に終わるはずがない。


 藍大がそのように思うのは当然だろう。


 実際、披露宴はモフラー達の余興でカオスになったが、藍大はその前にスピーチをさせてもらえたので精神的に大怪我することはなかった。


 今日が藍大にとって記者会見よりも疲れた日として記憶されたのは言うまでもない。

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