第385話 はっ、そうでした! これがモフモフの罠ですね!

 茂と志保が挨拶に来た日の午後、藍大とリル、ゲンは真奈との約束で町田ダンジョンに来ていた。


「逢魔さん、リルくぅ~ん! こんにちは!」


「どうも」


『こんにちは』


 今日も今日とてリルは真奈を警戒しつつ挨拶を返す。


 リルは行儀の良い従魔なので、挨拶をされたらしっかりと挨拶を返すのだ。


「ワ、ワフ・・・」


『ガルフ、いつもお疲れ。君は本当によくやってるよ』


「クゥ~ン」


 真奈と一緒に来たガルフがリルに泣きつくように近寄り、リルはガルフを労ってあげた。


 ガルフは真奈のお気に入りゆえ、他の従魔よりもモフられる時間が長いようだ。


 リルに労ってもらえたことで、ガルフはやはり自分の辛さをわかってくれるのは貴方だけだと甘えているらしい。


「モフモフ同士の戯れって最高ですよね、逢魔さん」


「真奈さんはもう少しガルフのことも気にしてあげて下さい。ずっとモフり続けてたらガルフがストレスでハゲますよ?」


「オン!」


 よくぞ言ってくれたとガルフが藍大に頬擦りする。


「ガ、ガルフが逢魔さんに甘えてる・・・ですって・・・。私には甘えてくれないのに・・・」


「それは真奈さんが構い倒すからでしょうね」


「ワフン」


 ガルフはその通りだと頷いた。


「だってガルフが大好きなんですもん」


「クゥ~ン」


「リル、通訳してあげて」


『うん。主人が俺を気に入ってくれてるのは嬉しいけどしょっちゅうモフるから疲れるって』


「ガルフへの愛情は一方通行じゃないんだね! やった~!」


 暴走している自覚はあるが、愛情が自分からガルフへの一方通行ではないと知って真奈は喜んだ。


 ガルフは真奈が喜んでモフりに来ないように話を続ける。


「グ、グルゥ」


『ブラッシングとかは上手いけどモフモフで台無しにされるから加減を知ってほしいって言ってるよ』


「ガルフ、ブラッシング気に入ってくれてたんだね!」


「真奈さん、落ち着きましょう。着いて早々はしゃぎ過ぎです。ここじゃ目立ちますからそろそろ行きましょう」


「はっ、そうでしたね。失礼しました。ボス部屋にご案内しますね」


 この町田ダンジョンは真奈の支配下にある。


 ”レッドスター”のホームページでの発表によれば、”ダンジョンマスター”であるアルラウネにとどめを刺したチュチュがうっかり”ダンジョンマスター”を継いでしまったそうだ。


 町田ダンジョンは真奈が支配しているため、藍大達はギャラリーの目が届かないチュチュのいる6階のボス部屋に移動した。


 ボス部屋ではチュチュが昼寝をしていた。


「チュチュ~、会いたかったわ~!」


「チュッ!?」


 寝ているところを真奈に強襲<モフモフ>されてチュチュはされるがままになった。


「ワフン」


『ダンマスになって普段モフモフされないんだから存分にモフられるが良いだって』


 (チュチュ、お前策士だな)


 公式発表ではうっかり”ダンジョンマスター”の地位を継いだとあったが、ガルフの発言を聞いて藍大はチュチュが真奈のモフモフから逃げるために意図して”ダンジョンマスター”を継いだのだと悟った。


「チュッチュア~」


 チュチュがお助けーと鳴いているように聞こえたため、藍大は仕方ないと小さく息を吐いて真奈に声をかけた。


「真奈さん、今日の一番の目的はチュチュをモフることじゃないでしょう?」


「はっ、そうでした! これがモフモフの罠ですね!」


「違います」


 真奈がボケたことを口にするものだから、藍大はササッと否定した。


「グルゥ」


『リルさんの主人がいると話がサクサク進んで良いねだって』


「真奈さんだけだとすぐに脱線モフモフするってことか。それは俺にもどうすることもできないぞ」


「クゥ~ン」


 そんなぁとガルフの尻尾が股下にへにゃりと垂れた。


 頼みの綱である藍大でも厳しいとはガルフも思っていなかったようだ。


「コホン。今日逢魔さんにここまで来てもらったのはガルフ達から仲間を増やしてほしいと嘆願されたので、新メンバーの選定に協力してもらおうと思ったからです」


 (なるほど。チュチュがいなくなったせいでガルフ達の負担が増えたからだな)


 真奈の発言から藍大はガルフ達の真意を瞬時に理解した。


 伊達に15体の従魔を面倒見ていないようだ。


「逢魔さんには新しいモフモフについて意見を貰おうと思ってます。私も候補は用意してるんですが、私だけの視点よりもモンスターに精通した逢魔さんの意見を聞きたいんです」


「わかりました。それじゃあ候補を教えて下さい」


「カンフーモンキーとバドブラック、ファントムフォックスの3種類です」


 カンフーモンキーは<格闘術マーシャルアーツ>を得意とするモンスターであり、前衛としてきびきび働いてくれる。


 バドブラックは一見ただの黒猫だが、テイムしたばかりのサクラと同様<不幸招来バッドラック>を会得していて支援向けの後衛だ。


 ファントムフォックスは幻影を操って味方の居場所を敵に悟らせなかったり、攻撃の時間稼ぎができる狐の見た目のモンスターだ。


 当然のことながら、3種類全てのモンスターがモフモフしている。


「真奈さんは前衛と後衛どっちのモンスターの方が良いんですか?」


「後衛ですね。チュチュの代わりになってもらうので。カンフーモンキーは種として面白いから候補に残しましたが、今回は見送りましょう」


 藍大の質問を受けてカンフーモンキーが見送りとなった。


 残るはバドブラックとファントムフォックスの2種類だ。


「その後衛には敵の邪魔をさせようとしてるって認識で合ってますか?」


「その通りです。ガルフ達が攻撃する時間稼ぎをしてもらいたいと考えてます」


 (ファントムフォックスだと弓矢で狙う時に誤射の可能性があるか)


 幻影は有用なアビリティではあるものの、慣れてないと味方が幻影に驚いてしまったりどれが本物かわからなくなる恐れがある。


 超一流のモフラーである真奈ならば実像と幻影の区別ぐらいで来そうなものだが、藍大はバドブラックに興味があった。

 

 やはりサクラが<不幸招来バッドラック>を使っていたことにより、そのアビリティの有用性を理解しているから興味がバドブラックに向いてしまうのだろう。


「バドブラックでどうでしょう? 不幸状態は馬鹿にできないデバフですよ」


「逢魔さんのお墨付きが貰えるならバドブラックにしてみます。チュチュ、お願い」


「チュッ!」


 真奈に頼まれてチュチュはDPを消費してバドブラックを召喚した。


 チュチュに呼び出される黒猫バドブラックという不思議な図のできあがりである。


「ニャ~」


「黒猫可愛いです! テイム!」


『は、速い』


 チュチュがバドブラックを召喚した瞬間には真奈が動き出しており、バドブラックが鳴いたと思ったら真奈は既にビースト図鑑をその頭に被せていた。


 流石は転職組と言ったところで、相変わらず身体能力の高さが伺える動きだった。


 リルが戦慄したのはバドブラックの意表をついてテイムしたからだ。


 確かに素早く動いていたが、リルの速さと比べれば真奈の速さは大したことがない。


 ただし、意識の緩む瞬間を上手く突いて動いているから速く感じられてしまうのだろう。


「【召喚サモン:ニャンシー】」


 真奈は早速テイムしたニャンシーを召喚した。


 藍大は先程の短い時間ではステータスを調べられなかったので、ニャンシーが召喚されたこのタイミングでそのステータスを確認した。



-----------------------------------------

名前:ニャンシー 種族:バドブラック

性別:雌 Lv:25

-----------------------------------------

HP:350/350

MP:350/350

STR:200

VIT:200

DEX:250

AGI:300

INT:300

LUK:250

-----------------------------------------

称号:真奈の従魔

アビリティ:<不幸招来バッドラック><幻惑尾ダズルテイル>   

      <闇矢ダークアロー

装備:なし

備考:驚き

-----------------------------------------



 (一瞬でテイムされたから驚いてるじゃん)


「ニャンシー、これからよろしくね~」


「ニャ、ニャア~!?」


 真奈から洗礼モフモフを受けてニャンシーは更に驚いた。


 訳もわからずテイムされたと思いきや、召喚されてモフられたのだから当然だろう。


「グルゥ」


『ようこそこちら側へだって』


「ガルフがとても良い笑みを浮かべてるように見える」


『ガルフは仲間が増えて喜んでるよ』


「そのようだな」


 自分のモフモフタイムの何割かを引き取ってもらえるのだから、ガルフはニャンシーを歓迎していることだろう。


 とりあえず、ガルフの負担が減って真奈も新たな戦力が加わったから藍大は町田ダンジョンに来た目的を無事に果たせたと言えよう。

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