魔女の断罪

 ポツポツと降り出した雨は、少しずつ周囲の地面に水の跡をつけていく。


 シリンの足元は貴重な石炭がたくさん置かれているので、小雨程度で火は消えないが、だんだん強くなる雨足に神官たちは慌てた声を出していた。


「火が消えてしまう!」

「雨が止まない・・何で、できない・・・」

「逃げないように魔女たちを囲え!」


 神官たちはシリンと子供の居る方へ向かおうとする。

 しかし、動き出したと同時に雷がシリンのすぐ後ろの教会に落ち、たたらを踏んだ。

 

 それを皮切りに周囲の建物にいくつも雷が落ちていく。いくつかの建物からは細い煙が出始めていた。見物人たちも散り散りになって、どこに逃げれば良いかわからず右往左往していて、神官たちは人の波に身動きが取れなくなっていた。


 その様子を眺めながら、シリンは火の勢いが弱まった石炭を踏みつけて、ゆっくりと磔から離れた。


 焼かれていた足は感覚がないのか、痛みを感じず、縛られていた鎖もすぐに千切れたのだ。どうせ使い捨ての粗悪品が熱と雨で脆くなったんだろう。


 そのまま、真っ直ぐ歩く。

 不思議と誰もシリンに気づかず、そればかりか、人混みを突っ切っても誰にもぶつかることはなかった。


 そして、空を睨みつけている一人の神官の背後へそっと近づき、声をかけた。

「ねえ、神官さん。お前は、さっき、『なぜ、天気が操れない』そう言ったね」

「なんだ貴様っ…!」


 神官が振り返ると同時に、胸ぐらを掴み絞め上げる。

「ああ、やっぱりお前だな。」

 顔を見ると、シリンを村から連れ去ったとき、先頭にいた神官だった。直感が確信に変わる。


「魔女…貴様…鎖は!?」

「天気を操れるなら、人々に恵みをもたらして、幸せにも出来たはずなのに」

 神官の問いには答えず、シリンは自分より大きな神官を掴む手に力を込めた。


「お前はその力を使って、父と母を殺し、私を火炙りにしたのか」

「か、体が動かない…くそっ離せ、どうなってもいいのか!」

 神官はシリンの問いも耳に入らず喚いていたが、脅しと共に睨みつけようと彼女の顔を見て、目を見開いた。


「ねえなんで?」

「その目…貴様まさか本当に…。お、俺は言われた通りにやっただけだ!許し…」

「私は許さない」

 そう言って、シリンが手を離した直後、雷が男を貫いた。


 神官は最後まで動かなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る