第481話 見様見真似のドラゴンブレス!

 麗奈達はN1ダンジョンを踏破した後、しばらくT島国に来るのに乗った船の部屋で休んだ。


 その間に美鈴が急ピッチで船上パーティーの準備を進めて夕方から船上パーティーが始まった。


「”楽園の守り人”の皆様によるN1ダンジョンを踏破を祝して乾杯!」


「「「・・・「「乾杯!」」・・・」」」


 参加者全員が美鈴の合図と同時にグラスを掲げる。


 参加者は麗奈達と美鈴に加えて美鈴のパーティーメンバーとT島国DMU本部長、外交部門のトップである。


 T島国民だと英語よりも日本語の方が得意な人も多く、翻訳機能があるイヤホンを使わずとも日本語で話が通じる。


「この度はN1ダンジョンを踏破していただきありがとうございます」


「これでN1ダンジョンの近隣に住む者達も枕を高くして眠れます」


「報酬のお金とお土産さえもらえれば問題ないよ」


 T島国DMUのお偉いさん2人と話をしているのは執事姿に変身したパンドラだ。


 麗奈や未亜では粗相があるかもしれないので、パンドラがわざわざ人の姿に化けて対応している。


 パンドラは飲食を不要とするモンスターだから船上パーティーで暇を持て余すから、酔っぱらって使い物にならなくなるだろう麗奈と未亜の代わりをしている。


 アスタもこの手の話では戦力外だとすれば、パンドラしか適任者がいないとも言える。


 それはそれとして、”楽園の守り人”はN1ダンジョンの踏破報酬をお金とご当地土産で支払ってもらうことにした。


 この条件で決まったのは麗奈と未亜がT島国の最高級ホテルの無料宿泊券に魅力を感じなかったからだ。


 お金の方が色々と使い勝手が良く、ご当地の食べ物のお土産も美味しくいただけて扱いに困らないという点でこちらが報酬になった。


「それは勿論です。既に指定口座にお支払いしました。こちらは明細書です」


「お土産もこの船に選りすぐりの物を運び込むよう指示しております。日本に戻られてからお楽しみいただければ幸いです」


「わかった」


 パンドラ達が実務的な話をしている一方で、美鈴のパーティーメンバーが宴会芸と称して空に向かって火吹きを始めた。


「良いぞ! もっとやれ!」


「輝いてるよ!」


「まったく馬鹿なことして・・・。すみません、みんなよっぽど嬉しかったみたいです」


 美鈴は自身のパーティーメンバーが調子に乗って芸を披露するのを見て額に手をやる。


「麗奈、本物見せたれや」


「合点! ほら、そのトーチを貸しなさい! 私が本物を見せてあげるわ!」


「えぇ・・・」


 未亜に話を振られた麗奈は既に酔っぱらっており、ノリノリで点火用のトーチを借り受けていたから美鈴は困った表情になった。


「見様見真似のドラゴンブレス!」


 麗奈が最初に火吹きを行ったT島国人よりも見事な火吹きを披露し、空にドラゴン型モンスターが使うブレスのような炎を放つ。


 無駄に身体強化までしていることもあり、ワイバーンの<火炎吐息フレイムブレス>と同程度の勢いがある。


 そんな炎が空高く吹き出される中、透明な何かが麗奈の吹いた炎に包まれた。


「熱いわぁぁぁぁぁ!」


 その声は突然船の上空から聞こえ、麗奈によって放たれた炎が四散する。


 炎が散った場所にはいつの間にか緑色の革鎧と弓矢を装備した悪魔の姿があった。


「モンスターだと!?」


「飲猿は看破してたのか!?」


「馬鹿野郎! あんな火吹きができる猿はいねえ! ドラゴンと呼ぶべきだ!」


「あれはレラジェ!? C国にいたはずじゃ!?」


 美鈴は上空にいる悪魔がC国で暴れている”大災厄”のレラジェであることに気づいて驚いた。


「やれやれ、面倒なことになって来た」


 パンドラは酒を飲んでいないので冷静なままレラジェのステータスを鑑定し始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:レラジェ

性別:雄 Lv:90

-----------------------------------------

HP:1,590/2,400

MP:1,830/2,500

STR:2,400

VIT:1,500

DEX:2,500

AGI:2,400

INT:2,000

LUK:2,300

-----------------------------------------

称号:大災厄

   外道

アビリティ:<弓術アーチェリー><魔刃弩マジックバリスタ><猛毒付与ヴェノムエンチャント

      <爆樽罠バレルトラップ><無音移動サイレントムーブ

      <透明化シースルー><全半減ディバインオール

装備:スニークレザーシリーズ

   ロトンシューター

備考:火傷

-----------------------------------------



「”大災厄”じゃん。酔っ払い2人とポージング祭りしてるアスタは戦力にならないよね・・・」


 パンドラはどうしてこのタイミングで”大災厄”が現れるんだとうんざりしている。


「パンドラ、ウチの武器出してや!」


「戦えるの?」


「任しとき!」


 麗奈は序盤からハイペースで飲んでいたようだが、未亜はセーブしていたらしく酔っていないらしい。


 未亜を鑑定しても確かに酩酊とは備考欄に表示されなかったので、危険になったら引っ込んでもらおうと決めてパンドラは<保管庫ストレージ>からダハーカシューターを取り出して未亜に渡す。


 未亜にダハーカシューターを渡している間、アスタはサイドチェストを決めながら<絶対注目アテンションプリーズ>を発動する。


「筋肉は美しい!」


「ぐっ、目が離せない!?」


 <透明化シースルー>と<無音移動サイレントムーブ>を連続発動して船に乗る者達に奇襲を仕掛けようとしていたレラジェだが、アスタの<絶対注目アテンションプリーズ>のせいでアスタから目が離せない。


「狙い撃つで!」


 未亜は魔力矢を分裂させながら放ち、レラジェに対して細かくダメージを重ねていく。


「おのれ!」


 レラジェは視線を強制的に持っていこうとするアスタに矢を放とうとする。


 しかし、それを見逃すようなパンドラではない。


「やらせない」


 パンドラは<倍々地獄レイズヘル>を使って真っ暗な空間にレラジェを閉じ込める。


「止せ! 止めろ! 近づくんじゃない! ひぎゃあぁぁぁぁぁ!」


 真っ暗な空間の中でレラジェは自身が心の底で恐れる状態を投影され続けて叫んでいる。


 その声は時間が経過すればする程恐怖の度合いが強まっていく。


 おそらく空間内ではレラジェが幻影に打ち勝とうと矢を連射しているのだろう。


 空間の耐久度が0になるまで投影されるイメージが倍々ゲーム式に分裂し、閉じ込められた者の精神を攻撃する。


 それゆえ、レラジェが真っ暗な空間から脱出した時にはかなり消耗していた。


 <全半減オールディバイン>で状態異常による精神的ダメージも半減されるはずだが、今のレラジェは完全に恐慌状態に陥っている。


 何がレラジェをここまで追い詰めたのか。


 これはレラジェがT島国に姿を見せた理由でもある。


 レラジェはC国で他の”大災厄”であるブエルとグシオンと争って敗走したのだ。


 その時にレラジェが感じたブエルとグシオンへの恐怖が<倍々地獄レイズヘル>に反映され、強くなった2体の”大災厄”によって自分がオーバーキルされる姿を何度も目の前で繰り返された。


 敗走する前にブエルとグシオンに手傷は負わせたけれど、<倍々地獄レイズヘル>で現れた2体の幻影はレラジェがいくら攻撃しても全く痛がらない。


 それどころか分裂して近づいて来るのだから恐怖しか感じないだろう。


 無論、そんなことが起きていたなんてパンドラは知らないから容赦なくとどめを刺しに行く。


「じゃあね」


 <負呪破裂ネガティブバースト>がレラジェのHPを一気に削り取り、力尽きたレラジェの体は海へと墜落していく。


「海に捨てるには勿体ない」


 パンドラはそう言ってレラジェが着水する前に元の姿に戻り、尻尾を大きな網に変えてレラジェの体を回収した。


 甲板に置いたレラジェを<保管庫ストレージ>で回収すると、今までの戦いを見ていた美鈴達はポカンとしていた。


 そんな中、麗奈がトーチの火を消してから気に入った酒の入ったグラスを手に取って飲み干した。


「ぷはぁ! このお酒美味しい! ほら、ぼさっとしてないで飲み直すわよ!」


「酒を飲んでも”大災厄”に勝てるとか”楽園の守り人”ヤベえな」


「ハハッ、信じられるか? 人も極めればドラゴンのブレスを真似できるんだぜ」


「逢魔君が余裕って言ってたから期待してたけど、まさかここまでとはね・・・」


 パーティーメンバーと同様に美鈴の顔は引き攣っていた。


 その後、パンドラが酔っぱらった状態で火吹きをやった麗奈に尻尾ビンタで制裁する一幕があったが、船上パーティーは仕切り直しとなった。


 N1ダンジョンを踏破するだけのつもりがT島国滅亡の危機を救ったため、麗奈達は当初のスケジュールよりも2日間長く歓待されてから日本に帰った。

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