第295話 藍大、お前リハビリの定義って知ってる?

 食べられない素材を奈美に預けた後、藍大達は102号室に帰って来た。


「おかえりなさい」


「やっと帰って来たわねっ」


「おかえりです!」


『オカエリε=ε=(ノ≧∀)ノ♪』


 サクラは優しく微笑みながら玄関までやって来て、幼女トリオは元気に出迎えた。


「ただいま。暇してなかったか?」


「ゴルゴン達とお喋りしてたらあっという間だった」


「何話してたんだ?」


「内緒」


「乙女の秘密なのよっ」


「マスターにはまだ内緒です」


『d(‐x・≡*)ナイショダョ』


 (気になるけどいずれ教えてくれるならその時を待つか)


 メロがまだ内緒と言ったことから、話しても良い時がくれば話してくれるのだろうと判断して藍大はそれ以上訊かないことにした。


 もしもサプライズを企画していたとして、中途半端な状態で暴いてしまうのは申し訳ないという気持ちもあってのことだ。


 サクラ達に出迎えられた後、藍大は早速昼食の支度を始めた。


 食いしん坊ズがあれこれとリクエストを出したため、昼は簡単ご飯で済ませるのとは程遠いレベルで作る料理の数が多い。


 目玉のタラスクとカトブレパスは当然のことながら、スチュパリデスとヘイズルーン、バトルトレントの果実りんごも使わなければならない。


 使ってほしいと頼まれた食材の8割が肉なので、栄養が偏らないようにするのも一工夫必要である。


 藍大は考えた結果、以下の通り料理を作ってみた。


 カトブレパスは前菜の葱タン塩。


 スチュパリデスはささみの部位を用いてシーザーサラダ。


 ヘイズルーンは乳房から出た蜂蜜酒ミード擬きを使った煮込み。


 タラスクはシンプルにステーキ。


 主食はライスキュービーの白米。


 デザートにヘイズルーンの蜂蜜酒ミード擬きをかけたスライス焼きりんご。


 ジュースは擦り下ろしりんごジュース。


 正直なところ、ダンジョン探索中よりも調理の方が藍大は大変だったりする。


 そうだとしても、家族が喜ぶ顔を思い浮かべれば手の込んだ料理でも苦にならない。


「待たせたな! 完成したぞ!」


「美味しそ~!」


『匂いだけでもわかる! これめっちゃ美味しいよ!』


「こういうのは堪らんな。こういうのは堪らんぞ」


 藍大が完成したと告げると食いしん坊ズが真っ先に反応する。


 それに続いてサクラ達がやって来た。


「良い匂いだね」


「お腹・・・空いた・・・」


「マスター、早く食べたいわっ」


「配膳は任せるです!」


『ヽ(≧▽≦)ノ"ワーイ』


「今日も美味しそうにゃ」


 配膳が完了して全員が席に着くと、藍大達は食材に感謝の気持ちを込めて号令をかけて昼食を取り始めた。


「運動した後の藍大の料理は格別だね!」


『デリシャス!』


「美味い! これは堪らんぞ!」


 食いしん坊ズは藍大の料理をとても美味しそうに食べる。


 無論、サクラ達も美味しそうに食べるのだが食いしん坊ズがそれよりもリアクションが上手うわてなのだ。


「こんなに喜んでもらえると俺も嬉しいぞ」


「藍大は我が家の三ツ星シェフだよ!」


『ご主人の料理が世界一!』


「主君の料理の腕は留まることを知らぬぞ!」


「・・・夕食も期待しとけよ」


 藍大は食いしん坊ズに褒められて良い気分になり、夕食も頑張って作ると言った。


 ちょろいと言うのは簡単かもしれないが、やはり家族に喜んでもらえるのが何よりも嬉しいのだからこうなるのも仕方ないのだろう。


 昼食はどの料理も余ることなくきっちりと平らげられ、サクラの<浄化クリーン>で皿洗いが終わると食休みに入った。


 そのタイミングで藍大のスマホが鳴った。


 画面には茂の表示が出ていた。


「もしもし茂?」


『藍大、今は大丈夫か?』


「昼飯食べて休んでるところだ。問題ない」


『何食べたんだ?』


 藍大の昼食が気になったため、茂は本題に入る前に昼食のメニューを訊ねた。


 藍大が食べた料理を告げると、茂はとても悔しそうにした。


『良いなぁ。美味そうだなぁ』


「写真撮ったから後で送ってやろうか?」


『飯テロは止めろ! もしもそんな写真を送ったら・・・』


「送ったら?」


『レア食材を求めて暴走する千春さんを送り込むぞ』


「うわぁー、大変だー」


 なんという棒読みだろうか。


 全く大変そうに思えない。


『くっ、レア食材を押さえてるからって腹立つ・・・』


「まあまあ。ところで、今日はどんな用件?」


『そうだった。本題に入らねえとな。実は、藍大達に行ってもらいたいダンジョンがある』


「ダンジョン? どっかのクランが縄張りにしてる所か?」


『いや、発見したのが小規模のクランで自分達じゃ管理し切れないからってDMUに管理を委任したダンジョンだ』


「ふーん。どこにあるダンジョン?」


『多摩センターだ。小田急線、京王線、多摩モノレールがある駅なのは言わなくてもわかるよな?』


「そりゃまあ通学路だったからな」


『ダンジョンの場所は旧パルテノン多摩だ』


「あぁ、あのダンジョンか。把握した」


 藍大がC大学に通っていた頃、多摩センターは通学路だった。


 通学路近くにダンジョンが発生したと知れば気にならないはずもなく、藍大は従魔士の職業技能ジョブスキルが覚醒する前にそのダンジョンについて調べたことがあった。


 それゆえ、茂に細かく言われなくとも藍大はダンジョンの位置を把握できた。


『藍大には旧パルテノン多摩、いや、多摩センターダンジョンを攻略してもらいたい。”ダンジョンマスター”を倒してもテイムしてもらっても構わない。できれば道場ダンジョンみたいにしてもらえると助かる。多摩センターって最近じゃあのダンジョンぐらいしか安定した収益源がなかったのに、拠点とする冒険者が減っちまったから攻略して収益に繋げられるようにしてほしいって多摩市役所から依頼が来た』


「あのダンジョン、そんなにモンスターが強いって話じゃなかったと思うが」


『それは2週間前までの話だ。何が原因かわからないが、多摩センターダンジョンの”ダンジョンマスター”がダンジョンに出るモンスターを総取っ替えしたらしい』


「ブラドみたいなことをする奴が現れたのか」


『そうらしい。そのせいで今まで間引き依頼を受けてくれてた冒険者達が痛い目に遭ってな。念のためAランクの冒険者パーティーを送り込みたいと言うのがDMUの見解だ』


 普通のダンジョンならば、Cランク以上の冒険者がいるパーティーの間引きで事足りる。


 しかしながら、今回酷い怪我をしたのはそのCランク冒険者だった。


 Bランク冒険者でも無事では済まない可能性が高いと判断し、DMUはAランク冒険者を派遣したいと考えた。


 そう考えるのは簡単だが、実際にAランク冒険者がどれぐらいいるかと訊かれれば”楽園の守り人”と三原色クランのトップチームだけだ。


 三原色クランそれぞれが管理しているダンジョンについて、藍大達の力を借りてダンジョンを支配していないダンジョンがある以上長いことそのダンジョンを空けられない。


 藍大達の場合はシャングリラダンジョンを既に手中に収めているから、スタンピードの危険性がないので依頼を出すのに丁度良い訳である。


「報酬はどんな感じ?」


『今回はダンジョンの査定が8,000万円だから、”ダンジョンマスター”をテイムするか崩壊させずに残してくれれば8,000万円。潰した場合はその半額で4,000万円だな』


「引き受けよう」


『即決だな。受けてくれるのは嬉しいけどなんでだ?』


 悩むことなく藍大が依頼を受けたので、茂はその理由が気になって訊ねた。


「舞のリハビリに丁度良いかと思って」


『なるほど。今日も舞さんを連れて探索したんだろ? どこからどこまで行ったんだ?』


「地下5階からスタートして地下6階のタラスクを倒して戻って来た」


『藍大、お前リハビリの定義って知ってる?』


「地下5階だけじゃ物足りないって言うから地下6階まで行っちまった。でも、舞は無傷だったから大丈夫」


『産休明けでそれは舞さんの身体能力が尋常じゃねえな』


「俺もそー思う。だけど、危ない感じは全くなかったから丁度良かったみたいだぞ」


『すげえな。タラスクをリハビリで倒すとか人間の領域を超えてるだろ』


 茂は自分の常識と比べて舞に普通が当て嵌まらないことを改めて思い知った。


 そんな舞が藍大と一緒に多摩センターダンジョンに行ってくれるならば、大事おおごとにならずにダンジョンを攻略してくれるだろう。


 藍大達に多摩センターダンジョンの攻略依頼を受領してもらえてホッとすると、茂はまだ仕事があると言って電話を切った。


 明日から藍大達はシャングリラダンジョンの探索を一時中断し、多摩センターダンジョンに挑むことが確定した。

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