第310話 こちらいつの間にか前衛になってたマルオです

 掲示板のモンスターモフモフスレが盛り上がっていた頃、”レッドスター”の一番隊は成美達”迷宮の狩り人”を連れて川崎大師ダンジョンの10階にやって来ていた。


「”迷宮の狩り人”のみんな、今日はよろしくね」


「「「よろしくお願いします!」」」


 真奈が代表して声をかけると、成美達は偉大な北村ゼミの先輩に返事をした。


 この場に成美達が連れて来られた理由とは、10階にあるボス部屋の主をテイムするためだ。


 川崎大師ダンジョンにはアンデッド型モンスターも登場することが周知の事実だが、5階よりも上に行くとアンデッド型モンスターがどのフロアにも必ず1種類は出現する。


 ”レッドスター”の一番隊が10階のフロアボスと対面した時、ボス部屋の中にいるのはアンデッド型モンスターだった。


 DMU鑑定班にその写真を鑑定してもらったところ、そのモンスターはエルダーリッチLv85だと結果が出た。


 倒すのは容易ではないが不可能とも言えない。


 しかし、今の川崎大師ダンジョンを潰してしまえばこのダンジョンに通う冒険者達からのブーイングが起こることが容易に想像できる。


 それを阻止するとならば、前回のように藍大に頼んで”ダンジョンマスター”を倒してからダンジョンを掌握するか”ダンジョンマスター”をテイムするしかない。


 獣型モンスターだったら真奈がテイムしたが、生憎エルダーリッチはアンデッド型モンスターだから真奈にはテイムできない。


 いつも”楽園の守り人”にお世話になるのは申し訳ないということで、今回はアンデッド型モンスターをテイムできるマルオのいる”迷宮の狩り人”が呼ばれた訳だ。


 真奈が北村ゼミの後輩達に経験を積ませてあげようと誠也クランマスターに提案し、その提案が通って今がある。


 誠也は”楽園の守り人”の兄弟クランたる”迷宮の狩り人”とも関係を持っておくことにより、大手クランですらあっという間に力関係が変動しうる激動の時代でも”レッドスター”が生き抜けるように動いている。


「ウォン!」


「ガルフも挨拶してるのね。良い子良い子」


 ガルフは道場ダンジョンでテイムされた時よりも明らかに大きくなっていたが、主人である真奈には従順である。


「クレセントウルフってこんな大きいんですか? ポニーぐらい大きくありません?」


 成美は藍大から聞いていたクレセントウルフのサイズとガルフのサイズが違うと感じ、その疑問を真奈にぶつけてみた。


「クレセントウルフじゃないよ。ガルフは進化してハティになったの。ね、ガルフ?」


「ウォン!」


「え? テイムしたのって日曜日の午後ですよね? 今は火曜日の朝ですから、昨日1日で進化するまでレベルアップさせたんですか?」


「その通りよ。昨日1日費やしてガルフをLv50まで育てたわ。あっ、ガルフがハティに進化したのはLv30ね」


「「「えぇっ?」」」


 サラッと真奈がすごいことを言うものだから、成美だけでなくマルオと晃も驚いてしまった。


 驚く成美達を見て誠也は苦笑した。


「君達が驚くのも当然だ。愚妹は昨日、ガルフと共に早朝から日没まで客船ダンジョンにずっといたんだ。朝は犬と言っても通じるサイズだったのに、帰って来たらポニーサイズになってるんだから私も驚いたよ」


「「「ですよね」」」


 誠也の言い分はもっともだと成美達は頷いた。


「真奈がヤバいのは平常運行じゃね?」


「あー、今だけは兄貴に同感」


「・・・ガルフ、今日はフロアボスを馬鹿兄妹を壁にして地形を利用した回避の練習をしてみよっか」


「ウォン?」


 三島兄妹が余計なことを言ったため、真奈はガルフに笑いかけながら鬼畜な提案をする。


 ガルフもマジでやっちゃって良いのかと首を傾げている。


「おい、冗談だろ?」


「冗談よね? 私、後衛だから逃げ続ける体力なんてないわよ?」


「丁度良いんじゃない? 豪は盾役タンクだからパーティーメンバーを狙った攻撃も体を張って守るのが仕事だし、華は最近運動量よりも食べる量の方が多いって聞くし」


「「ごめんなさい。許して下さい」」


 三島兄妹は流れるように真奈に対して頭を下げた。


 ”ダンジョンマスター”のエルダーリッチと戦うのに余計なリスクを負いたくないからだ。


「フフン。わかればよろしい」


「馬鹿なことやってるんじゃない」


「痛い!」


 真奈は誠也の拳骨を脳天に受けて痛そうに頭を抱えた。


「気持ちを引き締めろ。これから”ダンジョンマスター”と戦うんだぞ?」


「・・・わかってるって。ありのままの私達を見てもらうことで笛吹さん達の緊張をほぐそうと思ったんだってば」


「身内の恥を晒される私の身にもなれ」


「く、苦労してるんですね」


「わかるかい?」


「ええ。ウチにもお調子者がいますから」


「なるほど」


 成美と誠也に奇妙な連帯感が生まれた瞬間だった。


 誠也は真奈に頭を悩ませ、成美はマルオに頭を悩ませている。


 確かに似た者同士と言えるだろう。


 いや、それよりもモンスターを従える者はお調子者が多いのかもしれない。


 カナダ人留学生のリーアムもお調子者な印象が否めない。


 藍大も今でこそ舞や従魔達のボケの対処に追われているが、元々はサラッとボケたりしていた。


 他の3人程根明ではないが、藍大も一般的なラインよりは根明である。


 意外な共通点が発見されたのかもしれない。


「ところで、マルオ君の従魔はどうしたんだい?」


「”レッドスター”の皆さんと一緒なので、連れ歩くと大所帯になると思って今は亜空間で待機してます。ご覧になられます?」


「見せてもらえるなら見ておきたいな。戦闘は私達が引き受けるにしろ、君達が自分の身を守れるぐらい強いのか気になるからね」


「わかりました。【召喚サモン:ローラ】【召喚サモン:テトラ】【召喚サモン:フェルミラ】」


 マルオは3体のモンスターを召喚した。


 ローラはマルオの最初の従魔であり、マルオの相棒的立ち位置にあるから固定枠のようだがセーラとオルラの姿がなかった。


 だが、それはセーラとオルラが倒されて失ったのではなく、融合して今のテトラとフェルミラになったからだ。


 テトラはセーラと川崎大師ダンジョンでテイムしたリビングアーマーが融合したモンスターであり、種族名はリビングガードナーとなっている。


 赤みを帯びたフルプレートアーマーのアンデッドで両手に大盾を持つ。


 鎧自体がテトラだからその中には何も入っておらず、<着脱自在デタッチャブル>の効果でマルオがテトラを装備できる。


 テトラは召喚されてすぐに<着脱自在デタッチャブル>を発動し、既にマルオの鎧としての役割を果たしている。


 フェルミラはオルラとファントムバードに進化したカルラが融合したモンスターであり、種族名はフォールンワイトに変わっている。


 見た目は両手に魔法の杖を持った双頭の骸骨堕天使である。


 アンデッド型モンスターはその他のモンスターよりも融合できるパターンが多く、一度融合しているセーラとオルラ、カルラが二度目の融合を果たしていた。


 融合が一度に限られないと知った時、アンデッド型モンスターは奥が深いとマルオが感じたのは言うまでもない。


 当然、これなら本気で自分の考えた最強のアンデッド型モンスターができるとも思っている。


「ねえねえマルオ君」


「なんですか真奈さん?」


「マルオ君ってもしかして前衛になっちゃった感じ?」


「こちらいつの間にか前衛になってたマルオです」


「何それ面白い」


 何がどうなれば鎧にになれるアンデッド型モンスターを着こんで前衛になるのかと真奈はツッコみたくなった。


 しかし、北村ゼミには毎年1人は変人が紛れ込むので今の4年生の代はマルオがそれなのだと思って納得した。


「マルオが盾になってくれるおかげで、私も落ち着いて演奏してから戦闘に参加できます」


「僕もヘイトを稼ぎ過ぎたらマルオの背後に隠れれば良いので助かってます」


「俺よりもタンクしてる!?」


「兄貴、今日は本物の盾役タンクとして肉壁になってね」


「あぁもう! やってやんよ!」


 マルオが予想外に盾役タンクとして頑張っていると知り、Aランクの盾役タンクである豪が即席の盾役タンクに負けてなるものかと自棄になりながら気合を入れた。


「豪、気合を入れるのは良いが無茶はするな。マルオ君からは微かに逢魔さんに似た得体のしれない感じがする」


「えっ、マジすか!? やった~!」


「「それはないです」」


 誠也の発言に喜ぶマルオに対して成美も晃も真顔で否定する。


「兄さん、私も違うと思うな。マルオ君は祭囃子と似てるよ」


「その通りです」


「真奈さんの言う通りです」


「そ、そうか。オホン。話が逸れてしまったが、この戦力なら”迷宮の狩り人”もエルダーリッチから自分の身を守れるだろう。頭を切り替えてボス部屋に突入しよう」


「「「了解!」」」


「「「はい!」」」


 真奈の発言に成美と晃が力強く頷くと、若干押され気味になった誠也が仕切り直して2つのパーティーを率いてボス部屋に突入した。

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