第二百二話:アンヴァーテイラ・コバルトスワロー・アルメリア・1

「さて、アンヴァーテイラ」


 リプカたちの元へ戻ってきたワルツは、ひとまずの閑談も置かず開口一番に話を切り出した。


「私はもうお役御免なんだろう? だったら、しばらく一旦別れてさ、最後に、リプカちゃんと二人で居させてほしいな」

「あん?」


「え」と僅か警戒を浮かべたリプカの隣で、アンは露骨に顔を顰めて嫌嫌そうな声を漏らした。


「嫌だよォ、どうせ余計なことを吹き込むつもりでしょう」

「残念ならがアンヴァーテイラ、君にそこまでの入れ込みは無いんだ。リプカちゃんと一緒に過ごしたいだけだよ、色々やったんだし、それくらい、いいでしょ?」


 リプカを抱き寄せながら、ワルツはアンへ一つ視線を飛ばした。


「それに、きっとこれが私の役割なんだと思う」

「やっぱり余計なことを吹き込む気じゃないですか」とぼやきながらも、アンはため息をついたきり、面倒くささが勝ったのか、それ以上は止めなかった。


 そんなこんなでワルツと二人きり。


「リプカちゃん、行こうか」とアンへ背を向けて促した、ワルツのエスコートは完璧だった。気遣いがなければ、とてもこうはできまい。


(あれだけの甘言を向けた私の前で、まさに甘言蕩尽の大立ち回りを見せてくれた、不実な人ではあるけれど。きっと彼女は、虚言吐きではないのだろう)

(不実なだけで、嘘ついてはいない)


 それはそれでどうなんだという話ではあるけれど、そんな彼女が初めて口にした、嘘の成り損ないみたいなことに、何も思わないほど鈍いリプカではなかった。

 これまでとは違う、なんらか熱のこもったお話しの予感を感じ取っていて、なんだろうなと身構えながらもだからこそ連れられるまま一緒に歩いていた。


 お尻を触られた。


(……やっぱり私の考え過ぎかもしれない)


 お尻を触られてもアクションを起こさなかったリプカの様子を見取ると、今度は抱き寄せついでに胸元へ手を伸ばしてきたワルツの手を引っ掴んで、リプカは仕方ない表情でパシリとその手をはたいたのだった。



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