転校生の同級生が、実は高校を1浪2留してて既に20歳でした

二条

第1話 隣の席の転校生

「はよっす」

「お、冬雪。おはよう」

「おはよ!」


ゴールデンウィークで少し狂った生活リズムを引きずりつつ、俺――駒鳥こまどり冬雪ふゆきは、私立美保野みほの学園高校2年B組の自分の座席についた。

教壇真正面の、最後尾。

逆に目立つせいで、寝ていれば教師に即バレするという厄介な席だ。

今俺が挨拶したのは、俺の親友で、俺の前の席に座っている杉谷すぎや遥輝はるきと、遥輝の幼馴染で、彼の左隣の座っている宮路みやじあやだ。


「あれ?」


俺は、席について違和感を持った。

31人のクラスで、横5列×縦6列+1席となっている2年B組。

その「+1席」が先程述べたように教壇正面最後尾の俺の席なのだが、俺の左にもうひとつ座席がある。


「遥輝、絢、これ誰の?」

「冬雪も知らないのか」

「やっぱ、転校生だよ!」


絢が、座ったままぴょんぴょんと飛び跳ねる。

それに合わせて、茶髪のポニーテールが揺れた。


「おーい、皆座れー」


担任の織田おりた先生が、教室に入ってきた。

教室内の生徒全員が席についたが、やはり俺の隣は空席のまま。


「急な話で悪いんだけど、転校生を紹介する」


クラスが、一気にざわめいた。

そして、俺の隣の誰も座っていない座席に何名かが視線を向けた。

やはり、この座席があることに違和感を持ったのは何人かいたらしい。


「東、入れ」

「はい」


織田先生の呼びかけに答えて入ってきたのは、すらっとした高身長の、一見同級生とは思えないほど大人びて見える美少女だった。

黒板に名前をチョークで書くと、こちらに振り返って一礼をした。


あずま秋穂あきほです」


黒のセミロングの髪が、ふわりと垂れた。


「親の仕事の都合で急な転校になりました。『秋穂』って下の名前で呼んでくれて全然問題ないので、早く皆と仲良くなりたいです。よろしくお願いします!」


パチパチパチ、とクラスから拍手が起こる。


「東の席は、あの後ろの空いてる席だ。教科書がまだないだろうから、今日のうちは隣の駒鳥に見せてもらってくれ。男子が苦手なら東の前の宮路を駒鳥の席に移すけど、どうする?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


秋穂が、先生に指示された俺の左隣の席に向かって歩き出した。

座席間の通路を通った後、両隣の生徒が全員振り向いていた。


「駒鳥くん、ですよね。今日は、よろしくお願いします」

「よろしく。そっちが名前呼びでいいなら、こっちも名前でいいよ。冬に雪って書いて、冬雪ふゆき

「ありがとうございます。秋と冬で隣同士ですね」


ふふっ、と笑った秋穂の顔を、俺は直視できなかった。

斜め前から、絢がニヤニヤと見つめてくる。


「なんだよ」

「べっつにぃ。あ、私は宮路絢。絢でいいよ」

「絢さん、ですね。よろしくお願いします」

「敬語もいらないのに」

「それは、もうちょっと慣れてからでお願いします。絢さんのお隣の方は?」

「杉谷遥輝。遥輝でいいよ」

「よろしくお願いします、遥輝くん」

「よろしく」

「デレデレすんなっ」

「痛っ、なんだよ」

「別に」


突然の肩パンチに、秋穂はびくっ、とたじろいでしまった。


「あー、これはいつものだから気にしないで。このふたり、幼馴染なんだよ」

「幼馴染、ですか」

「そう。小動物のじゃれあい程度に見ておけばいい」

「そうなんですね」

「だーれーがー、小動物だって?」


ギロリ、と絢が首を回してこちらを睨んできた。

茶髪のポニーテールが、それに伴って絢の前の席の男子に当たりそうになった。


「そこ、じゃれ合うのはいいけど授業の後でな!」

「絢、言われてんぞ」

「うぐっ、覚えときなよ……」


くすくす、と秋穂だけではなく周りからも笑い声が漏れた。


「それじゃあ、教科書、お願いしますね」

「はいよ」


机をくっつけて、肩と肩が触れ合いそうな距離に秋穂が近づいてきた。

ふわっ、と良い香りがした。

結局、授業には全くもって集中ができなかった。

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