水曜日くんには敵わない!?
@littleleaflilac
水曜日くんには敵わない!?
『————まもなく、1番線に電車が参ります。危ないですから————』
「……あっ、いた」
階段を登りホームへ出ると、1人の男子高校生の姿が見えた。眼鏡をクイっと直した彼の黒髪は風になびいている。朝の通勤時間のホームは人で溢れているが、まるで切り取られたかのように、彼の姿はスッと私の目に入ってくる。私は何気ないふりをして彼の後ろに並ぶ。
(今日は後ろに並べた、ラッキー!)
私は心の中でガッツポーズをする。私は部活の朝練のない水曜日に、必ず同じ電車・同じ車両に乗り込む彼に密かに想いを寄せているのだ。
まもなく電車がホームへと現れ、私たちは流れに沿って電車へと乗り込む。またもや何気ない振りをして彼の隣に立つと、私は自分の本を開いた。この時ばかりは、混雑している朝の電車に感謝だ。すぐ隣に立っていても不審がられない。
(今日は、何読んでるのかなぁ)
私は横目でチラッと彼の読む本を覗く。彼は電車の中で常に本を読んでいる。
(……あっ、今日は湊さんの本だ)
そう、彼のことが気になり出したきっかけは私の好きな作家さんの本を彼も読んでいたこと。そのことに気がついてから、私は毎週水曜日に、こうしてこっそりと彼のことを追いかけているのだ。
「美咲、おはよう」
校門の目の前で友人たちに声をかけられる。
「今日は、どうだった?水曜日くんに会えた?」
「……今日は後ろに並べて、電車の中でも隣だった。」
「えっ!やったじゃん!」
「もう声かければいいのに」
「そっそれは無理だって」
「そんなんじゃ進展しないよ。今のままじゃ、良くてストーカーだよ。」
「それは……否定できないけど」
「とりあえず、次会ったら名前聞くのよ。」
それができたらこっそり追いかけたりなんてしないわけで……。
なんとも難しいのだ。
「おう、隼、今日の朝遅かった……あっ、そうか、今日水曜日ちゃんか。」
「だから、その呼び方やめろって」
俺が密かに想いを寄せている女の子のことを友人たちはそう呼ぶ。理由は、俺とその子が会うのが毎週水曜日の朝の電車だから、ただそれだけだ。会うというより、見かけるというのが正確だが。
「隼もよくやるよな。わざわざ水曜日だけ電車の時間変えてさ。」
「あれだろ?一回電車乗り遅れた時に出会ったっていう女の子。一目惚れして、電車の時間変えてその子探して。あの隼がなぁ。」
「……悪いかよ。」
俺だって話したこともないあの子にここまで惹かれるなんて思ってもみなかった。今日の朝なんて、隣で本を読んでいて————ほんっとうに心臓が飛び出るかと思った。
「いやぁ、悪くないっすよ。何にも。
「隼、楽しみにしてるぜ。」
「……はぁ、お前ら、結局それが目的かよ。」
ニヤニヤとからかいながらも、なんだかんだ俺を応援してくれていることは分かっている。ずっと気になっていながら名前すら聞けていないヘタレな俺を。
次に会った時こそ、絶対に名前を聞こう。
「それにしてもさ、学校の最寄り駅も一緒なのに、こうやって帰ってる時には一回も会ったことないよなぁ。」
そう、彼女とは自宅の最寄り駅も学校の最寄り駅も同じだというのに毎週水曜日の朝にしか会うことができない……
……えっ?
俺は遠くから歩いてくる女子高生たちを見てはっとする。
「……あの子だ。」
「隼?おい待てよ」
そう言う友人たちを残して俺は走り出す。あの子は俺に気がつくと、えっ?という顔をした。やばい、このままだと俺はただの変なやつだ。どうしよう、でももう後には引けない。
彼女のもとに着くと、彼女も何か言いたがな顔をしている。ごめん、これだけ聞かせてください。はぁはぁと上がる息を整え、あのと声を発する。
「「名前、教えてもらえませんか?」」
水曜日くんには敵わない!? @littleleaflilac
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