第29章 大家さん、イベント尽くしの年末年始を過ごす

第339話 サクラ、ありがとう。最高のクリスマスプレゼントだ

 12月25日の金曜日の午後、今日は家族やカップルにとって楽しみなクリスマスだが藍大達にとってはそれだけではない。


「サクラ、ありがとう。最高のクリスマスプレゼントだ」


「私こそありがとう。主が傍にいてくれたから安心できた。女の子だから名前はらんだね」


「そうだな。この子の名前は逢魔蘭だ」


 サクラはつい先程、自分が抱いている元気な女の子を出産した。


 女の子の名前は以前からサクラが付けたいと希望していた蘭になった。


 サクラも舞と同様に自宅での出産を希望し、今日も舞が出産した時にお世話になった産婦人科医と助産師に出張して来てもらったのだ。


 藍大はサクラの陣痛が起きてから出産までの間、ずっと隣で手を握っていた。


 これは舞が優月を産んだ時にそうしていたため、サクラが藍大に自分の時も同じく手を握っていてほしいと頼んだからである。


 今のサクラは自身の<超級回復エクストラヒール>とゴルゴンの<超級治癒エクストラキュア>ですっかり元気になっており、蘭を愛おしそうに見ている。


「伊邪那美様のおかげで安産だったのはありがたいな」


「過去に見ない程スムーズなお産だったって言われたね」


「フッフッフ。妾のすごさがわかってくれたなら何よりじゃ」


 藍大の頭に声が響いた直後、神鏡が光って半透明の伊邪那美がその場に現れた。


 サクラの出産に際して神棚と神鏡が同じ部屋に会った方が良いのではと思い付き、藍大はそれらを一時的にリビングから寝室に移動させていた。


 それゆえ、産婦人科医と助産師が退室してから伊邪那美は姿を現した。


「ふむ。立派な女の子だの。顔はサクラ似じゃな」


「そうだな。女の子なら俺よりもサクラに似てほしかったからホッとした」


「主に似ててもボーイッシュで良いと思うけど」


 藍大達が蘭の顔について話していると、舞に抱っこされた優月が蘭に興味津々だった。


「あう~」


「優月、妹の蘭だよ。優月はお兄ちゃんだから、何かあったら蘭を守ってあげられるようになろうね」


「あい」


「藍大、すごいよ! 優月がお兄ちゃんだって自覚してる!」


「舞、すごいし嬉しい気持ちは同じだけど声のボリュームを落として。蘭がびっくりしちゃう」


「あっ、ごめん」


 生後7ヶ月の優月が兄としての自覚があると聞いて驚く気持ちは藍大も舞と同じだが、それでも蘭がびっくりして泣き出すのは避けたいので人差し指を口の前に持って来た。


 舞もしまったと気づいてすぐに謝った。


「マスター、次はアタシ達の番なのよ」


「そうです。たっぷり甘やかしてほしいです」


『(〃'ω')ヨロ(〃・ω・)シク(o〃_ _ )oデスッ♪』


 ゴルゴン達も藍大と結婚してから夫婦の夜の営みに励んだこともあり、妊娠10週目を迎えている。


 妊娠する時も一緒というあたり、元幼女トリオは本当に仲良しである。


「わかってる。ゴルゴンもメロもゼルも、大変だと思うけど頑張ってくれ。俺にできることはなんだってするから」


 藍大がそう言った瞬間、ゴルゴン達が顔を見合わせてにっこりと笑みを浮かべた。


「今なんでもって言ったわねっ?」


「言ったですか?」


『(o´艸`)ムフフ』


「言ったけど何か希望があるのか?」


「毎日マスターに膝枕してもらう時間が欲しいんだからねっ」


「私は毎日マスターに抱き締めてほしいです」


『(ーεー)チューシテ♡』


「お安い御用だ」


 (予想してたよりずっと可愛いお願いだった)


 元幼女トリオのお願いが想定よりも可愛らしいものだったので、藍大はこれぐらい容易いと快諾した。


「ちょっと待った~」


「どうしたの舞?」


「藍大に甘える権利は私とサクラにもあると思う」


「舞、良いこと言った。私達だって主に甘えたい」


『僕もご主人に甘えたいよ』


「同感」


「吾輩も食事面で甘やかしてもらいたいぞ」


「ミーも甘やかしてほしいのにゃ」


『フィアも~』


 舞とサクラが自分達だって甘えたいと主張したのを見て、リル達他の従魔も甘えたいと主張し始めた。


 このままだとこの場にいる者全員が藍大に甘えたいと言って収拾がつかなくなると思い、人差し指を口の前に当てた。


「みんな、蘭がびっくりしちゃうからストップ」


 蘭を理由にしてその場を収めるのがこの場における最適解だと判断した藍大の考えは正しく、全員が藍大と同じように人差し指を口の前に当てて静かにした。


 そこにコンコンと静かにドアをノックする音が聞こえた。


 ドアの向こうにいるのが”楽園の守り人”メンバーと茂だと察したため、伊邪那美は霊体化を解除して消えた。


 伊邪那美の存在は極秘事項なので、伊邪那美の姿が見えなくなったことを確認してから藍大がドアを開けた。


「蘭ちゃんか。空手やったら強そうね」


「適性的に違うんじゃない?」


「逢魔さんとサクラさんの子供ですから、前衛じゃないと思います」


「せやかて工藤」


「健太、ちょっと黙っとき。大体それは蘭ちゃん関係ないやろ」


 女の子で蘭と名付けられたことは知っていたため、麗奈の発言から”楽園の守り人”のメンバーは高校生探偵の幼馴染を思い浮かべたようだ。


 話が脱線してしまったが、茂は藍大とサクラに訊ねた。


「藍大、サクラさん、蘭ちゃんを鑑定して良いんだな?」


「頼む」


「うん」


 茂が今日この場にいるのは人と従魔の子供である蘭を鑑定するためだ。


 東洋の魔王と暴食騎士の子供なので優月の鑑定も興味をそそられていたが、茂的には主と従魔の間に生まれた子供がどうなるのかの方が気になっていた。


 勿論、優月と蘭に優劣をつけたいという訳じゃなくて純粋な好奇心である。


 また、この興味は茂だけのものではない。


 主と従魔の間の子供がどんな存在なのか日本だけでなく世界からも注目されている。


 もしも強力な力を持つ者が生まれたとしたならば、自国でテイムができる冒険者の囲い込みを強化する国が出て来ることだってあり得る。


 SK国とNK国の南北戦争はまだ続いており、A国とC国の介入のせいでSK国とNK国自体は既にボロボロだが戦争は長期化している。


 モンスターと違って短期的な戦力にはならないけれど、長期的に考えて優れた人財を戦力としてカウントしようとする国だっていないとは限らないのだ。


 藍大を敵に回したくないから、日本がそんなことをしようとは考えないだろうが海外もそうとは言い切れない。


 そういう事情でこの鑑定は非常に重要なものだと言えよう。


「こ、こう来たか・・・」


「何が見えたんだ?」


「俺が言うよりも自分で見た方が良いな。鑑定結果を書き起こすからちょっと待っててくれ」


 茂はそう言って鑑定結果をメモに書いて藍大とサクラに見せた。



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名前:逢魔蘭 種族:魔人

性別:女 Lv:1

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HP:10/10

MP:50/50

STR:1

VIT:1

DEX:5

AGI:1

INT:5

LUK:1,000

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称号:ラッキーガール

職業技能ジョブスキル:占術士

装備:なし

備考:睡眠

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 (人間悪魔サクラのハーフで魔人か。”ラッキーガール”もLUKが1,000なら頷ける)


「茂、占術士の説明よろ」


「おう。一次覚醒段階ではLUKが高ければ高い程予知の精度が上がる職業だな。今の時点でも3割ぐらいは当たると思うぞ。蘭ちゃんが成長して宝くじに興味を持ったら・・・」


「荒稼ぎする気しかしないな」


「絶対にやらせるんじゃないぞ?」


「藍大、俺にこっそりその番号を教えてくれても良いんだぞ?」


「「恥を知れこの俗物が」」


 藍大と茂の会話に健太が口を挟むと、2人は健太にジト目を向けて息ぴったりにツッコむ。


 逢魔家と司、奈美もジト目を向けていたが、駄目なのかとしょんぼりする麗奈と未亜がいたのはやれやれである。


 それからこの場は解散となり、茂はDMU本部に戻って”楽園の守り人”のメンバーも自室へと戻っていった。


 舞達も藍大とサクラに気を遣って部屋を出た。


「サクラ、これからは一緒に子育て頑張ろうな」


「うん。頑張る。落ち着いたら2人目も狙う」


「焦る必要はないと思うけど?」


「舞に負けられない」


 そこで張り合わなくてもと思う藍大だったが、何を言ってもサクラの意思は変わらなさそうなので苦笑した。

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