【Web版】大家さん、従魔士に覚醒したってよ(書籍タイトル:俺のアパートがダンジョンになったので、最強モンスターを従えて楽々攻略 大家さん、従魔士に覚醒したってよ)
第436話 桜色の奥方よ、オブラートって知っておるか?
第436話 桜色の奥方よ、オブラートって知っておるか?
3月4日の土曜日の朝食後、藍大はブラドから相談を受けていた。
「主君よ、多摩センターダンジョンについて相談したいのだ」
「多摩センターダンジョン? 何か管理する上で困ってるのか?」
「うむ。道場ダンジョンの改築をした後、多摩センターダンジョンの最終ボスをクレタブルに変更したが探索者の数が毎月減少してるのである。クレタブルは美味いのだがなぁ」
クレタブルとは巨大な牛のモンスターだ。
突撃と地震で周囲に被害をまき散らしながら暴れ回る迷惑な性質であり、多摩センターダンジョンではLv85の個体がブラドによってダンジョンボスに任じられていた。
クレタブルは厄介な分食材としては美味しいので、倒せるのなら食糧調達と鍛錬を両立できる存在である。
ただし、倒した者が周回するかと言えば周回せずに改築された道場ダンジョンに移ってしまい、多摩センターダンジョンで強くなってクレタブルを倒す冒険者が増えれば増える程このダンジョンに挑む冒険者数が減っていく訳だ。
そういった事情からブラドは多摩センターダンジョンでのDP獲得率のV字回復を目指して藍大に相談した。
「道場ダンジョンのワイバーンみたいにクレタブルを多摩センターダンジョンの中ボスにしたら?」
「やはり主君もそう考えるか」
「やはりってことはブラドもそう考えたんだ。なんで実行しなかったんだ?」
「クレタブルが中ボスならばその上の階はどれだけ手強いのかと冒険者達がビビるのではないかと思ってな」
「そうは言っても中ボス配置に伴って中ボスを弱くしましたじゃがっかりするじゃん。それとも、中ボスに別のモンスターを配置して6階の
「あれがわんさといる階層は一般的な冒険者にとって攻略できないのだ。クレタブルは中ボスにしておくのである」
フロアボスだったモンスターが次の階の
ボスラッシュやフロアボスの
そうでもなければ無事に突破できるパーティーが存在しないに違いない。
そんな時、藍大とブラドが話しているテーブルに舞とサクラ、リルがやって来た。
「お困りのようだね~」
「私達も一緒に考える」
『ご主人、いつでも撫でて良いよ』
「ふむ。騎士の奥方と桜色の奥方、リルの意見ももらうとしよう」
前回は舞とリルの案出し参加を渋っていたブラドだったが、道場ダンジョンの改築が上手くいったので今回は素直に力を借りるつもりのようだ。
サクラについては突拍子もない意見を出すことはないだろうと思っているのか、ブラドは全く警戒していない。
舞とサクラは藍大の隣と正面の席に座り、リルが小さくなって藍大の膝の上に座れば話し合いは再開する。
「それでは改めて6階に召喚するモンスターを話し合うぞ。何か6階に相応しいモンスターは思いつかぬか? それが
ブラドの質問に対して最初に答えたのは藍大だった。
「フロアボスにケリュネディアーはどうだ? 5階のフロアボスがクレタブルだし」
「ふむ。ケリュネディアーならば6階のフロアボスとして申し分ないぞ。だが、ボスが素早くて傷つけばすぐ回復系アビリティを使うのでは冒険者達が発狂するのではないか?」
「それは5階のフロアボスがクレタブルの時点で今更じゃね?」
「それもそうであるな」
藍大の言い分を聞いてブラドは確かにそうだと納得した。
ブラドはケリュネディアーと言われて素早い鹿が頭の中に浮かんだ。
素早いだけならば移動先を予測して攻撃することで対処できるかもしれない。
ところが、ケリュネディアーは回復系アビリティを会得しているのでダメージを受けてもHPを回復できる。
回復している隙を狙おうとしても素早いため、回復の隙を作らせないようにしなければならない。
ケリュネディアーを倒すには回復させる暇なく追い立ててダメージを与え続けるか、一撃で仕留めるのがセオリーだ。
一般的な冒険者パーティーが立ち向かえば、うっかりケリュネディアーに回復させてしまってHPを削る所からやり直しになるので発狂してもおかしくない。
そうだとしても、5階のフロアボスも十分面倒臭いクレタブルだから6階のフロアボスにケリュネディアーを配置するのは難易度を上げる点では順当であると藍大とブラドの考えが一致した。
『ねえご主人』
「どうしたリル?」
『ケリュネディアーって美味しいの?』
「クレタブルが美味いならケリュネディアーも美味いと思ったけど、実際のところどうなんだブラド?」
「美味いに決まっておる。鹿肉の中でもかなり上等だ」
『それなら賛成!』
「美味しいボスなら私も賛成!」
「主に賛成」
リル、舞、サクラと続いて賛成したので6階のフロアボスはケリュネディアーに決定した。
フロアボスが決まってすぐに舞が続けて案を出した。
「いっそのこと6階は鹿関連のモンスターが出て来る階層にしたらどうかな?」
『美味しい階層になりそう! 僕は賛成だよ!』
舞の意見を聞いてリルが藍大の膝の上で尻尾をブンブンと振っている。
食いしん坊の意見に食いしん坊は歓迎された。
もう1体の食いしん坊も悪くないと首を縦に振る。
「吾輩も良いと思うぞ。美味しい階層は大歓迎である」
そこでサクラがブラドに質問を投げかける。
「ブラド、鹿関連のモンスターってどんなものがいるの? 私はそんなに詳しくないけど種類は多いの?」
「6階にいてもおかしくない鹿関連のモンスターでパッと浮かぶのはヒッポセルフだ」
「ヒッポセルフ?」
「前半分が鹿で後ろ半分が馬のモンスターだな」
「馬鹿?」
「桜色の奥方よ、オブラートって知っておるか?」
「私には不要な物だよね」
「それはあんまりなのだ」
ブラドからヒッポセルフの特徴を聞いたサクラが容赦ない言い方をするものだから、特にヒッポセルフに思い入れがなくともブラドはヒッポセルフを庇った。
そんなやり取りを放置してリルはブラドに訊ねる。
『ブラド、ヒッポセルフって美味しい?』
「勿論美味いぞ。吾輩が不味いモンスターを提案すると思ったか?」
『だよね! それなら僕は賛成!』
「私も~」
食いしん坊ズは本当に食欲に忠実である。
「ヒッポセルフの強さってどんなもんなんだ?」
「主君よ、ヒッポセルフはヒッポグリフやヒッポカンポスのような合成獣なのだ。”掃除屋”を任せられるぐらいには強いのである」
「それなら俺もヒッポセルフで良いと思う」
「私も反対するつもりはない」
「よろしい。であれば”掃除屋”も決定なのだ」
”掃除屋”がヒッポセルフに決定したので残るは
「はい」
「騎士の奥方」
「ブラドを抱っこした~い」
「関係・・・良かろう」
最初は関係ないだろうと反論するつもりだったが、自分達の話し合いをこっそりと見守る優月とユノの視線を察知してブラドはおとなしく両手を広げる舞に近づいた。
優月はブラドと
ブラドを抱っこした効果なのか、舞はそれからすぐに意見を出した。
「
ミスティックホーンは霧を操る鹿のモンスターで奇襲を得意とする。
ソーンディアーは角が茨のようになっている鹿のモンスターであり、土魔法系のアビリティを得意とする。
「ぐぬぬ。吾輩を抱き締めてすぐに良い案を出すとは・・・」
ブラドは舞が自分を抱っこして良いアイディアを出したことで眉間に皺を寄せた。
今後も話し合いをする場合、閃いた実績があるからと言って舞がブラドを抱っこする口実ができてしまったからである。
「
「そうであるな。主君達相手じゃ今までに配置が決まったどのモンスターもあっさり倒してしまうのだ。ここは主君達以外が好ましいぞ」
「え~。私達も鹿肉食べたいよ~」
『僕も食べたい』
「司達にお土産として狩ってきてもらおう。テストプレイの権利を譲るんだし、夕食分ぐらい分けてもらえるんじゃないかな」
「それなら良いよ!」
『僕も!』
「では決まりであるな。主君、話を通しといてほしいのだ。吾輩は今から多摩センターダンジョンの調整に入るぞ」
「わかった」
この後、藍大が司に多摩センターダンジョンのテストプレイを依頼すると司は興味があったらしく快諾した。
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