第565話 謎は全て解けた

 睦美から連絡を受けて藍大は晴海ダンジョンにやって来た。


 当初予定していなかった探索ということもあり、リルとゲン、モルガナだけを同行させてハイペースで攻略していく。


 ゲンは<絶対守鎧アブソリュートアーマー>で憑依しており、藍大がモルガナを抱っこしつつリルに乗って移動すれば5階に到着するまで30分もかからない。


 戦闘はボス部屋だけに留めれば普通ではありえない探索速度も実現可能なのが恐ろしい。


 睦美が5階に”ダンジョンマスター”がいると教えてもらったため、気を引き締めてその中に入ったところ、鰐っぽいリザードマンの姿は見当たらなかった。


 その代わりに待ち構えていたのはゴーストの大群だった。


「ゴーストレギオンLv80だって。この群れで1つのモンスターらしい。フロアボス扱いだから”ダンジョンマスター”が急遽用意した中ボスかも」


『ご主人、僕が戦って良い?』


「勿論だ。存分にやってくれ」


 リルが何をするつもりなのか理解した藍大はリルから降りて少し離れた位置に移動する。


 それを確認してからリルは吠えた。


「アォォォォォン!」


 リルは<神狼魂フェンリルソウル>を発動してゴーストレギオンの弱点を突いた。


 その結果、リルの咆哮によって部屋に溢れんばかりにいたゴーストの大群は1体も残ることなく昇天した。


 ゴーストレギオンの魔石の欠片が急速に集まり始め、1分も経たずに完全な魔石が形成された。


「リル、お疲れ様。良い咆哮だったぞ」


「クゥ~ン♪」


 藍大に顎の下を撫でられてリルは気持ち良さそうに鳴いた。


 ゴーストレギオンの魔石はリル達が欲しがらなかったので、持ち帰ってルナかユノに与えることにした。


 藍大達が6階への階段を上がっていくと、そこには再びボス部屋の扉があった。


 流石に2階連続で中ボスが配置されていることはないだろうと期待し、リルの<仙術ウィザードリィ>でボス部屋の扉を開けてもらった。


 ボス部屋の中には今度こそ鰐っぽいリザードマンがいた。


 睦美の報告通り、頭には王冠を被っていて手にはトライデントを握っている。


 これが”ダンジョンマスター”だろうと判断して藍大はモンスター図鑑で調べ始める。



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名前:なし 種族:サレオス

性別:雄 Lv:85

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HP:1,500/1,500

MP:2,000/2,000

STR:1,500

VIT:1,500

DEX:2,000

AGI:1,000

INT:2,000

LUK:1,500

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称号:ダンジョンマスター(晴海)

アビリティ:<槍術スピアアーツ><武器精通ウエポンマスタリー><螺旋噛スパイラルバイト

      <体力吸収エナジードレイン><幽体化ゴーストアウト

      <無音移動サイレントムーブ><全半減ディバインオール

装備:ハイドラトライデント

備考:焦り

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 (謎は全て解けた)


 藍大はサレオスがどうやって睦美を撤退させたか理解した。


 消えて元の位置に戻ったのは<幽体化ゴーストアウト>と<無音移動サイレントムーブ>の併用によるものだ。


 <幽体化ゴーストアウト>で透明になれば見えなくなり、<無音移動サイレントムーブ>で元の場所に戻ることを繰り返せば対峙した者が不気味に感じるだろう。


 3回目は<幽体化ゴーストアウト>を解除せずに待機し、睦美達が自分を倒すのを諦めてくれるようにしたのだが、これは睦美の従魔が無機型だからこそできたことだと言える。


 仮に感知に長けたリルが最初から相手をしていれば、このトリックは通用しなかったに違いない。


 リルの目と鼻を欺くには力不足である。


 サレオスもリルを欺くことはできないとわかっているからこそ焦っているのだ。


「リルがいるだけでサレオスは得意の戦術を使えない。流石だな」


『ワッフン、僕はまるっとお見通しだよ♪』


 リルは自分がいればサレオスなんて怖くないぞとドヤ顔でアピールする。


「殿、サレオスの相手は拙者に任せてほしいでござる」


「姿が見えなくなるサレオスが相手でも戦えるのか?」


「リル先輩に倒してもらって”ダンジョンマスター”になるのは魅力的でござる。本当に魅力的でござるが拙者が自分でやらねば駄目なんでござる」


 (魅力的って2回言ったぞこいつ)


 モルガナはやる気を出しているものの、その根底にある怠惰な発想はそう簡単には拭えないらしい。


「そうか。それならやってみろ」


「かたじけのうござる」


 モルガナが自分の相手だとわかり、サレオスは少しだけ気持ちが楽になった。


 リルが相手ではなければ勝ちの目だってあるかもしれないと思ったからだろう。


 しかし、サレオスは<幽体化ゴーストアウト>を発動してすぐにそれは勘違いだと悟った。


「始めるでござる」


 モルガナは<千雨槍サウザンドランス>で広範囲を攻撃したのである。


 <幽体化ゴーストアウト>は物理的に透過したり他者の目に映らなくなるが、魔法系アビリティが通じない訳ではない。


 睦美達と戦った時だってどうにかダメージを我慢していただけであり、効いていなかった訳ではない。


 魔法系アビリティによる広範囲攻撃であれば、サレオスも流石に躱し切れずに<幽体化ゴーストアウト>を解除した。


 モルガナの策はテクニカルなものではなく力押しだった。


 だが、サレオスに攻撃を当てれば良いのだから何も問題ない。


「サレオス、もうコソコソしないでござるか?」


「トリッキーな戦い方だけが我の得意とする戦いではない」


 そう言ってサレオスは<無音移動サイレントムーブ>で足音を消しつつ、<槍術スピアアーツ>をもってモルガナに攻撃を開始する。


「拙者に当てたければ技を磨くでござる!」


 モルガナは<竜巻爪トルネードネイル>で周囲の風を巻き込む斬撃を放った。


 これによってサレオスの体勢が崩れ、モルガナはそこを狙って<氷結吐息フリーズブレス>を発動する。


 咄嗟に<幽体化ゴーストアウト>を発動してダメージを受けながら、サレオスはモルガナの視界に映らないようにした。


 それでも、モルガナが攻撃を<千雨槍サウザンドエッジ>に切り替えたことでサレオスはダメージを受けて実体化する。


「ぐぬぅ、しまった!?」


「そろそろ終わりにするでござる」


 再びモルガナが<氷結吐息フリーズブレス>を発動すれば、サレオスが氷漬けになって動かなくなった。


『モルガナがLv99になりました』


「掌握完了したでござる」


 モルガナはサレオスを倒すのと同時に晴海ダンジョンの支配権も奪い取ったらしく、八王子と箱根に続いて3ヶ所目の”ダンジョンマスター”になった。


 サレオスの魔石についてはモルガナだけが興味を持ったため、そのままモルガナに与えられた。


 魔石を飲み込んでより一層モルガナの鱗が美しくなった。


『モルガナのアビリティ:<千雨槍サウザンドランス>がアビリティ:<幾千雨槍サウザンズランス>に上書きされました』


「良かったなモルガナ。3ヶ所目だぞ」


「ムフフン、拙者だけで”ダンジョンマスター”を倒したでござるよ」


「よしよし。よくやった」


 モルガナは藍大に撫でられて気持ち良さそうに目を細めた。


 その後、モルガナが凍らせたサレオスの解体をちゃっちゃと済ませ、藍大達は晴海ダンジョンでやるべきことを終わらせたので脱出した。


 帰宅すると、ブラドと優月がパワーアップしたモルガナを見ようと近づく。


「ふむ、順調に”アークダンジョンマスター”への道のりを進めてるようなのだ」


「モルガナもブラドとおなじになるの?」


「それはもっと先のことなのだ。5ヶ所のダンジョンで”ダンジョンマスター”を倒しても追いつかないのである」


「そうなんだ。ブラドってすごいんだね」


「当然なのだ。”ダンジョンロード”はすごいのである」


 ブラドが胸を張って言う姿はデフォルメされておりかわいらしかった。


 優月がブラドを褒めた後、藍大はゴーストレギオンの魔石を取り出した。


 ルナがフェンリルに進化してユノは自分も強くなりたいと主張し、ルナもそれで良いと言ったので魔石はユノに与えられる。


 鱗の光沢が今までよりもエレガントなものに変われば強化完了だ。


 ユノの<魔力宮殿マジックパレス>が<魔力王城マジックキャッスル>に上書きされ、ユノの守りが一段と強固になった。


 結果として、藍大達は今年のゴールデンウイークだけで2つのダンジョンを踏破するという快挙を果たした。


 ユノのパワーアップが終わったら、藍大は夕食の準備を始めた。


 今夜は2つのダンジョンを踏破したお祝いということで、モルガナのリクエストでおにぎりパーティーを行うことが決定した。


 ”楽園の守り人”のホームページで飯テロが起きるだろうことは想像に難くない。

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