第390話 モンスターの胃袋ってどうなってんだよ

 DMU運輸を使ってシトリーの死体を郵送して一息ついた後、伊邪那美が藍大を地下神域に招いた。


「藍大よ、よくやってくれたのじゃ」


「完全に偶然だけどな」


「そうじゃろうな。妾としても藍大がシャングリラのことだけを考えずにいてくれたら嬉しいぐらいの気持ちだったんじゃ」


「何が起こるかわからない」


「だから人生は面白いのじゃよ」


「いや、伊邪那美様は神様だろうが」


「そうじゃな。人生じゃなくて神生じんせいじゃった」


「読みは一緒だから紛らわしい」


 他愛のない会話をしていると、藍大と一緒に地下神域に来ていたリルが伊邪那美に訊ねた。


『伊邪那美様、他に”大災厄”持ちのモンスターは日本に来てないの? 僕も次は戦いたい』


「リルよ、そうポンポン”大災厄”が現れては堪らぬのじゃ。今回は旧SK国の方角からシトリーが飛来したことを考えれば、国外の”大災厄”だと判断して間違いないのう」


「そうだ、訊きたかったことを思い出した。伊邪那美様がスタンピードを抑え込んでるから”大災厄”は日本で新たに発生しないんだろ?」


 リルと伊邪那美のやり取りから藍大は伊邪那美に質問するつもりだったことを思い出した。


「その通りじゃ。間引きされなかったダンジョン内でも”災厄”は発生するが、あくまでそれは”災厄”止まりになるのじゃ。”大災厄”になるにはダンジョンの外に出て大量虐殺でもしないと条件を満たさないはずだからのう」


「ということは大量の冒険者が間引きされてないダンジョンで”災厄”に殺され続けたら”大災厄”を抱えたダンジョンになるかもしれないのか?」


「理論上それはないのじゃ。あくまで”大災厄”はスタンピード発生から1ヶ月以上生き延びて直接間接問わず1万人以上殺さねばならぬのでな。従魔にでもならない限り、今の日本で”災厄”がダンジョンの外に出られないのじゃ」


 藍大はそこまで聞いて1つの疑問が頭に浮かんだ。


「伊邪那美様、わざと”災厄”が従魔になって主人を魅了して自由に動けるようにするってことは考えられないか?」


「・・・可能性は0ではないのう。テイムされた従魔は主人に対する明確な敵対行為はできなくなるが、従魔が主人を傷つける意思のない行動までは妨げぬのでな。例えば、従魔が嬉しくなって主人に突撃して甘えたりするのは敵対行動扱いされないのじゃ。魅了も主人に好かれたいという感情から行われるため、敵対行為扱いにはならぬぞ」


「こりゃテイマー系職業の冒険者に注意喚起する必要があるか。なんでもかんでもテイムしてたら悪意のある”災厄”を従魔にして日本が滅茶苦茶になる可能性も捨てきれないし」


『だけどご主人、僕の天敵が従魔を増やさないとガルフは過労で倒れちゃうよ』


「それは悩ましいな」


 リルの意見はもっともだった。


 真奈の場合、従魔モフモフを増やさないとガルフ達の負担が大変なことになる。


 チュチュは策士で”ダンジョンマスター”の地位を継ぐことで真奈の手から逃げたし、ガルフやメルメ、ロック、ニャンシーの負担を考慮すれば真奈の従魔は増えた方がガルフ達の負担が減る。


 藍大もそれがわかっていてガルフ達に同情的だから、リルの意見に頭を悩ませてしまった。


「藍大よ、ひとまず注意喚起だけはしておくべきじゃろう。妾の力の及ぶ範囲に抜け道があるとわかった以上、備えておくに越したことはないのじゃ」


「そうだな。ただし、スタンピードが日本で起きないと知ってるのは”楽園の守り人”と茂だけだ。それを考えてテイマー系の職業技能ジョブスキルを持つ冒険者が増えたから座談会の体で従魔と一緒に暮らす上での注意を促すことにしよう」


「それが良かろう。頼むのじゃ」


「おう。それじゃ、また夕食の時に」


「うむ」


 藍大とリルは伊邪那美と別れて1階に戻った。


 その直後に藍大のスマホの着信音が鳴り響いた。


 電話をかけて来たのは茂である。


「もしもし」


『今大丈夫か?』


「大丈夫。シトリーの死体を見て何かあったのか?」


『おう。謎が1つ解けた。日本からヤクザが消えたってニュースに関わるんだが、藍大も知ってるよな?』


「そりゃニュース見てるから知ってるさ。シトリーの死体からヤクザに関する何かが見つかったとでも?」


『正解だ。実は、シトリーをDMUの鑑定班が解剖した時にその胃袋から消化できてない大量の人間の肉片が大量に飛び出したらしい。それを鑑定したチャレンジャーが茨木組の構成員の肉片を見つけた。ついでに言えば、冒険者崩れの連中の肉片も混ざってた』


「モンスターの胃袋ってどうなってんだよ」


『そこ!? ツッコむのそこなのか!?』


 もっと他に反応すべきところがあるだろうと茂は言外に訴えたけれど、藍大の興味がシトリーの胃袋に向いてしまったのは食いしん坊ズを養う藍大だからだろう。


 ちなみに、冒険者は倒したモンスターの解体をするのでグロ耐性がある者の方が多いから、解剖の結果を聞いた程度では引かない。


「だってヤクザとか冒険者崩れとかどうでも良いし」


『そりゃそうかもしれねえけどよ。まあ、一応伝えとくと木津芽衣もシトリーに食われてた』


「誰だっけ?」


『元”ブルースカイ”のBチームのリーダー。1級ポーションを青空瀬奈と一緒に受け取りに行った際にやらかして炎上し、”ブルースカイ”から追放された女だ』


「そんな奴もいたな」


『もうどうでも良いこと扱いされてやがる』


「俺は過去やらかした奴よりも家族との楽しい日常を記憶したいんだ」


『なるほど。それは一理ある』


 藍大の発言を聞き、茂も老害四天王に悩まされた日々よりも千春と過ごす時間を多く記憶に留めておきたいと思うことがあったので納得した。


「茂としては消えた奴等がどこに行ってたかわかってホッとした感じ?」


『俺個人というよりもDMUとして安心したって方が正しい。国外逃亡した冒険者はいずれも二次覚醒した奴等だったから、外国に取り込まれてあることないこと言われたら面倒だった。それにしても、まさか国内ヤクザを統一した茨木組と一緒の船で旧SK国に行ってたとはって感じだ』


「・・・そう言えば、ゴルゴンがそんなこと推理してたわ」


『マジ?』


「マジだぜ。C国産の羽化の丸薬を仕入れた茨木組が構成員を一次覚醒させて日本のヤクザを統一したとか、俺達がいる限り日本最強になれないから、混乱してる外国に行って自分達がてっぺん目指せるように船で国外逃亡したって推理してた」


『ゴルゴンさん名探偵かよ』


「テレビ好きで探偵もののドラマとかもよく見てた影響だな」


『テレビ好きだもんな。でも、その推理は外れてねえだろ。実際、なんで茨木組が急に酒吞組に勝てたのか謎だったし、冒険者崩れが表立って反抗しなかったのは自分達が勝てないってわかってたからだろ。C国のDMUが誰に羽化の丸薬を売ったのか問い詰めないとな。多分、肉片になった冒険者崩れの誰かだろうけど』


 ゴルゴンの推理により、日本のDMUがC国のDMUに対して本格的に働きかけることが決まった瞬間だった。


「頑張れ。ところで、シトリーの胃袋の話に戻るけどさ、あれって収納袋に似たアイテムにならないの? たくさん入る仕組みがわかればできそうじゃね?」


『結局それかよ。だけど、その発想はなかった。ちょっと職人班に相談してみるわ。藍大が収納袋を貸し出してくれたら作業が捗りそうなんだが・・・』


「中に詰め込んだ物全て移すのがどれだけ大変かわかってる?」


『ですよねー。大丈夫。前に収納袋を鑑定させてもらったから、そのデータと比較しながら作業を進めるよう伝えとく』


「そうしてくれ。興味本位でいじって壊されたら困るし」


『絶対にないって言えないからなぁ。まあ、そっちは何か進展があったら連絡する』


「頼んだ。それと、俺からも1点連絡がある」


 藍大が連絡と言った瞬間、茂が電話の向こうで何かを飲み込んだ音が聞こえた。


『OK。胃薬も飲んだし準備万端だ。連絡事項はなんだ?』


「こらこら、連絡と聞いただけで早まるんじゃないよ」


『煩い。藍大の連絡なんて大抵がヤバいだろうが。どんな内容だ?』


「”災厄”がダンジョンを抜け出す可能性について」


『え?』


 藍大は茂に伊邪那美と話している内に気づいた可能性について説明した。


『ほらー。やっぱり胃薬案件じゃないですかー』


「知らなかったじゃ済まされない案件だろ? ということで、テイマー系の職業技能ジョブスキル持ちを集めて座談会の体でその注意喚起を行うんでよろしく」


『了解。それ、俺も参加して良いか? 何かあった時のために聞いておきたい。というか会議室使って良いからDMU本部でやってほしい』


「わかった。じゃあ夕食後にでも該当する人達に呼び掛けてみるわ。掲示板使って良い?」


『勿論だ。無関係な冒険者に書き込みしないよう注意文言入れとけ。それでも書き込む奴がいたら俺が注意するから』


「助かる」


 藍大は茂との電話を終わらせて夕食作りを始めることにした。


 なお、藍大と茂の会話に聞き耳を立てていたゴルゴンがドヤ顔で藍大の正面に仁王立ちしていたと補足しておこう。

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