第308話 唐揚げ焼き鳥チキンステーキ!

 翌日の月曜日、藍大は昨日と同じくメンバーと共にシャングリラダンジョンの地下8階に来た。


 地下8階に来て早々に藍大達は赤みを帯びた金色の巨大な棘ボールの群れに襲われた。


「ヒヒイロヘッジホッグが来てるぞ!」


「ミオ、誘導しろ!」


「わかったニャ!」


 藍大に指示されたミオが<霧満邪路ミストダンジョン>を発動し、霧によってできた通路にヒヒイロヘッジホッグが誘導される。


 その通路はミオが自在に操れるので、進路を変えてヒヒイロヘッジホッグ同士がぶつかって勢いが相殺される。


「止まればこっちのもんだ! ミオ、解除しな!」


「はいニャ!」


 戦闘モードの舞に言われれば、ミオは背筋をピンと伸ばしてすぐに指示通りに動く。


『ボス、加勢に行く』


「頼んだ」


 味方同士の衝突で動きの止まったヒヒイロヘッジホッグ達はただの的なので、舞とドライザーが各個撃破した。


『フィアがLv69になりました』


『フィアがLv70になりました』


『フィアがアビリティ:<灰雛復活アッシュリザレクション>を会得しました』


「新しいアビリティを会得したか」


「ピィ!」


 藍大はフィアが復活系アビリティを会得して不死鳥らしくなってきたと感じた。


 <灰雛復活アッシュリザレクション>はこのアビリティを保有する者のHPが尽きた時、自動的に体が灰になってその中で雛になってHP満タンの状態で復活する効果がある。


 ただし、1日に1回しか使用できないという制限はあるし、復活してから24時間は雛のままで大きくなれない。


 ゲームで例えるならばデスペナルティのようなものだと考えるべきだろう。


 フィアの頭を撫でてからヒヒイロヘッジホッグ達の死体を回収していると、リルが何もいない天井に向かって<聖狼爪ホーリーネイル>を発動した。


『そこ!』


 リルの攻撃は天井にぶつかる前に透明になっていたトリオレイヴンに命中し、トリオレイヴンの全ての首と胴体が離れ離れになって墜落した。


「流石はリル。俺達には気づけない敵も平然と倒してのける」


「クゥ~ン♪」


 ハンターは獲物が油断した隙を狙うと言う。


 トリオレイヴンからすれば、ヒヒイロヘッジホッグの群れを倒して死体を回収している藍大達の姿が油断した獲物のように見えていた。


 だが、その認識は間違いである。


 藍大達が油断していると勘違いしてのこのこ近づいて来たトリオレイヴンこそ、リルにとっては油断した獲物だった。


 実際、リルはトリオレイヴンが射程圏内に入るまで気づかない素振りをしており、射程圏内に入った瞬間に<聖狼爪ホーリーネイル>で瞬殺してみせた。


 どちらがハンターとして優秀なのかはわざわざ言うまでもなかろう。


 それから少ししてトリオレイヴンが透明なまま数体同時にやって来たが、全てリルに看破されて返り討ちにされた。


「ニャア。リル先輩が凄まじいのにゃ」


『ワフン。地下8階は僕の得意なフロアなんだよ』


 リルは先輩として後輩ミオに良いところをしっかりと見せられてご機嫌なようだ。


 ヒヒイロヘッジホッグとトリオレイヴンのどちらも出て来なくなった辺りからは、アスパラディンの軍隊がきっちりとした隊列を組んで通路の奥から進軍して来た。


「リルはアスパラを確保!」


『わかった!』


 リルが<仙術ウィザードリィ>でアスパラディン達のアスパラを没収したので、アスパラディン達に武器はない。


「フィア、ようやく出番だぞ。敵軍に<火炎吐息フレイムブレス>を放て!」


「ピッ!」


 フィアは頑張ると短く鳴いてから<火炎吐息フレイムブレス>を横に薙ぐように放った。


 アスパラディン達の鎧は耐熱性に優れておらず、フィアの攻撃で鎧が高熱でやられて継続ダメージを負う。


 藍大は鎧が熱で柔らかくなったのを目で確認してからドライザーに指示を出した。


「ドライザー、攻撃開始だ」


『OKボス』


 ドライザーは<創岩武器ロックウエポン>で戦槌ウォーハンマーを創り出し、そのまま熱で弱ったアスパラディン達を次々に殴り飛ばしていった。


 その動きは舞によく似ていたのだが、それは舞がミョルニル=レプリカで戦う姿をじっと観察して真似したからである。


 全てのアスパラディンを倒し終えたところでシステムメッセージが藍大の耳に届き始めた。


『ドライザーがLv92になりました』


『ミオがLv94になりました』


『フィアがLv71になりました』


「ドライザーもフィアもお疲れ様。よくやってくれた」


『Thank you』


「ピッ!」


 ドライザーが敬礼して返事するのを見てフィアも翼で敬礼した。


「可愛い~!」


「ピィッ!?」


「舞、ステイ」


「え~」


 そこはステイと言われたことに対してツッコむべきではなかろうか。


 残念ながら今日もこのパーティーにツッコミは不在である。


 職業技能ジョブスキルの壁画がある場所に到着すると、”掃除屋”のスレイプニルは大きく口を開いた。


「ヒヒィィィィィン!」


「任せな!」


 その咆哮は<鳴音砲ハウルキャノン>だったため、舞が光のドームでスレイプニルの攻撃を防ぐ。


『次は僕のターンだよ!』


 光のドームが<鳴音砲ハウルキャノン>を防いだ直後、<空間跳躍エリアジャンプ>で接近しようとしていたスレイプニルに攻撃させまいとリルが<転移無封クロノスムーブ>でスレイプニルの後ろに回り込む。


「ヒヒィン!?」


『バイバイ』


 <翠嵐砲テンペストキャノン>を至近距離から喰らってしまい、スレイプニルは吹き飛ばされたままピクリとも動かなくなった。


『ドライザーがLv93になりました』


『ミオがLv95になりました』


『フィアがLv72になりました』


『フィアがLv73になりました』


「舞とリルはナイスコンビだったな」


「ありがと~。リル君お疲れ」


『全然へっちゃらだよ! 舞もガードありがとう!』


 舞とリルを労ってから、藍大はスレイプニルから魔石を取り出して死体は収納リュックに詰め込んだ。


 今日も魔石は集中強化中のフィアに与えることになっており、フロアボスを倒してからその分とセットで与えるつもりである。


 藍大達がボス部屋まで移動すると、前回は力尽きる前から羽を毟られてしまったジズが待ち構えていた。


「唐揚げ焼き鳥チキンステーキ!」


『手羽先手羽元チキン南蛮!』


「キィッ!」


 既に舞とリルにはジズが食材にしか見えていないらしく、それを悟ったジズは絶対に近づいてはならないと判断して<雷吐息サンダーブレス>を発動した。


「任せろ!」


 舞が戦闘モードに切り替わって光のドームを三重に発動した。


 光のドームは1つだけ壊されてしまったが、2つ目は罅が入ることもなくジズの<雷吐息サンダーブレス>に耐えてみせた。


「ドライザーとミオ、フィアでジズを囲い込むように攻撃!」


『了解!』


「やってやるニャ!」


「ピィ!」


 ドライザーとミオ、フィアはそれぞれ<魔攻城砲マジックキャノン>と<螺旋水線スパイラルジェット>、<火炎吐息フレイムブレス>を放つ。


 自分に直撃する攻撃だったら避けようとするだろうが、自分に当たらない位置に向かって放たれた攻撃にどう対処して良いのかわからずにジズは動けなかった。


 動けないジズなんてただの的でしかなく、舞がニヤリと笑って光を付与したアダマントシールドを投げる。


「墜ちろ!」


「キィ!?」


 腹部に舞の投げたアダマントシールドが命中し、ジズの体から力が抜けて地面に墜落する。


「リル、冷凍保存だ!」


『待ってました!』


 藍大の指示を受けてリルは嬉々として<天墜碧風ダウンバースト>を放った。


 舞の攻撃によるダメージがクリーンヒットして立ち上がれず、ジズはリルの<天墜碧風ダウンバースト>が直撃して降り注ぐ冷気によって力尽きると同時にカチコチに冷凍された。


『ドライザーがLv94になりました』


『ミオがLv96になりました』


『フィアがLv74になりました』


『フィアがLv75になりました』


『フィアが進化条件を満たしました』


「みんなグッジョブ! 良いチームワークだったぞ!」


 システムメッセージが鳴り止むと、藍大は戦闘に参加したメンバー全員を労った。


 ジズに力の及ばないフィアもちゃんと戦闘に参加できたため、とても嬉しそうに藍大に撫でられていた。


 ジズの死体から魔石を回収して死体を収納リュックの中にしまい込むと、藍大はフィアに話しかけた。


「フィア、進化の準備は良いか?」


「ピィ!」


「進化する気満々だな。よし、早速進化だ」


 フィアは勿論だと言わんばかりに頷いた。


 藍大はフィアの意思を確認してから進化させた。


 その直後にフィアの体が光に包まれ、その中でフィアの若鳥と呼べるシルエットが大鷲のような形に変わる。


 光が収まると、深紅の羽根を持つ大鷲となったフィアの姿があった。


『フィアがレッサーフェニックスからフェニックスに進化しました』


『フィアのアビリティ:<回復歌ヒールソング>とアビリティ:<祈祷プレア>がアビリティ:<聖歌唱ホーリーシング>に統合されました』


『フィアがアビリティ:<念話テレパシー>を会得しました』


『フィアが称号”不死鳥”を会得しました』


『フィアのデータが更新されました』


 藍大は進化したフィアに対して魔石を掌の上に乗せて差し出す。


「フィア、魔石も食べて良いぞ」


『わ~い!』


 <念話テレパシー>で喜びを伝えながらもフィアは2つの魔石を啄んだ。


『フィアのアビリティ:<火炎羽根フレイムフェザー>がアビリティ:<緋炎嵐クリムゾンストーム>に上書きされました』


『フィアのアビリティ:<自動再生オートリジェネ>とアビリティ:<灰雛復活アッシュリザレクション>がアビリティ:<自動復活オートリザレクション>に統合されました』


『フィアがアビリティ:<体魔変換スタミナイズマジック>を会得しました』


 フィアがどれだけ成長したのか確認するべく、藍大はモンスター図鑑で調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:フィア 種族:フェニックス

性別:雌 Lv:75

-----------------------------------------

HP:1,650/1,650

MP:1,950/1,950

STR:1,650

VIT:1,650

DEX:1,850

AGI:1,950

INT:1,950

LUK:1,650

-----------------------------------------

称号:藍大の従魔

   希少種

   不死鳥

アビリティ:<緋炎鳥クリムゾンバード><聖歌唱ホーリーシング><緋炎嵐クリムゾンストーム

      <自動復活オートリザレクション><火炎吐息フレイムブレス

      <念話テレパシー><体魔変換スタミナイズマジック

装備:なし

備考:歓喜

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 (後は能力値が2,000を超えれば”火聖獣”になれそうだ)


 藍大はフィアが順調に育っていることを知って頬が緩んだ。


『パパ! フィア、強くなったよ!』


「フィア、俺のことパパって思ってたのか」


『え? パパはパパだよ?』


「これが刷り込みか。あぁ、ごめん。そうだな。フィアは確実に強くなってる」


『わ~い!』


 エッグランナーだった頃は殻の外から出ていなかったので、テイムされてエッグランナーからレッサーフェニックスに進化して初めて藍大を目にした。


 その結果、自分がパパと呼ばれるようになったのだと藍大は悟った。


 藍大の肩に止まって甘えるフィアを見て舞が羨ましそうにしていたのは言うまでもない。


 そんな舞を励ますため、藍大がダンジョンから脱出してから作った昼食はジズ三昧だったとだけ記しておこう。

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