第337話 わ、妾は伊邪那岐に操を立ててるのじゃ!

 藍大達がシャングリラに戻って来た時、奈美に素材を預けたタイミングで神棚と神鏡が届いたことを知らされた。


 神棚と神鏡は箱詰めされていたため、お腹空いたと目で訴える食いしん坊ズには勝てず開封は食後にやることにした。


 宝箱の中身については、調理器具の可能性を考慮して食事の準備よりも先にサクラが行った。


 宝箱の中から出て来たのはミスリルマッシャーであり、昼食にバロンポテトのポテトサラダが追加されることになった。


 それはそれとして、ヤマタノオロチのステーキは食いしん坊ズに好評だった。


「美味しい! ラードーンステーキにも負けてないよ!」


『運動した後のステーキは格別だね!』


「ふむ! ヤマタノオロチは食べられる方だったのだ!」


「美味いのニャ!」


『パパの料理、大好き!』


 気が付けば聖獣の4分の3が食いしん坊ズ入りしていたが、それを気にしてはいけない。


 食いしん坊ズ以外の面々もヤマタノオロチの肉を美味しく食べていた。


「元気が出て来る味だね」


「今晩は頑張るわっ」


「マスター、もっと食べるですよ!」


『(*^□^)ニャハハハハハハ!』


 サクラのリアクションから察するに、ヤマタノオロチの肉は滋養強壮に良いらしい。


 もっとも、元幼女トリオまで元気の意味を夜の営みのそれだと捉えているようだが。


「「「『『もう1枚!』』」」」


「はいよ」


 食いしん坊ズが1枚では足りないと次のステーキを希望したので、藍大はあらかじめ焼いておいたステーキを収納リュックから取り出して配った。


 席を立ってリクエスト分のステーキを焼いていたら、自分が食べている途中のステーキが冷めてしまうので予め用意しておいたのだ。


 藍大の食いしん坊ズ対策はばっちりである。


 食事が終わると、後片付けと食休みを挟んでいよいよ神棚と神鏡を段ボール箱から取り出した。


「随分と立派だな」


「これなら伊邪那美様も喜んでくれるんじゃない?」


「主、早速飾ってみよう」


『ご主人、お供え物も忘れちゃ駄目だよ』


「よし、飾ろう。お供え物もばっちりだ」


 藍大達は作業分担してテキパキと神棚と神鏡を設置した。


 お供え物には神棚に乗るサイズのヤマタノオロチのステーキと飲猿殺しを用意した。


 藍大達は神棚の前に座って手を合わせ、そのまま目を瞑って祈る。


 リルやゲン、フィアは手を合わせられないので目を瞑って祈る。


 その瞬間、ヒヒイロカネ製の神鏡が光り始めた。


『おめでとうございます。逢魔藍大が伊邪那美の頼み事をやり遂げました』


『その報酬として、神棚と神鏡がある限り日本でスタンピードは起こらなくなります』


『おめでとうございます。逢魔藍大が伊邪那美の頼み事で期待以上の成果を挙げました』


『その報酬として、逢魔藍大の家族は安産が約束されます』


 伊邪那美の声が聞こえなくなった後、藍大とリルが精神世界で出会ったままの姿の伊邪那美が藍大達の前に現れた。


 実体ではなく幽体らしく半透明ではあるが、それでも現実世界に姿を見せられるだけ力を取り戻せたのは間違いない。


「藍大、リル、並びにその家族よ、妾の頼み事に期待以上の成果を挙げてくれたことを感謝するのじゃ」


「伊邪那美様、こっちに出て来られるようになったんだな」


「うむ。神棚と神鏡の仕上がりが良く、最初の供え物としてヤマタノオロチの肉と上質な酒があったおかげじゃよ。初めては大事なのじゃ。初めてはな」


「わかる。初めてって大事だよね」


「主との初夜は忘れられない」


「そうよねっ、大事よねっ」


「伊邪那美様、わかってるです」


『それな(σ゚∀゚)σ』


 舞を筆頭に藍大と夫婦になったメンバーはうんうんと力強く頷いた。


「そうじゃな。ということで、妾の期待を上回った分サービスさせてもらったぞよ」


「伊邪那美様、ありがとう。出産は大変だろうから、舞達の負担が減るのは本当に助かる」


「良いのじゃ良いのじゃ。それだけ妾も感謝しておるからのう」


「そう言ってもらえると嬉しい。ところで、伊邪那美様は今後どうなるんだ?」


 藍大はこれから伊邪那美がどうするつもりなのか気になった。


 頼み事はこうしてクリアしてみせたが、その後伊邪那美がどうしたいのか聞いていなかったからである。


「しばらくは本調子まで回復するのに専念させてもらうのじゃ。スタンピードを抑え込むのに力を使っておるのでな。見ての通り、今の妾はまだ現実世界に完全な姿で顕現もできなければ時間にも制限があるのじゃ」


「なるほど。どれぐらい時間がかかりそうだ?」


「ざっと50年じゃな」


「好きだな50年って括り」


「人間五十年という舞があったじゃろ? いや、今はもう人生100年時代じゃったか」


「自己解決してんじゃねえか。その50年って時間経過だけのパターンだよな? 短縮する方法はあるんじゃないか?」


 伊邪那美のことだから、何か他に手段があるのではないかと藍大が思うのは当然だろう。


 頼み事をして来た時だって、最初に50年と言っておいてから短縮する手段を話したので今回もそうに違いないと思った訳だ。


 しかし、伊邪那美は首を横に振った。


「残念ながら現状ではこれが最速じゃ。そもそも、環境の整ったシャングリラで祀ってもらえるから50年で済むだけぞよ。ここ以外だったら200年以上かかるのじゃ」


「えっ、マジ?」


「マジじゃ。七つの大罪と聖獣、”アークダンジョンマスター”が揃っていることで100年回復期間を短縮できておる。それに加え、由緒正しき巫女の家系の血である藍大が妾を祀ったことで更に50年短縮したのじゃ。これ以上短縮する方法に心当たりがないのう」


「今は、か」


「今は、じゃ。藍大達は色々と面白いことをやっておるから、妾が今思いつけなくとも将来的に何か思いつくヒントを得られるかもしれん」


「そういうことなら今まで通り自由にさせてもらうぞ。何かあったら言ってくれ。できることなら力を貸す。伊邪那美様とはもう知った仲なんだし」


 藍大が伊邪那美に笑顔でそう言うと、伊邪那美は顔を赤らめた。


「わ、妾は伊邪那岐に操を立ててるのじゃ!」


「はい?」


「そ、そんなことを言われても惚れたりしないのじゃ!」


「いや、告白してないからな!?」


「もう時間じゃな! また来るのじゃ!」


 伊邪那美は逃げるようにして姿を消して神鏡の光が消えた。


「顔真っ赤だったね~」


「主、伊邪那美様落としちゃう?」


「俺、告白なんてしてないよな?」


「私はしてないと思うよ」


「私もそう思う。多分、伊邪那美様の恋愛偏差値が低い」


「サクラ、もうちょっとオブラートに包もうぜ」


「ごめんなさい」


 仮にも女神に対して恋愛偏差値が低いなんてことは、”色欲の女王”であるサクラでなければ言えないだろう。


「アタシ、大変なことに気づいたのよっ。伊邪那美様がマスターの奥さんになったら、アタシ達も神様と同じポジションなのよっ」


『(゚∇゚ ;)エッ!マジカ!?』


「ゴルゴンもゼルもそんな訳ないですよ。種族が違うです」


 ゴルゴンが大発見だと言わんばかりに言ってゼルが驚くが、メロは冷静に2人にツッコミを入れる。


 今日もメロは元幼女トリオのストッパーの役目を立派に果たしているようだ。


『ご主人、今日も伊邪那美様の所に行ってみる?』


「今日は止めとこう。誤解がもっと酷いことになりそうだし」


『そっかぁ。残念だなぁ』


 リルは精神世界で伊邪那美と会いに行くことを口実に藍大と一緒に寝たかっただけだった。


 それに気づいた藍大はリルをモフる。


「愛い奴め」


「クゥ~ン♪」


 その様子を見てゲンとミオ、フィアが後ろに並んだ。


 リルだけではなく自分達も構ってくれという意思表示である。


 藍大はゲン達のリクエストにも答えた後、うっかり忘れていたと茂に電話した。


『もしもし?』


「茂、神棚と神鏡ありがとな。素晴らしい完成度だった」


『後で職人班にも藍大が満足してたって伝えておこう。それで、例の件はどうなった?』


「おう。富士山ダンジョンも潰したし、ちゃんと伊邪那美様の頼み事をクリアしたから日本のスタンピードは抑え込まれたぞ。神棚と神鏡がある限りって条件が付くけど」


『すげえな。この電話が終わったら、各地のダンジョンの状況についても調べてみるわ。何か変化が起きたかもしれないし』


 茂の指摘はもっともだろう。


「確かにそうだ。でも、DMUとして日本はスタンピードが起きないなんて報告するなよ? 100%面倒なことになるから」


『わかってる。野蛮な国がシャングリラに忍び込もうとするかもしれないからな』


「それは俺の力で防げる」


『そうだった。そのセキュリティが羨ましい。とりあえずお疲れ。あっ、そうだ。最後の老害四天王を昨日排除しといた』


「知ってる。ニュースで見た。その言い方からして、茂が討伐したのか?」


『討伐っておい。まあ、突っかかって来た一部始終を録音して親父に聞かせたけど』


「やるじゃん」


『いつも藍大達に迷惑をかける訳にはいかねえからな』


 お互いに報告すべきことを報告し終えると、藍大は電話を終えた。


 舞が優月を右腕で抱っこして待機しており、左手には絵本を持っていた。


「藍大、優月が絵本読んでだって。絵本に触ったまま藍大のことじっと見つめてたの」


「わかった。静かに待てるなんて偉いぞ」


「あい!」


 この後、藍大の絵本の読み聞かせで舞が寝てしまったのは別の話である。

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