第173話 爆発は芸術なんだからねっ
料理大会に出ると決めた翌日の月曜日、藍大達はダンジョン地下4階にやって来た。
料理大会の評価項目がモンスター食材のレアリティと美味しさならば、藍大はレアリティでは満点を狙いに行かない訳がない。
そういう訳で、藍大は大会までずっと午前中はダンジョン探索をして午後は料理研究をするスケジュールを組んだ。
珍しい食材を求めてやって来た月曜日のダンジョン地下4階は月夜の草原だった。
遮蔽物がないから索敵しやすく、地面を潜るようなモンスターでもなければ不意打ちは困難なフィールドである。
『ご主人、空からインキュバスが来たよ』
「俺を養わないか?」
「全部ひん剥いて丸裸にしてやるよ」
「私の息子は凶暴です」
「死ねやゴラァ!」
「死んでくれる?」
「狙い撃つです!」
「はっ、出遅れたわっ」
ヒモに鬼畜、変態というそれぞれのタイプのインキュバスに対し、舞とサクラ、メロの攻撃がクリーンヒットしてすぐに状況終了となった。
ゴルゴンは出遅れてしまったため、何もできなかったとショックを受けている。
だが、それでよかったのではなかろうか。
ゴルゴンが戦えば見た目はイケメン悪魔のインキュバスの丸焼きができるのは間違いないのだから。
インキュバスの解体を済ませると、インキュバスの血の臭いに釣られて地下4階で初めて姿を見せるモンスターが藍大達の前に現れた。
「オルトロスか・・・」
藍大はモンスター図鑑を見なくともモンスター名を言い当てた。
蛇の尻尾を持つ黒い双頭の犬ともなれば、オルトロス以外には考えにくいというのが正直なところである。
「オルトロスって食べられるのかな?」
「そこは調べてみないとわからん」
舞の疑問に答えるべく、藍大はモンスター図鑑でオルトロスに関する情報を調べた。
その結果、モンスター図鑑にはオルトロスを食べられるモンスターだと記載されていた。
「どうだった?」
「食べられるらしい」
『いっぱい倒すよ~』
(リルはオルトロスを食べても良いのか?)
舞の質問への藍大の回答を聞き、リルはすっかりやる気になった。
そんなリルに狼が犬を食べるのはありなんだろうかと藍大が疑問に思うのも無理もない。
リルからすればこの世は弱肉強食であり、藍大達が家族であってそれ以外のモンスターは敵である。
敵ならば食べても構わないと考えるあたり、リルも強者と呼べるフェンリルなのだろう。
「「アォォォォォン!」」
藍大達の前に現れたオルトロスは自分が食料だと思われていることを察し、単独ではやられると判断して仲間を呼ぶために吠えた。
「うるさいのよっ」
先程のインキュバス戦では出遅れたゴルゴンだったが、この戦いでは真っ先にオルトロスを<
木っ端微塵にならないように手加減したようで、毛皮が焦げた程度の見た目でオルトロスのHPを一瞬にして刈り取った。
「爆発は芸術なんだからねっ」
「それを言うなら芸術は爆発だな」
「えっ・・・」
藍大に頭を撫でられながら指摘されると、ゴルゴンの顔がどんどん赤くなっていく。
「ゴルゴン、ドンマイです」
「メロ~」
メロに肩をポンポンされると、ゴルゴンは恥ずかしくなってメロに抱きついた。
幼女コンビは今日も仲がよろしい。
オルトロスの毛皮は火や衝撃に強いことがゴルゴンのおかげでわかったので、藍大は”楽園の守り人”のメンバーの装備に良いかもしれないと思った。
しかし、そんなことを思っている内に倒したオルトロスが呼び寄せた
「円陣を組め! 全員目の前の敵を倒すんだ!」
「「「「『了解!』」」」」
藍大が円陣の中心に来るように配置に着くと、舞達は襲い掛かって来るオルトロス達との戦闘に移行した。
「肉を寄越せ!」
「「「・・・「「キャイン!?」」・・・」」」
舞がミョルニル=レプリカでオルトロスを殴り飛ばした途端、藍大達を取り囲んでいたオルトロス達が怯んだ。
数の暴力でなんとかなると思っていたのだが、そんな次元ではない者達を敵にしてしまったと今更悟ったらしい。
「食材になりなさい」
『ご主人が料理しやすくする!』
「仕事人はクールに決めるです」
「焦げない程度に燃やすわっ」
サクラとリルは攻撃と同時に解体を済ませる一方で、メロが<
5分もすれば集まって来たオルトロスは全滅してしまい、藍大達は戦利品の回収に勤しんだ。
大して移動はしていないものの、最初に倒したオルトロスが仲間を呼び寄せてくれたおかげで藍大達は効率良く狩りをできた。
サクサク
「アォォォォォォォォォォン!」
オルトロスの遠吠えとは比べ物にならない声量が周囲に響き渡った。
真っ先に反応したのはリルだった。
『ご主人はやらせない』
リルは藍大の前に立ち、大声の直後にその場に駆け付けた銀灰色のモンスターを警戒した。
(人狼か。呼び方はどのパターンだ?)
人狼にはワーウルフやウェアウルフ、ライカンスロープ等複数の呼び方がある。
シャングリラダンジョンに現れるのはどのパターンだろうかと気になり、藍大は目の前の人狼についてすぐにモンスター図鑑で調べた。
-----------------------------------------
名前:なし 種族:ライカンスロープ
性別:雌 Lv:55
-----------------------------------------
HP:800/800
MP:800/800
STR:900
VIT:550
DEX:550
AGI:1,600
INT:700
LUK:500
-----------------------------------------
称号:掃除屋
希少種
アビリティ:<
<
<
装備:なし
備考:高揚
-----------------------------------------
(ライカンスロープだったか。つーか”希少種”かよ)
人狼の種族名がライカンスロープだったこともそうだが、称号欄にある”希少種”の文字に藍大は注目した。
”希少種”ではなかった場合、<
ライカンスロープの”希少種”は属性の付与されたアビリティが特徴である。
『ご主人、ここは僕だけでやらせて』
「リルだけで?」
『うん。僕があいつに実力の差を思い知らせてやるんだ』
どうやら、ライカンスロープは最初の遠吠えでリルを刺激する何かを口にしたようだ。
リルは自分だけで戦って勝つことにより、ライカンスロープに自分の意見を押し通すつもりだろう。
「わかった。リルに任せる」
『ありがとう』
藍大に礼を言うと、リルの雰囲気が藍大に甘えている時とは全然違う強者のそれに変わった。
「アォン」
ライカンスロープはまずは様子見だと言わんばかりに短く鳴くと、筋肉質な脚で蹴って斬撃を放った。
『舐めてるの?』
リルは<
「アォン!?」
様子見なんてしている場合ではなかったと気づき、ライカンスロープは慌ててそれを避けてからリルに攻撃させまいとリルに接近しようとした。
しかし、その目論見は失敗に終わった。
「アォォォォォン!」
声量はライカンスロープ程ではなかったが、その分神聖さが上乗せされてライカンスロープを後ろに弾き飛ばした。
「キャイン!?」
まさか咆哮によって自分が弾き飛ばされるとは思ってもいなかったようで、ライカンスロープの尻尾が丸まって股下にしまわれた。
これ以上攻撃されたら負けだと思ったため、ライカンスロープは決死の覚悟でリルに向かって四足歩行で駆け寄って<
『無駄』
リルはライカンスロープの体を<
その瞬間、ライカンスロープは自分が完全に負けたと悟ったのか全身から力を抜いた。
「クゥ~ン」
ライカンスロープがそう鳴くと、リルは<
拘束が解除された直後、ライカンスロープは仰向けに倒れてお腹をリルに見せた。
『ご主人、どうしよう。こいつが従魔になるから命だけは助けてほしいって』
「えっ?」
藍大は困惑した。
リルに戦いを任せたら、実力差を思い知ったライカンスロープが命乞いをしてきたからである。
「クゥ~ン」
ライカンスロープはリルの主である藍大に向かってできるだけ哀愁を漂わせるように鳴いた。
「どうしたものか・・・」
藍大が悩んでいると舞が助け舟を出した。
「藍大、テイムして司と麗奈のペアに貸し出せば良いんじゃない?」
「その手があった」
司も自分と相性が良さそうなモンスターがいたら、テイムしてレンタルしてほしいと藍大に頼んでいた。
ライカンスロープなら素早くて近距離攻撃も遠距離攻撃もこなすから即戦力になるので、司と麗奈のペアの助けになるのは間違いない。
「クゥ~ン」
ここに来てライカンスロープが駄目押しした。
藍大に対して仲間になるから殺さないで下さいと訴えており、その目にはすっかり戦意が消え失せていた。
藍大はライカンスロープの腹にモンスター図鑑を被せた。
それによってライカンスロープはモンスター図鑑に吸い込まれていき、その直後に藍大の耳にシステムメッセージが聞こえて来た。
『ライカンスロープのテイムに成功しました』
『ライカンスロープに名前をつけて下さい』
藍大は名付けを求められ、少し考えてから名前を口にした。
「リュカと名付ける」
『ライカンスロープの名前をリュカとして登録します』
『リュカは名付けられたことで強化されました』
『リュカのステータスはモンスター図鑑の従魔ページに記載され、変化がある度に更新されていつでもその情報を閲覧できます』
『詳細はリュカのページで確認して下さい』
誰にとっても予想外の展開ではあったが、こうしてリュカは藍大の従魔となった。
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