第425話 こいつクイズ出したいだけだろ!

 国際会議前日、藍大は四聖獣とゲンを連れてシャングリラダンジョン地下12階にやって来た。


 地下12階はブラドが今日完成させた階層であり、最近同行することが減ったドライザーやミオ、フィアともダンジョン探索がしたくなったので四聖獣と護衛兼装備のゲンを加えたパーティーで来たのだ。


「このメンバーでダンジョン来るのは新鮮なのニャ」


『確かにそーなの』


『ボス、ダンジョンに来れて嬉しい』


『みんなはしゃぐのは良いけどご主人に迷惑かけちゃ駄目だよ』


「了解にゃ」


『は~い』


『承知』


 (リルが立派にまとめ役してるじゃん)


 四聖獣のまとめ役としてリルが声をかけるのを見て、藍大は微笑ましい気持ちになった。


 地下12階は森の中にある地下遺跡というテーマらしく、通路のあちこちに根が張っている。


 藍大達が通路を進んで行く内に最初の雑魚モブモンスターの集団が現れた。


『ご主人、鼻が人参の人形がいっぱいいる!』


「あれはキャロピノLv100だ。鼻はリルが言った通り人参で個体によって装備してる武器が違うのが特徴だな」


 リルが嬉しそうに敵の接近を告げたのはその敵の鼻が人参食べ物だったからだ。


 キャロピノの見た目は鼻が人参でそれ以外は木製のマネキンだが、能力値が高くて個体によって使う武器が違う。


「簡単には近づけさせないのニャ!」


 ミオは<起爆泡罠バブルトラップ>を発動してキャロピノの群れの進む道いっぱいにわなを仕掛けた。


 最初の数体がそれを踏み抜いて泡が爆発してキャロピノ達に少なくないダメージを与えていく。


 しかしながら、キャロピノもただの木偶人形ではないから罠の仕掛けられた場所をジャンプして避けようとする。


「ドライザーはジャンプした個体から順に狙撃」


『お任せあれ』


 藍大の指示に従ってドライザーは<創岩武装ロックアームズ>で敵の数だけ槍を創り出してジャンプした敵から順番に撃ち落としていった。


 そうすることにより、生き残ったキャロピノ達はそのまま進むのもジャンプして罠を超えるのもできなくなって立ち往生した。


「フィア、罠に攻撃を当てて起爆させちゃえ」


『は~い』


 フィアは<緋炎吐息クリムゾンブレス>を泡の罠に当てて爆発を起こし、残ったキャロピノ達をまとめて倒した。


 爆発が収まった頃には全てのキャロピノが微動だにせず通路に倒れていた。


「ミオもドライザーもフィアもグッジョブ!」


「ミーがこのパーティーで活躍できる機会があって嬉しいニャン」


『ボスの指示があってのことだ』


『パパ、いっぱい倒したの』


「よしよし、愛い奴等め」


 藍大はミオ達を労ってから倒したキャロピノを回収した。


『ご主人、キャロピノの人参はカレーに使える?』


「勿論だ。人参もレアモンスターになれば更に美味しくなるぞ」


『大変だよ! ミオ、フィア、キャロピノいっぱい狩らなきゃ!』


「賛成ニャ!」


『カレーのために頑張る!』


 食いしん坊な3体がキャロピノ狩りに前向きになった瞬間だった。


 それから進んだ先にキャロピノがいれば、人参の鼻を傷つけないようにリル達が注意して戦った。


 キャロピノが出なくなって少ししてから、藍大達は土でできた巨人に見える雑魚モブモンスター3体に遭遇した。


『ご主人、見て! あの大きいモンスターの角がバナナだよ!』


「その通り。あれはバナホーンタロスLv100だな。頭から生えた2本の角はバナナだ。肉弾戦メインで触れるとHPを吸われるから気を付けろ」


 バナホーンタロスがキャロピノと違って武器を持たないのは全身が武器だからである。


 触れれば<体力吸収エナジードレイン>を使って敵のHPを奪えるので、バナホーンタロスは敵に触れる面積を増やして短い時間でも吸えるHPを増やそうとする。


 このモンスターもまた近づけさせたくないタイプと言えよう。


『僕がまとめて倒す!』


 リルはバナホーンタロス3体が一直線に並ぶように見える位置に移動し、<風精霊砲シルフキャノン>でまとめて吹き飛ばした。


 バナホーンタロスがリルと同じLv100だったとしても、INTが圧倒的に高いリルの攻撃を受ければバナホーンタロスはひとたまりもなく吹き飛んだ。


 ドシンと音を立てて倒れた後、そのままどの個体もピクリとも動かなくなった。


「流石はリルだな」


「クゥ~ン♪」


『これが四聖獣筆頭の実力・・・』


「リルが半端ないニャ」


『フィアもリルぐらい強くなりたいの』


 リルが藍大に頭を撫でられている間、ドライザー達はリルの強さに戦慄していた。


 確かにリルとドライザー達では実力に差があるが、それでもドライザー達が弱いという訳ではない。


 その証拠にドライザー達も通路を進む内に現れたバナホーンタロスを苦労せずに倒していた。


 やがて、藍大達はバナホーンタロスも現れない広い空間に辿り着いた。


 そこには先客がおり、女性の顔と首から下はライオンの体で鳥の翼を持ったモンスターだった。


 藍大はすぐにモンスター図鑑を視界に展開してモンスターの正体を探った。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:スフィンクス

性別:雌 Lv:100

-----------------------------------------

HP:4,000/4,000

MP:4,000/4,000

STR:3,000

VIT:3,500

DEX:2,500

AGI:2,000

INT:3,500

LUK:3,500

-----------------------------------------

称号:掃除屋

   到達者

   ヘイトコレクター

アビリティ:<謎解強制リドルフォース><絶対注目アテンションプリーズ><分析アナライズ

      <体力吸収エナジードレイン><魔力吸収マナドレイン><乾坤一擲ステークオール

      <魔法半球マジックドーム><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:歓喜

-----------------------------------------



 (これがブラドの言ってた新しいタイプの”掃除屋”か)


 藍大はブラドがシャングリラダンジョンに地下12階を増築する際、家族からクレームが入らないようにチェックさせてもらうようにしていた。


 その時にブラドからこの階の”掃除屋”はアビリティ被りで文句を言われることはなく、今までとは違った新しいタイプだからぶっつけ本番で挑んでほしいと懇願されたのだ。


 モンスター図鑑で調べて初めて藍大はブラドが言っている意味を理解できた。


「全員注目!」


 スフィンクスがそう言った瞬間、藍大達はスフィンクスから目が離せなくなった。


 これが<絶対注目アテンションプリーズ>の効果である。


 続けてスフィンクスは<謎解強制リドルフォース>を発動した。


「質問する! 743と819と907の中で素数じゃないものはどれか! 10秒以内に答えよ!」


 <謎解強制リドルフォース>とは使用者が出した質問に10秒以内に正解できれば、使用者の全能力値が一定時間その時点の半分の数値になる。


 逆に間違えるか回答できなかった場合、使用者の全能力値がその時点の1.5倍になる。


 これらの効果に加えて<謎解強制リドルフォース>発動中は同じ空間にいる者全てが動けない。


 使用者にとってメリットの少ないアビリティのように見えるが、相手が絶対に答えられない問題を用意すれば邪魔されずにバフをかけられるということだ。


 藍大は自信満々に問題を出すスフィンクスに対してすぐに答えた。


「819!」


「ぐっ、やるではないか。だがまだだ! 質問する! 元素周期表20番目の元素を10秒以内に答えよ!」


『カルシウム!』


 (フィアってば元素周期表覚えてんの!?)


 スフィンクスの2つ目の質問にフィアが即答したことで藍大はびっくりした。


 実際のところ、フィアは元素周期表を覚えていたのではなく偶々仲良しトリオ達が見ていたクイズ番組で同じ質問を目にしていただけだ。


「何!? 連続正解だがまだ私は戦える! 質問する! ハムが生る木とはどんな木か10秒以内に答えよ!」


 (こいつクイズ出したいだけだろ!)


 藍大は心の中でツッコんですぐにそんなことをしている場合ではなかったと後悔した。


 3つ目の質問は今までの質問と違ってなぞなぞだからである。


 しかも、ハムが生る木なんてリルが興味を示しそうなお題を出されてしまった。


 藍大が止める前にリルが口を開いた。


『松!』


「正か・・・、ぐぁぁぁぁぁ!」


『お遊びはここまでだよ! みんな僕に続いて攻撃して!』


『無論だ』


「任せるニャ!」


『うん!』


 リルは回答した直後に<蒼雷罰パニッシュメント>を発動し、スフィンクスが次の質問を出すのを阻止した。


 そのチャンスをドライザー達も逃すことなく3体とも一撃ずつ決めた結果、弱体化していたスフィンクスのHPはあっさりと尽きてしまった。


「みんなよくやった! 特にリルとフィアは賢かったぞ!」


『ワフン♪』


『エヘヘ~♪』


 藍大は周囲に敵がいないことを確認した後、しばらくの間リル達の頭を撫でてあげた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る