第47章 大家さん、国内のダンジョン探索に本腰を入れる

第555話 吾輩、そろそろ次のステージに進みたいのである

 5月3日の木曜日、ゴールデンウイーク初日の今日は朝からシャングリラの102号室にマルオと睦美、泰造が集結していた。


 集められたのは魔王軍のテイマー系冒険者である。


「さて、全員集まったし打ち合わせを始めよう」


「「「はい!」」」


 マルオにタメ口なのは元からだったが、藍大は睦美や泰造にもタメ口を使っている。


 これは”魔王様の助っ人”の総意としてタメ口で話してほしいと頼まれたからだ。


 同じ魔王軍なのに”迷宮の狩り人”と”魔王様の助っ人”で喋り方を変えられると距離を感じると言われてしまえば、藍大も断り切れなかった。


「今日話し合いたいのはダンジョンの管理についてだ。まずは現状共有から始めよう。各々の管理するダンジョンについて報告してくれ」


「了解です。俺は川崎大師ダンジョンに加えて3月に萩ダンジョン、先月中旬に十日町ダンジョンを支配しました。今はポーラが管理してます」


 ”迷宮の狩り人”は基本的にヘルプに呼ばれる時以外自由に探索している。


 川崎大師ダンジョンの運営が軌道に乗って来た今、マルオの行動範囲はかなり広がっているのだ。


 花梨も伊邪那美と伊邪那岐の神域で仕事をするだけでなく、時々マルオと一緒に探索に出かけることもある。


 マルオ以外のメンバーも近場のダンジョンで力を磨いており、藍大に一人前と認定されて各々にできることに取り組んでいる。


「私は狛江ダンジョンと黒部ダンジョンに加え、先週踏破した代々木ダンジョンを管理してます。従魔も順調に増えてますよ」


「自分は3月に浦安ダンジョン、一昨日は白州ダンジョンを踏破してきました。クラマス程ではありませんが、従魔もそこそこ増えてます」


 睦美はクダオを殺したアリオクを倒してから、ルシウスを”ダンジョンマスター”としてブラドの後を追えるように調整している。


 泰造は真奈からジュエルスライムを浦安ダンジョンで見つけたと言われて向かい、その情報に従ってジュエルスライムをテイムしたついでに浦安ダンジョンを踏破した。


 白州ダンジョンにもワインスライムが目撃されたと聞けばそこに足を運び、ワインスライムをテイムした勢いで白州ダンジョンを踏破した。


 ”魔王様の助っ人”はヘルプの要請がなければ関東甲信越を中心に探索を進めており、”ダンジョンマスター”を倒すだけという段階になったら睦美か泰造がその攻略に参加してダンジョンを支配するスタンスだ。


 クランのメンバーが”迷宮の狩り人”よりも多い上、テイマー系冒険者が2人もいるから”魔王様の助っ人”は”楽園の守り人”の次に管理するダンジョンの数が多い。


「みんな順調だな。俺達の管理するダンジョンについてはブラドとモルガナに報告してもらおう」


「うむ。吾輩が管理するダンジョンは9ヶ所である。シャングリラと道場、客船、太宰府、多摩センター、五稜郭、秘境、海底、神宮なのだ」


「9ヶ所はヤバいっすわ」


「改めてお聞きすると凄まじいですね」


「もう一つダンジョンを支配したら”アークダンジョンマスター”から変わるんでしょうか?」


「確かに10ってキリの良い数字だよな。”アークダンジョンマスター”になるには5つのダンジョンが必要だった。その倍を支配したら何か起こりそうだ」


 泰造の指摘に藍大はブラドの称号が変化するかもしれないと頷いた。


「それでしたら桂浜ダンジョンの探索が詰まってるらしいので、丁度良いと思いますよ」


「桂浜か。マルオ、あそこって水棲型モンスターが多く出るんだっけ?」


「その通りです」


「魔王様、私から補足させていただきますと、”ブルースカイ”は東尋坊ダンジョンに遠征に出てるので”アクアリウム”と探索で鉢合わせになることはないと思います」


「理人さんは東尋坊か。それなら行く価値はありそうだ」


 マルオと睦美から話を聞いて藍大は桂浜ダンジョンに行ってみても良いと思い始める。


 ブラドがその気にならないなら意味がないので、ブラドに視線を向けるとブラドは頷いた。


「吾輩、そろそろ次のステージに進みたいのである。”アークダンジョンマスター”になってそこそこ経ったのでな」


「行くか」


「行くのだ」


 ブラドが行く気満々なので、藍大達が桂浜ダンジョンの探索をすることが決まった。


「オホン。拙者のことを忘れないでほしいでござる」


「忘れてないぞ。モルガナも報告頼む」


「任せるでござる。拙者の治める八王子ダンジョンでは遠征に出てないDMUの探索班をビシバシ鍛えてるのでござる。彼等は今、新しい八王子ダンジョンの6階まで到達して頑張ってるでござるよ」


 今となってはDMUの探索班しか来ない八王子ダンジョンでは、彼等が改装前よりもMPを多く消費するようになったおかげでDPの収入は安定している。


 それでも、モルガナが暇をしているので藍大はそろそろモルガナに別のダンジョンの管理を任せてみたいと考えている。


 ブラドがあと1つダンジョンを支配したら、次はモルガナに管理させようと口には出さないが心に決めた。


「報告ご苦労。さて、今日はなんでダンジョンの管理について話し合いたいと言ったか理由を話そう。八王子ダンジョンが日本で最初のダンジョンなのはみんな知ってるよな?」


「「「はい」」」


「2025年に突然ダンジョンが誕生した理由を調べられる範囲で調べてみたところ、ダンジョンの誕生には神様が影響してることがわかった」


「逢魔さん、質問です」


「どうしたマルオ?」


「伊邪那美様や伊邪那岐様はダンジョンの誕生に関係ないんですか?」


 ここにいるメンバーは伊邪那美と伊邪那岐の存在と力を藍大から知らされているため、マルオの発言によって睦美と泰造が驚くことはない。


「どちらも関係ないらしい。伊邪那美様曰く、ダンジョンの誕生には伊邪那美様よりも上位の神が関与してるそうだ」


「伊邪那美様達よりも上ってどんな神です? 正直、日本の神に詳しくないので思いつきません」


「俺もわからん。伊邪那美様達にも心当たりがないらしいから、少なくとも日本の神じゃないんだろうな」


 そこまで聞いて睦美はピンと来た。


「なるほど。魔王様は伊邪那美様の結界を無視してスタンピードが起きる可能性を考慮し、私達が国内のダンジョンを支配してしまえばその可能性を減らせるとお考えなのですね」


「「さすまお!」」


 睦美の話を聞いてマルオと泰造が藍大に期待を込めた視線を向ける。


「話が速くて助かる。伊邪那美様曰く、ダンジョンを支配してしまえばダンジョンを暴走させられることはないらしい、だったら、俺達は後手に回らないように先んじてダンジョンを支配しようってことだ。まずは俺達から始め、そこから他のクランにもこの動きを伝播したい」


「了解しました」


「お任せ下さい」


「わかりました」


 その後は誰がどこのダンジョンに挑むか話し合い、その割り当てが決まってから解散となった。


 マルオ達が帰った後、舞が部屋からリビングに出て来た。


「話終わったんだ?」


「終わったぞ。俺達は午後から桂浜ダンジョンに向かう」


「良いな~。私も行きたかった~」


「舞は安静にしてなきゃ駄目だろ。それにサクラも」


「わかってるけど藍大と一緒にダンジョン探索行きたいな~。サクラだってそうだと思うよ」


 舞とサクラは体型が今までほとんど変わらなかったせいで気づくのが遅くなったが、妊娠11週を迎えていた。


 つわりも状態異常耐性のせいでほとんど影響がないので、2人の妊娠に気づくのが遅くなってしまったのだ。


 妊婦はダンジョンに連れて行けないから、舞がここでゴネても藍大は舞を連れて行くつもりはない。


「まあまあ。そろそろお昼だし、今日は何を作ろうか」


「炒飯が良い!」


「わかった。炒飯な」


 藍大が話題を変えようと昼食の話を持ち出せば、舞はうっかりその話に乗っかってしまう。


 藍大も舞の扱いには慣れたものである。


 そこにサクラもやって来た。


「主、くれぐれもダンジョンで無茶しないでね」


「大丈夫。リルやゲン、ブラド連れてくし」


「ブラド、主に何かあったら承知しないから」


「ま、任せるのだ。吾輩が全力で主君をお守りするのだ。それにリルとゲンもいれば万事OKなのだ。だから、桜色の奥方は威圧感を抑えてほしいのだ」


「よろしい」


 サクラはブラドから言質を取って満足したらしく、ブラドだけに放っていた威圧感を抑え込んだ。

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