第3話 国王はシャラに手向けとして娘と王子の婚約を決めてくれました

そのまま3人は馬車に乗って王宮に向かった。


馬車の中でシャラはひたすらクローディアの事を見つめていた。

クローデイアは何故か泣いていた。いつもならシャラがあやせばずくに泣き止むのに、この日は違った。ずうっと泣いていた。


「どうしたの。クローディア。もうすぐ母がいなくなるのが判るの。でも大丈夫よ。その後はコニーが母としてきちんとクローディアを育ててくれるわ」

「当たり前よ。絶対にきちんと育てるわ」

二人の目は涙で溢れていた。

それを見てブルースも泣いていた。


王宮に着くとすぐに国王の元に通された。


「しかし、生贄はブリエント伯爵夫人がなることになったと聞いたが」

コニーがクローティアが生贄になる旨を話すと、国王は訝しげに言った。

「それは」

思わずコニーはどもってしまった。


「陛下。ノルデインは大軍です。確実性を保たせるために私がなることにしたのです」

シャラがコニーに代わって言った。


「しかし、その方、夫がノルデインの偵察に行ったきり帰ってきていないではないか。その胸の赤子はどうするのだ」

「それはコニーとブルーノが養子として実の娘のように育ててくれると命にかけて誓ってくれたのです」

「ブリエント伯。それは本当か」

「はっ。命に代えても誓いは守ります」

ブリエントは国王に跪いていった。


「しかし、そのような事で良いのか。ブリエントの家にもこれから子供もできよう」

まだ国王は納得行かないようだった。


「そこで、厚かましいお願いなのですが、陛下にもその立会人になってもらいたく」

「判った。そのような事で良ければ。シャラ、貴様が行ってくれるなら、これほど確実なことはない。しかし、惜しいことよ。そのような優秀な者が命を犠牲にするとは」

国王は遠くを見た。

おそらく聖女は死んでも大勢に影響を与えない、貴族の娘を選んだのだ。平民を犠牲にするなど、本来は許されるはずはなかった。昔の奴隷制度の時代ではないのだ。平民に動揺が走れば国の基盤が緩む。そして、シャラは優秀な魔導師でこれから国を背負っていく逸材だった。あの陰険ジャルカが是非にと指導役を買っているほどなのだ。

しかし、このノルデインの大軍をなんとかせねば国が滅ぶのは確実だった。確か、今はジャルカがなにかいい手がないか、偵察に行っているはずであった。帰ってきたら絶対にひと悶着あるだろう。


「皇太子の家族を直ちに呼べ」

国王は侍従に命令していた。


「ご家族をですか」

「そうだ。直ちにだ。孫も連れてくるように」

国王は確認するのを怠らなかった。


「父上、お呼びですか」

鎧に身を包んだアーノルド・ダレル皇太子が隣国から娶ったマティルダ皇太子妃を連れて入ってきた。後ろには生まれてまだ日にちが経っていない息子を乳母が抱いていた。


「実は、ブリエント伯爵夫人の代わりにシャラが生贄になってくれることになった」

「えっ、宮廷魔導師のシャラがですか」

アーノルドはまじまじとシャラを見た。

たしか、行方不明になった騎士のビリーと結婚していたはずだった。


「で、その娘を養子としてブリエント伯爵が育てるらしい」

皇太子はブリエントを見た。

たしかにそれは大変なことだったが、今生まれて間もない息子を連れて来る話ではなかった。


「騎士ビリーと宮廷魔導師のシャラの間に生まれた娘なのだ。将来は楽しみな娘になろう。

よってここに、生まれたところのお前の息子と婚約させたい」

「えっ、この子とですか」

皇太子らは驚いた。


「しかし、陛下。そのような恐れ多い」

シャラは躊躇した。


「何を言う。その方の血を受け継いでいるのだ。さぞ魔力の強い娘となるであろう。王家としてもそのような娘を嫁に向かえられるに越したことはない。それともこのような小さい国の王家では不満か」

「いえ、滅相もございません」

国王の言葉にシャラは慌てて頭を下げた。


「しかし、王子はまだ生まれたばかりで」

皇太子妃は顔をしかめたが、

「何を言う。シャラは今から生贄として行ってくれるのだ。国を救うために。その手向けとして娘の行く末を決めてやることくらいしか余は出来まい。嫌ならばマチルダ、その方が生贄となるか」

国王の剣幕に慌ててマチルダは首を振った。


「シャラ。すまぬ。このようなことしか出来ない王を許してくれ」

「滅相もございません。娘の行く末が心配でしたが、これで心残りはございません」

「そうか。直ちに養子縁組の書類と婚約の書類を持ってまいれ」

そう言う国王の目には涙が光っていた。

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