第469話 ホテルで雑食が出る訳ないだろ!

 男性陣も女性陣も大浴場から着替えてそのままDMU本部に近いホテルのパーティー会場へと移動する。


 DMU本部の会議室を貸し切って懇親会をするのも可能だが、強化合宿の参加者全員がお金に困っている訳でもないのでパーティーはホテルで行うのだ。


 このホテルは過去2回開催された国際会議の懇親会でも使われており、DMUはお得意様だったりする。


 しかも、国際会議では藍大がC国やR国のせいでこのホテルの受ける被害を最小限に抑えているため、藍大達が使うとなればサービスも期待できる。


 参加者全員にグラスが行き渡ると、強化合宿立案者の藍大が乾杯の挨拶をする。


 (リルとブラドがお腹を空かせてるからサクッと済ませよう)


「お腹も空いたでしょうし手短にします。2日間お疲れ様でした。乾杯!」


「「「・・・「「乾杯!」」・・・」」」


 藍大は長いスピーチが嫌いなので手短に喋ってグラスを掲げた。


 他の参加者達もそれに合わせてグラスを掲げて懇親会が始まった。


 今日の懇親会はビュッフェ形式なので、リルとブラドが挨拶を終えた藍大に話しかける。


『ご主人、料理取って!』


「吾輩の分も頼むのだ」


「任せろ」


 リルは<仙術ウィザードリィ>を使えば自分で食べたい料理を取れるけれど、藍大に甘えたいから取ってほしいと頼む。


 ブラドも<創造クリエイト>があるので料理を取る必要すらないが、藍大達と同じ物を食べたいので藍大に料理を取ってほしいと頼んだ。


 どちらも甘えん坊であることは間違いない。


「ガルフ~、何が食べたい~?」


「アォン!」


 真奈がガルフに何を食べたいか訊ねてみれば、ガルフは食べたい料理の前に座って1回鳴いた。


 ガルフは喋れないだけで決して頭が悪い訳ではない。


 真奈に料理を取ってもらってガルフはとても嬉しそうに食事をとり始めた。


「マスターは肉ばっかり取って仕方ないね」


「主様、野菜もきっちり食べなきゃ駄目」


「前向きに検討することを努力します」


「「野菜も食べなきゃ駄目」」


「えー。ホテル料理なんて滅多に食べないんだから良いじゃん。明日からちゃんと食べるから」


 (ローラとポーラがオカンみたいになってる)


 マルオ達のやり取りを見て藍大は心の中で苦笑した。


 アンデッド型モンスターに食事は不要であり、例外はローラがマルオの血を吸うことだろう。


 睦美は従魔全員飲み食いできないので1人で食べたい料理を食べている。


 泰造と白雪は自身とその従魔の分だけ皿に乗せる。


 問題はやはりゲテキングである。


「雑食がないのは残念です」


「残念」


 (ホテルで雑食が出る訳ないだろ!)


 ゲテキングとディアンヌが落ち込んでいることに対して藍大は心の中でツッコんだ。


 リルとブラドのリクエストした料理を取り揃えて皿を渡した後、サクラが藍大のために用意した料理の皿を渡した。


「これ主の分だよ」


「いつもすまないね」


「それは言わないお約束だよ」


 このタイミングで茂がジト目になりながら合流した。


「何茶番劇やってんだよ」


「茂、これは茶番劇じゃない。お決まりだ」


「どっちでも良いだろそんなの。とりあえず合宿お疲れ」


「おう。運営補助ありがとな」


「良いってことよ。こっちも情報収集やらポーション風呂のテスターとかで十分メリットはあったし」


「そうか。茂的にはもう少し胃が痛くなるようなイベントが足りなかったか?」


「要らん。トラブルなく進んでくれた方が良いに決まってる」


「ですよねー。言ってみただけだ」


 茂が真顔で言うものだから藍大は落ち着けとジェスチャーで伝えた。


「まったくしょうがない奴だ。ところで、モンスターって酒を飲んでも大丈夫なのか?」


「人間と変わらないさ。酒に強い者もいれば弱い者もいる」


「そんなもんか。じゃあ、あれはヤバいんじゃね?」


「あれ?」


 茂が指差す方向ではヨナが白雪の目を離した隙に酒を舐めていた。


「ヤバいかもな」


 藍大がそう言った直後、白雪が酒を舐めたヨナに気づいて叱り始めた。


「ヨナ! 私の目を盗んでお酒を飲むんじゃありません!」


「クワァ・・・」


 ヨナはつい出来心でと言わんばかりの表情でペコリと頭を下げた。


 謝るヨナの顔は赤くなっており、ヨナはアルコールに弱いことが明らかだった。


「まったくもう。休んでなさい」


「クワァ」


 ヨナが敬礼している間に白雪はヨナを送還した。


 酔って大暴れしたら笑えないからである。


 藍大は溜息をつく白雪に声をかける。


「有馬さん、大丈夫ですか?」


「恥ずかしいところをお見せしてしまいました。すみません」


「恥ずかしい所?」


「サクラ、茶々を入れない」


「は~い」


 サクラの”色欲の女王”部分が余計なことを言い出すので藍大は静かにさせた。


「私は鳥教士として全然ちゃんとできてないですね。戦闘もそうですが躾の部分でも駄目です」


「最初からなんでもできる人はいませんよ」


「ですが、赤星さんや神田さん、ゲテキングさんは転職してすぐに順応できたって言ってましたよ?」


「それは話を聞いた相手がイレギュラーだと思います」


 真奈や睦美、ゲテキングは元々冒険者としての実力があっただけでなく、転職先の職業技能ジョブスキルが3人に適していただけだ。


 真奈はモフモフで睦美はロボット、ゲテキングは雑食が好きだったからこそ転職してすぐに馴染めたのである。


 その点で言えば、泰造は粘操士に転職した当初から上手に職業技能ジョブスキルを使いこなせていた訳ではない。


 新しい力でリア充を見返してやると必死に努力して今のスタイルを確立したのだ。


「そうなんでしょうか。逢魔さんは従魔の皆さんとどうやって仲良くなったんですか? 戦闘も食事でも自然体ですごいです」


「どうやってとは難しい質問ですね。サクラとリル、ブラドはどう思う?」


「私はマネーバグにこっぴどくやられて逃げた先で主にテイムしてもらってから主を慕ってる」


「僕はご主人がいつも優しくて美味しいご飯を作ってくれるから好きだよ」


「吾輩も主君のご飯は好きだぞ。それに一緒に居て楽しいのだ」


『尊重』


 (ゲンは自分がだらけてても尊重してくれるからってことだろうか?)


 ゲンが<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を発動している状態ではその声が藍大にしか聞こえない。


 それゆえ、単語で尊重とだけ言われても藍大がゲンの気持ちを考えて言いたいことを理解しなければならないのだ。


「なるほど。優しくすることとご飯を作ることが大事なんですね」


「それだけが正解とは限りませんけどね。有馬さんはヨナ達従魔に料理を作ってあげないんですか?」


「仕事がぎっしりでここ最近自炊できてないんですよ。一緒にご飯を食べる時間もなかったりするので、それは申し訳なく思ってます」


「どう考えてもそれが問題」


『ヨナも一緒にご飯を食べられなくて寂しかったんだと思うよ』


「女優鳥教士の飲んでる物が気になったから飲んだだけだな」


 藍大が答えるよりも先にサクラ達がヨナの気持ちを代弁した。


「忙しくても少しでも良いからヨナを召喚する時間を長くしてあげて下さい。ヨナは有馬さんを困らせたい訳じゃないんですから」


「・・・わかりました。【召喚サモン:ヨナ】」


 白雪に召喚されたヨナは酔いのせいで寝息を立てていた。


 白雪はヨナを抱え上げて適当な席に座る。


「アドバイスいただいた通り、ヨナと一緒に居る時間を増やしてみます。ビジネスパートナーじゃなくて家族になれるように心がけて接してみます」


「それが良いと思います。困ったことがあったら相談して下さい」


「ありがとうございます。何かあったら迷わず相談しますね」


 白雪はニッコリと笑った。


 もしも藍大が未婚者で誰とも付き合っていなかったらドキッとしたかもしれないが、5人の妻と5人の子供がいる今では落ち着いたものである。


 白雪とヨナの席から離れていくとすぐにサクラが藍大に抱き着いた。


「サクラさんや、一体何をしてるのかな?」


「当ててんのよ」


「急にどうした?」


「主が白雪の笑顔で鼻の下を伸ばさなかったからご褒美」


『僕もご主人がカッコ良かったからご褒美』


「立派だったぞ」


 サクラだけでなくリルとブラドも頬擦りし始めたため、藍大はしばらく家族サービスの時間に突入待ったなしである。


 その後、藍大は懇親会が終わるまで他の参加者と従魔の食事事情のヒアリングや悩み相談をした。


 こうして、藍大発案のテイマー系冒険者強化合宿は全てのプログラムを終えた。

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