第559話 メニィィィ、クルシミマス!
翌朝、藍大はリル一家とゲン、モルガナを連れて箱根ダンジョンにやって来た。
ブラドは昨日の探索で”ダンジョンロード”になったため、今日は家で優月達の遊び相手をしている。
箱根ダンジョンは箱根山で見つけられたダンジョンであり、元々は箱根の温泉にのんびり浸かっては探索をするのにうってつけのスポットとして知られていた。
ところが、バエルが静岡県の清水港付近に現れて以来、箱根ダンジョンでは出現するモンスターに変化が見られた。
元々は出現するモンスターのレベルが大して高くなく、初心者を含む無所属冒険者に易しいダンジョンだったけれど、今は中小クランの中でもそこそこの強さがあるクランでなければ先に進めないらしい。
以前のような温泉の内装であれば問題なかったが、今の火山のデザインに変わってしまったからは暑さ対策が必要なせいでそのコストが嵩むからだ。
一部を除いて三次覚醒者である日本の冒険者であっても、暑さ対策もなく火山に挑むことはできない。
火山での活動時間を引き延ばすためのコストは決して少なくなく、中小クランでもそこそこのポジションにいないと継戦能力や資金面の問題で探索に十分な時間を確保できないのである。
そんな箱根ダンジョンの1階は火山の入口と呼べるデザインだった。
『ご主人、今日も宝箱が見つかると良いね』
「そうだな。昨日はミスリル製の調理器具だったし、今日見つかったらサクラに美味しい食物の種でもリクエストしよう」
『賛成!』
桂浜ダンジョンで昨日手に入れた宝箱の中身はミスリルペッパーミルだった。
これは藍大がソルトミルがあるならペッパーミルがあっても良いなと呟いたからだ。
相変わらずサクラのLUKは驚異的である。
それはさておき、藍大達は棘付き棍棒を握るホブゴブリンの群れに遭遇した。
「ホブゴブリンLv40。ルナ、やれるか?」
『ルナに任せて!』
ルナは気合十分な様子で藍大に返事をすると、ホブゴブリンの群れに向かって<
刃の如き風で形成された竜巻が次々にホブゴブリンを吸い込んでいき、それがどんどんホブゴブリンを物言わぬ屍に変えていく。
ホブゴブリンは素材的に大した価値がないため、倒した後の売却を考えずに戦って良いモンスターだ。
それゆえ、ルナのウォーミングアップには丁度良い相手と言えよう。
竜巻が消えた時にはホブゴブリンが全滅していた。
『良いホブゴブリンは倒されたホブゴブリンだけなの!』
『ルナ、一撃で倒したのは良かったよ。この調子で慣らして精度を上げようね』
「ルナはやればできる子。このまま頑張ってね」
『うん!』
リルとリュカに褒めてもらいつつやる気の出る言葉をかけられ、ルナは頑張るぞと頷く。
藍大もそんなルナが可愛く思えてその頭を撫でた。
「良いペースだ。流石はルナだな」
『でしょでしょ~』
ルナは褒められて伸びる子なのと言わんばかりに尻尾を振る。
戦利品を回収してすぐに藍大達は先に進み出す。
何度かホブゴブリンとの戦闘を行っていくが、その度にルナが一撃で倒していく。
ルナの安定した戦いぶりを見れば、ホブゴブリンならいくら現れても安心して任せられるだろう。
藍大達が少し開けた場所に移動したところで、サンタの服装に身を包んだホブゴブリンが仁王立ちしていた。
ちなみに、肩に背負う袋はとてもではないが子供に配る玩具には思えない色合いとシルエットだ。
(袋の中に夢も希望も入ってねえぞこれ)
藍大はモンスター図鑑で敵の正体を調べて顔を引き攣らせた。
袋の中に入っていたのはダンジョンに落ちている不揃いの石だけだからだ。
「敵は”掃除屋”のレッドホブゴブリンLv45。石のたっぷり詰まった袋を振り回す迷惑な奴だ。ルナ、やれるか?」
『やってみる』
「よし、任せた。好きなように戦って良いぞ。俺達がフォローするから」
『うん!』
後ろに頼れる両親と主人がいるならば、ルナがレッドホブゴブリンに恐れることはない。
「メニィィィ、クルシミマス!」
「そうだけどそうじゃない!」
レッドホブゴブリンが凶悪な笑みを浮かべながらそう言うと、藍大はツッコまずにはいられなかった。
多くの人達を痛めつけて苦しませようとするレッドホブゴブリンは凶暴なモンスターとしては自然だが、お前のようなサンタがいるかという気持ちになるのは仕方のないことである。
レッドホブゴブリンが袋をスイングするのと同時にルナが<
黒い斬撃がレッドホブゴブリンの持つ袋を切り裂き、できてしまった穴から石がゴロゴロと音を立てて落ちていく。
「ウガァ!?」
ルナに自分の武器を使い物にならなくされてしまい、レッドホブゴブリンは驚いて固まってしまった。
その隙をルナが逃すはずない。
『首置いてけ~』
緩い感じで物騒なことを言いつつ、ルナは<
『ルナがLv51になりました』
『ルナ、アビリティのキレが良かったよ』
「敵の武器を壊す判断も良かった」
『ワッフン♪』
戦いを見守っていたリルとリュカに褒められてルナはとても得意気だ。
まだまだ褒めてほしそうなルナは藍大に近づく。
藍大はその期待に応えるためにルナの顎の下を撫でてあげた。
「よしよし。ただ力押しするんじゃなくて賢い戦いだったぞ」
「クゥ~ン♪」
ルナはそこが気持ち良いからもっともっとと甘える。
ルナが満足したところでレッドホブゴブリンを解体し、その魔石はルナに与えられた。
リル達がアビリティを強化するには魔石の主が弱過ぎるから、しばらくはルナが魔石を独り占めすることになるだろう。
ルナは魔石を飲み込むと少しだけサイズが大きくなった。
『ルナのアビリティ:<
『また斬撃系のアビリティが強くなったね。ルナ、僕が教えたコツは覚えてる?』
『薄く鋭く!』
『その通り。よく覚えてたね』
ルナはリルに教わったことをしっかり覚えており、リルに褒められて嬉しそうに尻尾を揺らす。
その様子を見て羨ましくなったのか、モルガナがポツリと漏らす。
「家族でござるか」
「モルガナ、俺達は家族だ。甘えたいなら甘えても良いんだぞ?」
「ちょっとだけ殿に抱っこしてほしいでござる」
「愛い奴め。こっちにおいで」
モルガナは藍大に抱っこしてもらって頬を緩ませた。
『ご主人、僕達もお願いね』
「順番にお願い」
『お願いなの』
リル達にお願いされれば家族サービスの時間に突入しないはずがなかった。
10分程経ってから藍大達は探索を再開した。
道中に現れたホブゴブリンはルナにサクサク倒されてしまい、あっという間にフロアボスの待ち構えている場所に到着する。
フロアボスはヘルム以外の全身鎧を着込んだホブゴブリンであり、手に持つ武器は鎖と繋がれた鉄球である。
「ホブゴブリンクラッシャーLv50。1階のフロアボスだ」
「オデガギッタンギッタンニシテヤンヨ!」
片言でそう言い放ったホブゴブリンクラッシャーは鉄球を藍大達に投げつける。
それをリュカが<
「誰がどうするって?」
「ヒィッ!?」
自身の武器を素手で壊されてしまったことにより、ホブゴブリンクラッシャーは勝ち目がないことを悟った。
クラッシャーのくせに自分の戦意を折られてしまったのである。
「身の程を知れ」
リュカが<
『ルナがLv52になりました』
『お母さんすごい! 強いの!』
「ドヤァ」
ルナにすごいと言われてリュカは得意気に胸を張る。
先程の怖い雰囲気が嘘のようだ。
その後、戦利品回収と解体を済ませて再び魔石はルナに与えられた。
魔石を飲み込んだことにより、ルナの爪に磨きがかかった。
『ルナのアビリティ:<
『ルナはアビリティ:<
「ルナはリルともリュカとも違うアビリティを手に入れたな」
『お父さんとお母さんの力が合体したらすっごく強いの!』
「そうだな。良い子だ」
「クゥ~ン♪」
ルナが純粋な目でそう言えば藍大はそれを受け入れてその頭を撫でる。
まだまだ時間に余裕があるから藍大達は2階へと進んだ。
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