第422話 あのね、舞達がとても良い笑顔で俺を囲んでるの

 事後処理に関する打ち合わせを終え、藍大は自宅に戻って来た。


「「おかえりなさい」」


「ただいま」


「お昼寝しててごめんね~」


「ごめんなさい」


 藍大を出迎えた舞とサクラは申し訳なさそうに謝った。


「大丈夫。リルとゲン、エルと一緒にウェパルも無傷で倒して来たから」


『僕はお手伝いしただけだよ。ご主人はゲンとエルの<超級鎧化エクストラアーマーアウト>でウェパルを圧倒してたの』


 リルが報告した直後にゲンが<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を解除して藍大達の前に現れた。


「撫でて」


「ゲン、さっきは助かった。ありがとな」


「良き哉」


 ゲンは藍大に頭を撫でられて嬉しそうに目を細めた。


 そこに伊邪那美がやって来た。


「藍大よ、”大災厄”との2連戦ご苦労様なのじゃ」


「ありがとう。まあ、実際に戦ったのはウェパルだけなんだけどな」


「日本国内でスタンピードが起きないように抑えたというのに、外国から入って来るとは困ったものじゃよ」


「それは思った。R国とC国みたいに日本方面に”大災厄”を押し付ければ良いって考える国がこれからも出てきそうだ」


「主、そこは私が今度からなんとかする」


「サクラ?」


 藍大と伊邪那美が困った表情で話しているところにサクラが話に加わった。


「私の<運命支配フェイトイズマイン>で日本に”大災厄”を押し付けようと考えただけで天罰が下るように運命を操作する」


「ありがたいけどそれってサクラにかなり負担がかかるんじゃないか?」


「伊邪那美様の結界や舞のドームと一緒。一度発動しちゃえば勝手に効果が続く。発動する時に主に抱き着いていれば全然OK」


 それだけ言ってサクラは藍大に抱き着き、目を閉じて作業を始めた。


 藍大に抱き着いてから1分後、サクラはぱっちりと目を開けた。


「作業完了。これで面の皮が厚い連中も日本任せにできない。もしもそうしようとすれば犠牲が伴う」


「サクラが妾達と同じ領域に着々と近づいておるのじゃ」


「私は主と蘭、みんなと一緒に居られればそれで良い」


「これだけの力を持ったというのによくぞ真っ直ぐ育ったのう」


「それは主のお陰」


 サクラが伊邪那美に胸を張って言い切れば、藍大は恥ずかしくなったらしく顔が赤くなった。


「褒めたって今日の夕食が豪華になるだけだぞ?」


「『やった~!』」


 舞とリルはちゃっかり夕食が豪華になると聞いて喜んでいる。


 実に平和だと言えよう。


 それから、藍大は今もDMU本部で待っているであろう茂に電話をかけた。


「茂、今大丈夫?」


『おう。結果は掲示板の盛り上がりから大体わかってるけど、念のため藍大の口から直接聞きたい』


「そっか。ガミジンはマルオ達が倒してウェパルは俺達が倒した」


『色々とツッコミどころはあるんだが、時系列に沿って質問させてもらおう。”ガミジン”のフォルムチェンジってガミジン固有のものなのか?』


「どうだろうな。ガミジンの場合、大量の死体と魔石を一気に吸収したってのが大きいと思う。ウェパルも吸収系のアビリティを持ってたけど強化されてなかったし、一気に吸収してもフォルムチェンジこそすれど強化には時間制限があるっぽい」


『なるほど。他の”大災厄”についても要注意だな。”ブルースカイ”のAチームと”グリーンバレー”の一軍が組んでも倒せない訳だし』


 三原色クランのトップチーム2つが組んでもガミジンを倒し切れなかった。


 これは日本にとって対策を打たねばならない問題である。


 もしも藍大やマルオがガミジンとの戦闘に間に合わなかった場合、ガミジンに負けて三次覚醒者の死体がガミジンの手中に収まる可能性があった。


 ガミジンがそこから日本侵略を始めれば甚大な被害が出たに違いない。


 そう考えると茂の懸念はもっともである。


「最終的に俺達まで動かされるんだから、R国とC国には物申したいところだな」


『あー、R国もC国もそれどころじゃないと思うぞ。今どうなってるか知りたいか?』


「その言い方からしてヤバいことになってそうだな」


『なってるぞ。R国は政府とDMU本部に隕石が落下。C国では政府とDMU本部でガス漏れからの大爆発』


「ざまあ」


『それな。とりあえず、両国とも中枢に大ダメージを負ったからその復興でしばらくおとなしくするはずだ』


 これはサクラの<運命支配フェイトイズマイン>による報復だ。


 自分達に進んで迷惑をかけた連中にサクラは慈悲なんて与えない。


「A国はどうしたんだ? CN国に”大災厄”を押し付けてただろ?」


『フルカスのことか? プリンスモッフルと仕事人が中心となってA国にフルカスを押し返したってよ。被害はそれなりに出たらしいが三次覚醒者がいない中よくやったと思う』


「あの姉弟はやっぱりただのモフラーじゃなかったか」


 藍大はあの姉弟と名前を口にしなかったにもかかわらず、藍大の膝の上にいたリルがピクッと反応したので怖くないぞと藍大はリルの頭を優しく撫でた。


『マジで大したもんだぜ。A国はCN国よりも攻めやすいとフルカスに認定されたからここからしばらくはフルカスへの対応に追われるだろうよ』


「これで大国3つがおとなしくなれば良いんだがな。あっ、そうだ。ガミジンの死体はDMUに引き渡すけど、ウェパルの死体はこっちで使うから」


『そりゃ倒したのは藍大達だし、ウェパルの死体を使ってC国に抗議しても効き目は薄いから構わんけど何か使い道があるのか?』


「ある。まだ奈美さんには伝えてないけど、伝えたら魔石以外全部使いたいって言うと思うぞ。魔石は従魔の強化に使うから多分何も残らない」


 そこまで藍大が言うと、茂が電話の向こうでゴクリと唾を飲み込んだ。


 奈美が魔石以外全てを素材として使おうとすると聞けば、ウェパルにどんな使い道があるのか気にならないはずがないだろう。


『藍大、一体どんな使い道があるんだ?』


「ウェパルの血はマディドールの泥とマンドラゴンとセットで洗顔の素材になる」


 その瞬間、藍大と茂の電話の内容に聞き耳を立てていた舞とサクラがピクッと反応した。


『その洗顔の効果は?』


「モンスター図鑑でわかる限りじゃアンチエイジング効果があるそうだ」


 藍大の説明にいつの間にか仲良しトリオまで合流して奥さんズが椅子に座っている藍大を取り囲む。


『なんかそっちでドタバタしてるけど大丈夫か?』


「あのね、舞達がとても良い笑顔で俺を囲んでるの」


『売ってもらえる確率は0%ってことがわかった』


 茂は藍大が今置かれている状況を知って心の中で合掌した。


「ウェパルの鱗は保湿クリームの素材になるし、ウェパルの肉体や臓器は漢方の素材になる。他にも色々あるけどそれどころじゃなくなって来た」


『お、おう。頑張れ。藍大が戦った時のことも聞きたかったんだがまた時間を改めるわ』


「悪いな。それじゃ」


 じりじりと奥さんズに詰め寄られて藍大は電話を切った。


 その時には既に奥さんズが藍大を掴んで離さなかった。


「藍大~、これから奈美ちゃんとの所に行こうね~」


「主、善は急げだよ」


「マスター、早く行くわよっ」


「マスター、DMUにウェパルの素材を売らないのは賢明な判断です」


『( ̄ー ̄)ふっふっふ』


「あっ、はい」


 有無を言わせない笑みを浮かべた奥さんズに囲まれてしまえば、藍大の選択肢はYesかはいか喜んでしか存在しない。


 藍大達はそのままおとなしく101号室で仕事中の奈美にウェパルの素材を引き渡しに行った。


「腕が鳴りますね。任せて下さい! あと、完成したら私も少し貰って良いですよね!?」


「勿論だ」


「ありがとうございます! やりますよ~!」


 ウェパルの素材がどんな薬品になるか知ると、奈美はとても良い笑みを浮かべてウェパルの素材は任せろと薬品作りに取り掛かった。


 香奈が生まれてからまだ10日なので、香奈のことも忘れないように注意したが好奇心を刺激された奈美を心配して藍大は司にも奈美が薬品作りに没頭し過ぎないよう注意しておいた。


 藍大達が102号室のリビングに戻ると、ゲンがじーっと藍大を見上げた。


「主さん」


「ウェパルの魔石が欲しいんだろ?」


「流石」


 全部言わなくても理解してくれて助かるとゲンは頷いた。


「今日はゲンの力も結構借りたしな。おあがり」


「感謝」


 ゲンは藍大の手からウェパルの魔石を食べた。


 ゲンが満たされた表情になった直後に伊邪那美の声が藍大に届く。


『ゲンのアビリティ:<水支配ウォーターイズマイン>がアビリティ:<液体支配リキッドイズマイン>に上書きされました』


「ゲン、水だけじゃなくて液体まで操作できるようになったのか」


「ドヤ」


「よしよし、愛い奴め」


 ゲンがドヤ顔を披露するのは珍しいので藍大はゲンが満足するまでその頭を撫でてあげた。


 その様子を見て我慢できなくなった舞達が後ろに並んでいたのは言うまでもない。

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