恋愛相談
そんなもの、知ったこっちゃねえ!!!
クラスメイト全員が同じ思いを共有したところで、昼休み終了のチャイムが鳴った。次は現代国語か。担当は宮田ノリ先生。授業中にうつらうつらすることもある、60越えたおばあちゃん先生だ。口うるさくないし、優しくて穏やかだし、寛容だし、俺は結構好きだ。一つ難点をあげるなら、授業がなかなか進まないことかな。学期末に一気に詰め込むのは、ちょっと辛い。
「こんにちは、皆さん」
授業開始5分前。ノリ先生が教室にひょこっと顔をのぞかせた。が、入ってはこない。不思議に思って何人かが立ち上がると、
「あ、いいのよう。そのまま、そのままで聞いて頂戴。今日ねえ、先生、用事があってねえ」
「自習スか!?」
「瀧くん、察しがいいわねえ。助かるわあ」
「よっしゃあああああ!」
クラスのあちこちで喜びの雄叫びがあがる。
「何するかはお任せするけど、静かーにお願いよ。それじゃあ、またねえ」
「またね、ノリちゃん!」
「……んじゃ、ゲームすっか」
先生の姿が完全に見えなくなったのを確認して、男子たちはスマホでゲームを始めようとした。それを止めたのは、カミラと中西だ。
「ストップ、ストップ。まだ出し物決めは終わってないよ」
「そうですよ、僕の話を最後まで聞いて下さい」
「えー、もうさっきのでいいじゃん。背中押し? タロット? 良く知らんけど」
「決定、決定!」
男子たちは目の前の楽しみに忠実だ。文化祭最優秀賞のご褒美のことなんて、すっかり頭から抜けている。出し物の大まかなところが決まり、先が見えたことで安心しているんだろう。俺も机の中に隠していたスマホを取り出し、アプリを開く。おっ、松浦もやってるな。早速、今日のミッションやっちゃいますか。
「はい、没収」
チャットを開いたところで、カミラに取り上げられた。問答無用で、電源を切られる。俺だけ、どうして。抗議しようと顔を上げると、同じようにスマホを取られた男子たちの哀愁漂う後ろ姿が見えた。いつの間に。
「早く話し合いが終われば、その分ゲームにまわせるんだからね。さ、頑張ろ!」
教卓の上にはスマホの山。まるで人質みたいだ。取り戻すには、犯人の要求を聞くしかない。
「では、先ほどの続きから。僕がタロットカード一本にできない理由を説明します。なるべく短くまとめますけど、できるかなぁ……。まず、天使との出会いから語らなきゃならないし……。あ、天使っていうのはですね、2年A組12番、
おそらく、クラスメイト全員が心底どうでもいいと思っているんだろう。あからさまにため息をついたり、頬杖をついて窓の外を見たりしている。一人、中西だけが盛り上がっている状況。それでも構わず、彼は話を続ける。
「実は僕、深莉衣とは保育園から仲良しなんです。彼女はクールな人だってみんな言うけど、本当は照れ屋なだけで、可愛い子なんですよ。あ、分かってもらえなくていいです。というか、分からないで下さい。ライバルはこれ以上いらないので!」
「なるほど! 貴重なお話ありがとうございました! じゃ、出し物は占いの館ということで……」
「あーっ、まだです!」
長い……。早くゲームしてえ……。
「ふう、仕方ないですね。簡潔に言います。僕は深莉衣のことが好きなんです!」
クラス中がどよめいた。ヒューと冷やかしの口笛が鳴り、中西の頬が赤くなる。恋愛の話なら別だと、男子も女子も前のめりだ。いつから好きなのか、どこが好きなのか、告白の予定はあるのか等の質問が飛び、中西は慌てふためいている。
「静かに、静かにお願いします! 彼女、隣のクラスなんで聞こえちゃいます! 好きになったのは、小学5年生の頃! 全部好き! 告白予定あります!」
「ヒュ〜〜〜、いいじゃんいいじゃん」
「楽しくなってきたじゃーん」
やっぱり、古今東西、恋愛話っていうのは盛り上がる。しみじみ感じていると、
「盛り上がっているところ悪いけど、それと背中押し占いに何の関係があるの?」
カミラの質問に、みんなが考える。好きな人がどんなことを悩んでいるのか知りたいなら、お得意のタロット占いでもいいわけだ。タロットに限らず、占いなら何でも。そこからアプローチかけるのは、正直ズルい気もするけど。わざわざオリジナルの、変な占いを用意する意味は?
「深莉衣はすごく占いを信じていて、中でもウイン・D・棚橋先生って方の占いが……」
誰もがツッコミを飲み込んだ。クセの強い名前だなって。
「それで、普通の占い、例えばタロット占いとか花占いとか。そういうのは、棚橋先生のものじゃなきゃダメで……。僕の言葉を聞いてもらうには、僕しかできない、僕だけの占いが必要だったんです」
どこからか鼻を啜る音が聞こえる。恋するクラスメイトたちが共感を示したのだ。
「だから、お願いです! 変な占い、いや占いじゃないですけど、どうか出し物として認めて下さい!!!」
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