死霊使いの子孫は俺をおとしたい?〜『好意は人づてに』が効果的とは言うけども!〜
砥石 莞次
寝不足の理由
そろそろ寝るから。
ソシャゲのチャット機能を使って、友人の松浦に告げると、いつものように呆れ顔のスタンプが送られてきた。時刻は20時。今時、小学生でも起きているであろう時間帯。本当はもう少しゲームをしていたい。本日のミッション(依頼を三件、フレンドと協力してクリアしよう!)が未達成だし、追加された新しいシナリオを見ていない。やりたいことはたくさんあるのに、俺にはこれ以上起きていられない理由があった。一刻も早く眠らなければ、明日に支障が出る。スマホの電源を落とし、ベッド脇のテーブルに投げる。思いのほか大きな音がしたが、気にせず布団に潜り込み、ぎゅっと目をつぶる。いまや見飽きた羊たちを思い浮かべ、ゆっくりと数を数えていく。一匹、二匹、三匹。柵をひょいと飛び越え、だだっ広い草原を走って行く。いいな、気持ちが良さそうだ。ふわふわもこもこの羊たちをぼーっと見つめていると、体から力が抜けていくのが分かった。そろそろ、落ちるな。夢への誘いに抗わず、そっと意識を手放す。慣れたものだな、俺も。すっかり早寝の習慣が身についてしまった。いいんだか悪いんだか。
目が覚める。眠りについてから、どのくらい経っただろう。布団から顔を出さずに、手探りでスマホをつかむ。画面に表示された時刻、21時57分。中途半端に寝たせいか、なんだか気持ちが悪い。水でも飲むか。起き上がろうとした、その時。ボソボソボソボソ。ブツブツブツ。誰かが呟くような声が、かすかに聞こえてきた。いつものアレだ。俺が満足に眠れない原因。最初こそ、不気味で、怖くて仕方なかった。人ならざるものが俺の部屋にいて、文句なんだか呪いなんだか、特に意味のない言葉の羅列なんだかを発しているのだ。姿は見えない。意思疎通は図れない。自分にはどうすることもできない状況。これが毎晩。そう、毎晩だ。いつからかは覚えていないが、気がつけば俺の部屋は霊の溜まり場になっていた。そのせいで、俺の睡眠の質は悪化する一方。今は悲しいことに慣れてしまったが、始めは体調不良に悩まされたものだ。頭痛に吐き気、目眩……。地獄だった。弊害はそれだけじゃない。何も知らない先生方からお叱りを受けることが格段に増えた。
「集中力が低下しているぞ。どうせ、夜中までゲームしていたんだろう? くだらない」
「全く、若者はいいもんだ。学校に来て、テキトーに過ごしただけで、『疲れた』なんて一丁前に言えるんだから」
思い出しただけで腹が立つ。あのネチネチーズ(数学教師の田川と生徒指導の斉藤のコンビ。生徒のやること成すことにネチネチと口を挟む)め。俺には何の非もないのに、こちらの話を聞かずに好き勝手言いやがって。集中力?そりゃ低下するわ!毎晩、幽霊たちのトークショーに強制参加させられるんだぞ。言わせてくださいよ、『疲れた』くらいさぁ。先生方に比べれば、くだらねえ、しょうもねえ、そんなものに必死こいてしがみついて、馬鹿みたいにもがいて、俺らは俺らなりに疲れるんだ。先生方が社会で汗水垂らして働くのと、きっと大差ない。そんな偉そうなことを、それこそ一丁前に脳内で語っている間にも、やつらのボソボソブツブツは止まらない。
「いい加減にしてくれよ……」
布団をきつく体に巻きつけて、抗議の声をあげてみるが、もちろん効果はない。声の波はどんどん近づいてきて、俺を夜の闇ごと呑み込もうとしているようだった。
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