第45章 大家さん、病魔を倒す

第531話 もっと熱くなれよ!

 国際会議が終わってから1ヶ月と少しが経過した2月14日の水曜日、吐血して高熱で倒れる者がいた。


 同じ日に各国で同じ状況になったとなればただの偶然では済ませられない。


 夕食後にネットサーフィンしていた舞がそのニュースを見つけて藍大に話しかける。


「藍大、大変だよ。世界中で吐血のバレンタインだって」


「世界中の非リア充がチョコを貰えなくて吐血したの?」


「違うよ。リア充も非リア充も関係なくだよ」


「どゆこと?」


「私にもよくわからないけどニュースで吐血のバレンタインって報道されてるの」


「伊邪那美様に訊いてみるか」


 何が起きているのかよくわからないので、藍大は困った時の神頼みということで伊邪那美に質問することにした。


 伊邪那美は藍大から質問があると察して藍大達の前に姿を現した。


「妾に質問があるようじゃな」


「ナイスタイミング。完全復活した伊邪那美様なら世界で何が起きてるのか少しぐらいわかるんじゃないかと思ってな」


「ふむ。今日の昼にこの事態を引き起こした原因の動画がC国から放映されたのじゃ」


「またC国かよ。どんな動画? それとC国人と”大災厄”のどっちのせいかわかる?」


「”大災厄”ブエルがインターネットを媒介にして閲覧者に魔熱病を感染させたようじゃな」


「「魔熱病?」」


 藍大と舞は初めて聞く病名に揃って首を傾げた。


「魔熱病とはMPを有する者がかかる病気じゃ。体内のMPのコントロールが狂って臓器に負担がかかった結果、吐血や高熱で苦しめられるぞよ。抵抗力の低い者は最悪死に至るのじゃ」


「それはヤバいな。抵抗力ってどうすれば身に着くんだ?」


「状態異常耐性があれば問題ないのじゃ。後はMP操作に長けた者も抵抗力が高いと考えて良いぞ。問題なのは普段からMP操作が雑な者じゃな。吐血と高熱の症状が発症するのはそういう者達じゃ」


「私は状態異常が効かないからへっちゃら~」


「舞は”暴食の騎士”に救われたね」


『ご主人、考え事する時はいつでも撫でてね』


「サクラもリルもいつの間に来たんだ?」


「伊邪那美様が現れてすぐのタイミングだよ」


『真面目な話の雰囲気を察して来たよ』


 サクラもリルも聞き逃してはいけない内容の話だと察してすぐに藍大の傍に来ていたらしい。


「そっか。伊邪那美様、”楽園の守り人”のメンバーで魔熱病に感染しそうなメンバーはいる?」


「シャングリラの中に居れば結界があるから感染リスクは0なのじゃ。しかし、外に出ると子供達は危険じゃろうな」


「結界があって良かった。魔熱病が全世界にばら撒かれたのはネットにアップされた動画が原因ってことだけど、罹患者から感染する場合はどうやって感染するんだ?」


「飛沫感染じゃな。咳やくしゃみ、会話による飛沫に耐性がない者は触れてはならぬぞ。とはいえ、ここにはサクラとゴルゴン、フィアがいるのですぐに治療できるから安心して良いのじゃ」


「ドヤァ」


 自分の<生命支配ライフイズマイン>やゴルゴンの<超級治癒エクストラキュア>、フィアの<讃美歌ヒム>があれば魔熱病は治せるとわかってサクラはドヤ顔を披露する。


「よしよし。何かあったらサクラ達が頼りだ。よろしく頼むぞ」


「任されました」


 藍大はサクラの頭を撫でてから気になったことを口にした。


「ところで、外の冒険者達はどんな動画を見たら魔熱病にかかったんだ? 安全が確保できてると少し気になる」


「じゃあ見てみる?」


「動画あるの?」


「今の話を聞いて再生できるように準備しといた」


「用意周到」


「でしょ~? 流すよ~」


 舞がタブレットを操作して動画を再生すると、獅子の頭に5本の山羊の足を体の周りに持つ姿のブエルが現れる。


『頑張れ頑張れできるできる絶対出来る頑張れもっとやれるって! やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ! そこで諦めんな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る! 俺様だってC国で頑張ってるんだから!』


「「「「『え?』」」」」


 予想外の内容に藍大達は目をきょとんとするが動画はまだ続く。


『一番になるって言っただろ? ナンバーワンになるって言ったよな!? まずは形から入ってみろよ! 今日からお前は一番だ!』


「応援動画?」


「応援しておるな」


 藍大が顔を引き攣らせながら訊ねると伊邪那美はそれに応じる。


『もっと熱くなれよ! MP燃やしてけよ! 人間熱くなった時が本当の自分に出会えるんだ! だからこそもっと、熱くなれよおおおおおおおおおおおお!』


 ここまでブエルが言い切って動画は終わった。


「ブエルの見た目で熱血な応援されるとシュールだね」


「毒とは違う意味で厄介」


『ご主人、これは<異形グロテスク>と<言霊パワーオブワーズ>の合わせ技だよ。ブエルの言葉でMPの回復速度が上がってるけど、<異形グロテスク>を持つブエルを見ちゃったせいでそのコントロールが上手くいかないようにしてる』


「そうらしいな。この動画、掲示板で拡散されてたら二次被害ヤバくね?」


「「『確かに』」」


 藍大の気づきに舞達が頷いた。


「掲示板にアップされた動画を面白半分で見て魔熱病に罹患した者も居るようじゃぞ」


「耐性がないのに馬鹿なのか?」


「困ったものじゃ」


 伊邪那美からの情報に藍大は呆れた表情になる。


 そのタイミングで藍大の携帯が鳴る。


「茂、どうした?」


『藍大、知恵を貸してくれ。今ニュースになってる吐血のバレンタインについて知恵を借りたいんだ』


「ブエルに応援されて日本がピンチ?」


『否定できない』


「マジで?」


『マジで』


 茂は溜息をついてから自分が把握している現状について話し始めた。


 DMU内部ではMP操作をほとんど必要としない解析班とMP操作が雑な探索班と対人班のメンバーが動画を見て魔熱病に苦しんでいる。


 日本国内では主に中小クランあるいは無所属の冒険者で前衛の者を中心に魔熱病の被害が出ているらしい。


 大手クランともなれば前衛でもMP操作はある程度できるから問題ない。


 掲示板に動画をアップできることが魔熱病の感染拡大を招いてしまったようだ。


「奈美さんに魔熱病に効く薬を作れないか相談するとして、感染源の動画がアップされたスレッドは凍結させた?」


『動画を削除したうえで凍結させた。動画がアップされてないスレでは動画のアップ禁止と視聴禁止の指示を掲載したから感染拡大の波は収まりつつある。ただ、罹患者から感染する可能性が否めないから困ってる』


「なるほど。伊邪那美様が罹患者からの感染経路は飛沫感染って教えてくれたぞ。ついでに言えば、感染するのはMPを有する覚醒者だけだってさ」


『俺の鑑定能力だけじゃなくて伊邪那美様のお墨付きがあれば確実だ。魔熱病のせいで冒険者と一般人の間に溝ができると面倒だから、溝ができる前に未然に防がないといけない』


「溝?」


 茂が口にした溝という言葉が何を指しているのかよくわからず藍大は訊き返した。


『一般人過激派の反冒険者団体と冒険者との溝だ。彼等は冒険者が優遇される今の世の中に抗議するだけ抗議して改善案は何一つ寄越さない。今回の一件も冒険者頼みの世の中だから冒険者が倒れたら破綻するとか言いかねない』


「アンチってのはいつでもどこでも現れるんだな」


『まったくだ。ちなみに、アンチ連中にはDMUの元老害四天王も関与してるっぽい。DMUで甘い蜜を据えなくなったら反対勢力に寝返って抗議してるようだ』


「人の形をしたゴミなのかな?」


『多分そうなんだろ。鬱陶しいことこの上ない』


 茂が不快であることを隠さずに言ったところで藍大はDMUの方針が気になった。


「吉田本部長はどう考えてんの?」


『元老害四天王対策として、4人がDMUにいた頃にしでかした問題を全部公開してこんなことやらかす奴等が偉そうなこと言うなって戦うつもりらしい』


「ふーん、やるじゃん」


『吉田さんの元上司が老害四天王だったからこの機会に完膚なきまでぶちのめすってキレてた』


 志保は過去に老害だった池上元ビジネスコーディネーション部長の下で仕事をしており、日々ストレスを抱えながら働いていた。


 それゆえ、今度の敵は確実に潰すと気合を入れているのだ。


「その火の粉がこっちに来なきゃ良いんだけど」


『そこは俺が注意して見ておく』


「よろしく」


 藍大は茂との電話を切った後、奈美に魔熱病の薬を相談するため連絡を取った。


 

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