第434話 裏方の人間はクールに去るぜ

 DMU本部近くのホテルで国際会議の懇親会が行われている頃、そのホテルの近くにある人気のない路地裏には黒ずくめの服装をしたペア同士が向かい合っていた。


「なんだこの怪しい奴等は?」


「いいや、貴様等の方が怪しいね」


「私達は清掃ボランティアだ」


「全身黒ずくめの清掃ボランティアがいるか!」


 第三者から見ればどちらも十分怪しいに違いないし、黒ずくめで夜の路地裏にいる清掃ボランティアなんて存在しないのではないだろう。


 コソコソやっているボランティアはそれを隠れ蓑にして何か他のことをしているに違いない。


 片方のペアが仕込み杖と三節棍を取り出せば、もう片方のペアは拳銃とナックルを取り出した。


 武装する清掃ボランティアなんて治安が良い日本にいるはずない。


「やはり清掃ボランティアではなかったな。貴様等は何者だ?」


「人に何者かと訊ねるならまず自分から名乗れ」


 そんなやり取りをしているタイミングで到着した者達がいた。


『ご主人、この人達が怪しいよ。左側が廿捌號にじゅうはちごう廿玖號にじゅうきゅうごうで右側がベーとゲーだって』


「わかった。舞とサクラに無力化させるのを任せる」


「任せな!」


「了解。雑事はさっさと終わらせる」


「貴さ、へぶっ!?」


「ぐげっ!?」


「「・・・」」


 廿捌號と廿玖號は舞が鳩尾に一撃ずつ食らわせ、ベーとゲーはサクラが<透明千手サウザンドアームズ>で口を塞ぎつつ首トンすることで気絶させた。


 (やれやれ。伊邪那美様の言う通りだったか)


 藍大は小さく溜息をついた。


 藍大と舞、サクラ、リル、ゲンは伊邪那美が八王子のホテルの近くに他国の工作員が4人いると知らされてすぐにやって来た。


 その結果、黒ずくめのペア同士が路地裏で対立していたので早々に無力化した。


 リルが鑑定した結果を聞き、藍大はこの4人がどことどこの国の工作員か予想できた。


 それでも尋問して自白させてから結論を出すべきと考え、尋問に呼んでおいた方が良さそうな人物に電話をかけた。


 この局面で藍大が連絡する相手とは茂以外にあり得ない。


『もしもし藍大? なんか用か? こっちは慣れないオークショニアをやってクタクタなんだが』


「そんな茂にアタックチャンス」


『おいやめろ』


「八王子のホテル街の路地裏でC国DMU工作班らしきペアとR国DMU工作班らしきペアを見つけて無力化した。引き渡して良い?」


『藍大、俺の胃を攻撃して楽しい?』


「そんなこと言われても我が家の神様が他国の工作班見つけたって教えてくれたから放置できなかったんだ。国際会議には司とパンドラが参加してるし」


『・・・はぁ。OK。DMU本部にその4人を連行してくれ。小会議室で尋問するから』


「わかった。じゃあすぐ行くわ」


 藍大は電話を切った後、無力化した4人を連行してDMU本部へと移動した。


 茂は警備班のメンバー4人と関係者用の出入口の所で藍大達の到着を待っていたが、リルの<転移無封クロノスムーブ>で藍大達はすぐにやって来た。


 そして、連行されている4人の姿を見るや否や顔を引き攣らせた。


「儀式の生贄か?」


 そのように茂が例えたのも無理もない。


 4人はサクラの<透明千手クリアアームズ>によって十字架を模るように空中に吊るされたまま連れて来られたからだ。


 傍から見ればこの4人はこれから生贄に捧げられると説明されれば頷けるだろう。


「工作班を背負って来いとでも? これが一番安全だったんだ」


「そうか。まあ、<転移無封クロノスムーブ>で移動して来ただけマシだよな。すまん」


「だろ? 早速引き渡しして良いか?」


「おう。すみません、お願いします」


 茂は警備班の4人にそれぞれ吊るされた者達を1人ずつ受け取るように頼んだ。


 受け取る際に手枷と足枷を付けて簡単には逃げられないようにした後、4人は尋問する場所へと拘束した他国の工作班員4人を連行した。


 それを見届けた藍大は役目を終えたと思って踵を返そうとする。


「裏方の人間はクールに去るぜ」


「いや、何しれっと帰ろうとしてんの? 裏方どころか当事者だろうが」


「結果だけ教えてくれれば良いのに」


「まあまあ。ここまで来たんだから最後まで付き合ってくれよ」


「しょうがないな」


 茂が尋問に立ち会ってほしそうに言うものだから、藍大は仕方ないと舞達を連れてDMU本部の中に入った。


 小会議室の中に入ると、藍大は当たり前のように収納袋から錠剤の入った瓶を取り出して茂に渡した。


「藍大、これは?」


「奈美さんの作った翻訳機能ありの自白剤」


「で、出た! 奈美さんの作ったヤバい薬だ! なんでここにあるんだよ!?」


「悪い奴捕まえるなら持ってけってゴルゴンが言うから」


「次工程を見据えてる!」


 茂の中でゴルゴンの評価がまた上がった瞬間だった。


 その後、警備班のメンバーが強制的にC国とR国の工作員達を叩き起こして自白剤を飲ませたところ、4つの事実が明らかになった。


 1つ目はC国はダンタリオンの一件に懲りずに工作班を増強していたこと。


 2つ目は両国の工作班はそれぞれのDMU本部長の指示で途中まで海に移動し、それから先は泳いで日本に上陸したこと。


 3つ目は両国とも懇親会が行われるホテルのクロークを襲撃して各国がオークションで競り落とした商品を強奪する気だったこと。


 4つ目は可能ならば他国の力を削ぐために他国の国際会議参加者を暗殺すること。


 これらすべてを聞き終えた後、茂は盛大に溜息をついた。


「はぁぁぁぁぁ・・・。マジで余計な事しかしねえなC国とR国は」


 (これは報復案件かな)


 藍大がそう思ってサクラに視線を向けると、藍大の意図を把握したのかにっこりと笑った。


 笑ってすぐにサクラは藍大に報復完了のサインを出した。


 C国もR国も余計なことをしなければ良かったのに馬鹿なことをしたものである。


「茂、ここから先はDMUに任せても良いよな? 懇親会でC国とR国を糾弾しに行くんだろ?」


「そりゃ俺達だけでも行くけどお前達が来てくれた方が説得力を増すんだが」


「俺達がいると司達の印象が霞んじゃう。新しい二つ名を欲しがってる司の邪魔はできない」


「なるほど。仲間思いなことだ」


 茂は司の参加理由を事前に聞いていたから藍大の口にした理由に納得した。


「じゃあ今度こそ帰るわ」


「おう。悪かったな」


『バイバ~イ』


 リルがそう言ってから<転移無封クロノスムーブ>で藍大達と一緒にシャングリラに戻った。


 藍大達を見送った後、警備班のメンバーに捕まえた工作員を任せて茂は志保に連絡した。


『もしもし?』


「吉田さん、芹江です。今は休憩中ですか?」


『そうですがどうされたんですか?』


「藍大達が八王子のホテル街の路地裏でC国とR国のDMU工作班員を無力化して連れて来ました」


『ダンタリオンのようなモンスターが紛れ込んだりしてましたか?』


「いえ、人間のみです。リルと私の鑑定で人間でしたし、藍大もモンスター図鑑で調べてくれましたが、いずれも人間でした」


『了解しました。C国とR国が会の途中でチラチラ外の様子を伺ってた理由が解けましたね』


 志保は懇親会でC国とR国の本部長の様子が不自然だったことを気にしており、その謎が解けてスッキリした気分になった。


「今から工作員をそっちに連行しますか?」


『そうして下さい。C国とR国に国際社会での発言力を落としてもらうことにします』


「かしこまりました。それではこれよりそちらに向かいます」


 茂は電話を切って警備班の4人と共にC国とR国の連行した。


 ホテルの懇親会の会場に到着すると、茂は志保に工作班員4人を引き渡した。


 志保は参加する皆さんにお知らせがありますと話を始め、自白剤の効果が残ったままの工作班員4人を披露した。


 それにより、参加した国々がC国とR国に対して怒りを露わにした。


 オークションで自分達が競り落とした商品を盗もうとしたこともそうだが、あわよくば自分達を暗殺しようと手の込んだ作戦をC国とR国が用意していたことに衝撃を受けたのだ。


 志保が点けた火はどんどん燃え上がり、C国とR国の代表者達は逃げる隙もなく7か国の冒険者達に拘束された。


 A国のパトリックとミスタはその様子を見てニヤニヤしており、一歩間違えたら自分達もそちら側だったことを理解していなかった。


 余談だが、工作班をあっさりと捉えて計画を破綻させた藍大達は各国から称賛され、司とパンドラの耳にたくさんのさすまおコールが聞こえていたりする。


 このようにして、第二回国際会議は今後の国際社会での力関係を左右する結果を残して終了となった。

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