無敵の静電気
ラークが倒木を拾ってしばらく、シリンは違和感を感じながら歩いていた。
村の男の人たちって、あんなに力強かったっけ?成長期にみんな強くなって、成長してから力がなくなったら、成長期って言わないよね。って言うかどう考えてもあの力はおかしいよね…同世代の友達は居なくとも、村に住んでいた身としては、さっきの光景がどうも納得できない。
倒木を運んでいる得意げなラークと少し青い顔のチアリが、自分の少し先を歩きながらこそこそと言い合いをしている。
異端・魔女狩りのあるあの国で生きてきたものとして、同じ国で暮らしていたチアリが、何かを隠そうとしているのはなんとなく分かる。しかし、昨日「置いてかないで」と懇願していた彼女の様子を思い返すと、どう聞けば良いのか躊躇してしまう。
「でも、このまま知らないふりっていうのも、一緒に逃げていくしなぁ」
悶々と考えながら歩いていると、しばらくして、またレオがシリンの服を引っ張った。今度はさっきよりも少し強い。
「どうしたの?」
「あっちからなんか来る!」
「え?」
レオの言葉が終わると同時に、レオが指さした方からガサガサと音がする。音の先を良く見ると、猪かか熊なのか、森の奥から大きくて黒い塊が勢いよく近づいてくる。
シリンは咄嗟に、手を繋いでいた両隣のレオとメルを引き寄せる。
今なら逃げられるだろうか。
いや、あの勢いだ、すぐに追いつかれるだろう。
誰かが足止めしないと。誰が?
シリンはレオとメルに声をかける。
「私があいつを止めるから、二人は先に走って逃げて」
「え?」「お姉さんは?」
「すぐに追いつくから」
早口で言い切り、二人を後ろに向かせて背中を押す。
「早く!振り返らずに思いっきり走りなさい!」
そして振り向くと、塊はさっきよりも近づいていて、猪だとはっきりわかるそれは、完全にこちらを見ていた。
獲物として、シリンたちに狙いを定めた顔に、覚悟を決めて向かい立つ。
「ここは、通さない」
飛びかかってでも足止めしてやろうと、足に力を込めた時、右側からチアリが飛び出した。
「なッ…チアリ!?下がって!」
「大丈夫だから」
有無を言わせない雰囲気で振り返ったチアリの勢いにシリンが戸惑ってると、再び前を向いたチアリは手を前に突き出して猪を睨みつけた。
「来ないで」
すると、もう目と鼻の先まで来ていたがバチッという音ともに吹き飛んだ。
「え…?」
吹き飛んだ先をよく見ると、チアリの数メートル先で、一頭の猪が横たわっていた。
死んではいなさそうだが、目をつぶったまま、ピクピクと痙攣している。
「こいつ、晩御飯にするか?」
「わーい!お肉ー!」
シリンが唖然としていると、追いついたラークが丸太に斧を突き刺して、無理矢理開けた右手で猪を担いだ。その周りでメルがはしゃいでいる。
シリンは、のしのしと家に帰ろうと歩くラークを呆然と見つめながら、未だに服の裾を掴んでいるレオの頭を安心させるように撫でた。そして、ゆっくりとチアリに向きなおる。
チアリも身体はシリンの方を向いているが、視線が微妙に合わない。
「…チアリも成長期激しいタイプかな?」
「えっと、私は生まれつき静電気がひどくて…」
「冬場は大変だね…って冗談は置いといて…」
斜め下を向き続ける、チアリの頭にポンと手を置く。
そして、目線が合うまで屈んでから語りかける。
「置いてかないし、売らない。だから、小屋に帰ったら本当のことを教えて?」
「はい…」
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