第34章 大家さん、魔王派閥を立ち上げる

第399話 何度見ても合体は良いですね!

 時は少し流れて11月に入った。


 板垣総理はA国とC国、R国からの自業自得を棚上げした支援要請を突っぱねたおかげで総理を続投することになった。


 一時はガクッと落ちた支持率だったが、DMU本部長の志保に活を入れられて強気な外交をしたことでV字回復したのである。


 政治面の動きはそれで良いとして、藍大達に影響するのは魔王様信者のほうだろう。


 テイマー系冒険者の座談会に参加した神田睦美が9月に魔王様信者を束ねてクランを設立し、彼女はゴーレムを操るからパイロットの二つ名で広く知られるようになった。


 クラン名は信者達の多数決で”魔王様の助っ人”に決まり、睦美が藍大に傘下に入れて下さいとひたすらお願いして”楽園の守り人”の傘下に入った。


 立ち位置としては”迷宮の狩り人”と同列の地位であり、「質の狩り人、量の助っ人」なんて言葉ができたりしていた。


 彼等のクランハウスは”迷宮の狩り人”のクランハウスの隣にある家を改築して建てられた。


 オークションで買った家と土地は”魔王様の助っ人”が共同管理していたので、それをクランハウスに改築したのだ。


 ところが、睦美の提案で順調に”魔王様の助っ人”が設立されたように見えても全く揉め事なくクランが設立できた訳でもない。


 魔王様信者は大きく分けてガチ勢と業が深いエンジョイ勢の2つの勢力がある。


 魔王様推しをはじめとする藍大パーティーや従魔を推す者達はガチ勢だが、各種ロリコン推しや既に他のクランに加入している者はエンジョイ勢に該当する。


 エンジョイ勢は仲良しトリオが大人になったことで勢いが失速しており、以前よりも信者としての熱量はなくなっていた。


 それゆえ、最初はクランが設立されるならば自分達も無所属だし入ってみようかなんて軽い気持ちでいたけれど、話が進むにつれてやっぱり参加は止めると言い出す者もいた。


 睦美も全員をクランに引っ張れるとは思っていなかったため、去る者追わずの姿勢でいた。


 結果として、ガチ勢が”魔王様の助っ人”に参加してエンジョイ勢は他の各種クランに入ったり、元々所属するクランに専念することになった。


 それでも、ガチ勢だけの”魔王様の助っ人”は合計20人いるのだから藍大達を驚かせたのは言うまでもない。


 11月2日月曜日の朝、藍大は睦美とシャングリラの前で待ち合わせしていた。


「魔王様、お忙しいところお時間を頂きありがとうございます」


「別に構いません。神田さん達が力をつけてくれれば私達が対応しきれないことにも手が出せますので」


 藍大は今日、睦美から新しい従魔を手に入れる手伝いをしてほしいと頼まれてそれに付き合う約束をした。


 傘下の”魔王様の助っ人”のクランマスターが強くなれば、自分が動かずに済む案件も増えるので藍大としても断る理由はない。


『ご主人、出発するよ』


「よろしく頼む」


 藍大はリルに頼んで道場ダンジョンにやって来た。


 今日の藍大に同行するのはリルとゲン、ブラドである。


 リルは<転移無封クロノスムーブ>で移動するためで、ゲンは藍大の鎧になるため、ブラドは睦美の要望を叶えてモンスターを召喚するためと各々役割がある者達を連れて来ている。


 道場ダンジョンの最上階に到着すると、いつも通りフロアボスのワイバーンを瞬殺する。


『ワフン。今日はワイバーンハンバーグかな?』


「リルが食べたいなら作るぞ?」


『ご主人、ハンバーグが食べたい』


「よしよし、愛い奴め」


 リルがリクエストすると藍大は可愛い奴だとリルの頭を撫でながら頷いた。


「本当にあっさりとワイバーン師匠が屠られるんですねぇ」


「これぐらい日常茶飯事なのだ」


 睦美が顔を引き攣らせるのに対し、ブラドはよくあることだとバッサリ切り捨てた。


 ワイバーンを倒すのにかなり苦戦した記憶があるから、睦美は目の前でブラドが解体を手伝い始めたのを見て乾いた笑みを浮かべた。


 解体したワイバーンを回収した後、藍大は改めて睦美に質問する。


「神田さん、どんなモンスターをテイムしたいですか?」


「前鬼と後鬼とそれぞれ融合できるモンスターが理想です。どちらも融合して普通のゴーレムよりも強くなりましたが、まだまだシトリーのような強敵には歯が立ちませんので」


 睦美の考えは至極当然のものだった。


 新しい従魔をテイムする場合、従魔を増やすか従魔を強化するかのどちらかになる。


 数を増やすのも間違いではないが、藍大に力を借りられる機会は滅多にないので睦美は質を良くすることを選んだ訳だ。


「わかりました。ブラド、どんなモンスターにしようか?」


「秘境ダンジョンのモンスターはどうであるか? ヴァーチャーマトンとドミニオンマトンならばまだ融合できるはずなのだ」


「なるほど。敢えてそれぐらいのモンスターの方が融合できる可能性が高いよな。神田さん、テイムの準備をして下さい」


「わかりました。【召喚サモン:前鬼】【召喚サモン:後鬼】」


「神田さんの準備はできたか。ブラド、召喚してくれ」


「心得た」


 睦美の準備が完了したため、藍大は早速ブラドに召喚してもらった。


 ブラドが最初に召喚したのはヴァーチャーマトンLv50だ。


「神田さん、ヴァーチャーマトンです。肉弾戦がメインのこのモンスターならば、チタンゴーレムの前鬼と相性が良いので融合できるはずです」


 全身から発光するメタリックカラーの天使人形を見て、睦美はすぐにドール図鑑を使用して前鬼と融合できることを確認した。


「・・・さすまおです。おっしゃる通りでした。確かにヴァーチャーマトンは前鬼と融合できるようです」


「それは良かったです。では神田さん、動き出す前にテイムしちゃって下さい」


「はい! 前鬼、後鬼、ヴァーチャーマトンを取り押さえて!」


 藍大に促されて睦美は力強く頷いてから自身の従魔達に指示を出した。


「神田さん、ブラドが召喚したのでこのヴァーチャーマトンは攻撃しませんよ?」


「・・・失礼しました。前鬼も後鬼も待機」


 ブラドが召喚したモンスターは従魔ではなかったから、睦美はてっきり襲い掛かって来るものだと思っていた。


 しかし、”アークダンジョンマスター”のブラドによって召喚されたモンスターはブラドの支配下にいるため、ブラドが指示しない限り他者を襲ったりしない。


 睦美は恥ずかしさで顔がが真っ赤になったけれど、その気持ちを誤魔化すようにヴァーチャーマトンに駆け寄ってドール図鑑をその頭にかぶせた。


 ヴァーチャーマトンが図鑑の中に吸い込まれたことで、まずは1体目のテイムが完了した。


「【召喚サモン:メタル】」


 融合前提でテイムしたため、睦美はヴァーチャーマトンの名付けを見た目から適当に行った。


 これは藍大やその他のテイマー系冒険者も同じである。


 融合させることがわかっていて捻った名前にするならば、その相手となるモンスターの名付けも捻っていることが前提だからだ。


「【融合フュージョン:前鬼/メタル】」


 睦美はメタルを召喚してすぐに融合を始めた。


 2体が光に包み込まれた後、その中で前鬼とメタルの体が重なり、4本腕に変化したがメタルがベースだとわかるスリムなシルエットになった。


 光が収まると、黒光りした4本腕のメタリック天使人形の姿があった。


 融合前は男性ベースか女性ベースか一目でわからなかったけれど、融合した今は女性ベースであることが明らかだった。


 融合が完了して睦美の目はキラキラ輝いた。


 ロボ好きなので気持ちが高揚するのを抑え切れないらしい。


「何度見ても合体は良いですね! 名前はヴァーチェです!」


 (わかる。ロボ同士の合体は良いよな)


 藍大は睦美に心の中で同意しながらモンスター図鑑を視界に映し出してヴァーチェを鑑定し始めた。


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名前:ヴァーチェ 種族:デュナミスファイター

性別:なし Lv:60

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HP:1,200/1,200

MP:1,500/1,500

STR:1,500

VIT:1,500

DEX:1,200

AGI:1,200

INT:1,000

LUK:1,000

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称号:睦美の従魔

   ダンジョンの天敵

   融合モンスター

   素手喧嘩ステゴロ上等

アビリティ:<剛力乱打メガトンラッシュ><格闘術マーシャルアーツ><流水反撃ストリームカウンター

      <着脱自在デタッチャブル><闘気鎧オーラアーマー><全耐性レジストオール

装備:なし

備考:なし

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 (”素手喧嘩ステゴロ上等”って無機型モンスターの称号としてどうなの?)


 ヴァーチェの称号欄に気になる称号があったものの、睦美が喜んでいるので藍大は気にしないことにした。

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