アルメリア領域の街並み・1-2
「マノン、おはよう。今日も君の瞳を近くで見れて嬉しいな。――ああ、こちらは新しい友人と古い友人、――そう、アンヴァーテイラ。そしてこちらはリプカ嬢。ウィザ連合から
「こんにちは、リプカ・メメアです。アリアメル連合には友人を訪ねに来て、いまは観光を楽しんでおります。――いいえ、お花がいっぱいの景色に、この穏やかに流れる時間がとっても素敵。――わぁ、後で伺ってみます! ええ、シィライトミア領域のほうから――」
性は偽名で通しなさいというアンの助言は的確だった。
なんでもない会話を交わせるということが肝要であることは、すぐに見抜けた。そこから街の景色が一新される情景を数多く得られたから。
「ルーネイトやシィライトミアと違って、ここは何もないでしょ? ――そう? フフ、じゃあ中央地区の第一公園に行ってみなよ、アルメリアの花がいっぱいの、とっても綺麗だけどゆったり散策できる、イチオシな見どころだから」
「まー出不精だね、アルメリア領域は外側より内側の交易を優先して発展させた領域だからさ、流通の利便だけはとてもしっかりしてるの。業者の馬車が多く走ってるでしょ? あれは個人宅に荷を運んでるの。生活必需品のお店さえまちまちなのはそういうワケね、宅配サービスが主流で足を使うことが少ないのよ。――そう、この領域には、露店と呼べるものは一つも無いよ」
「君、可愛いね。――気をつけな、羽のように軽い言葉で誘ってきて、なし崩し的な雰囲気に持ち込もうとする輩がけっこういるから。そう、君の隣にいるヤツみたいな。――私? フフッ、君みたいな可愛い子は大歓迎だよ。――チュっ。道中気をつけて。また会ったら、そのときは一緒にお食事でも行きましょう」
各々個人であるのだから。
協調性とは揃って足並み合わせるものではなく、その地に根付いた文化的思想を通して大まかに整っているだけで、それが規律の重視という景観を見せたに過ぎない。
そんな当たり前のことを、学び、知る。
(景色の絵を見て、色々と決めつけてかかっていたけれど――実際を知るとその浅薄がよく分かる。そう、私があのとき見た景観には、決定的に――息遣いの温度がなかった)
アルメリア領域は。
花の香り豊かな静謐、街を歩けばピアノの音。
アルメリアを揺らす風も穏やかな、一見何事もない領域に見えるけれど――。
「今日もお仕事だよぉー! ワルツも、今日も元気だねー。おっ、観光の旅行者さん? なんにもないところだけど、でも芸術が楽しめる場所だから、楽しんでいってねぇー!」
何でもないところに、活気があったり。
「アイツ殺すわ次のコンクールでッ! ガチ、バコすかんね、スカした顔面歪ませるわ……!」
住宅地を歩けばピアノの音が聞こえてくる静穏――胸中の正直なところ、別の視点では少し冷めた雰囲気も感じ取っていた場所に、実はオルフィア領域のような粗野な溌剌が潜んでいたり。
「こーんな穏やかなのに私は死にそうでーす。どうしてでしょーか? ――答えはお金がなくて家を追い出されそうなのに、現在取り掛かってる仕事がキャンセルになりそうだからでーす。殺せよ」
のっぴきならない事情があったり。
「ワルツじゃん。これから仕事か?」
「ジャド。今は散策中。こっちは……あれ、いない。こっちは新しい友人のリプカちゃん。可愛いでしょ?」
「リプカ・メメアです。よろしく、ジャド!」
「…………。――神様ありがとう」
「え? ――――ウォぉをを!?」
「――え? コレ、毎日を頑張ってる私へのご褒美的なアレでしょ? いや貰うよ、私とリプカちゃんで毎日を過ごすんでしょ? 過ごすんだよ、ありがとう」
かと思えば、アンが言っていた通り、ワルツ並みに変な人が、普通にいたり。
協調性の高水準であるとか、規律の重視だとか。
服装やら一見の所作やらだけを眺めてそんな絵を見出していた自分が、なんだか間抜けに思えてきたのだった。
「ママがねーっ、私は髪を染めたいって言ってるのにねーっ、まだ早いっていうのっ」「ヘアカラーは髪が痛むからっ。大きくなるまで我慢しなさい」「わたし、虹みたいな青色がいいーっ」「大きくなったらね」
そうして人々と交流し触れ合うにつれて、気付くことがあった。
「ねえなんで? なんで私があなたに会いたいって思ってたのに、会ってくれなかったの? 家に行ったよね? どうして!? ――ちょっと、もう……! ……次会いに行ったとき会ってくれなかったら、本気で許さないから」
それは本当に当たり前のこと。
人によっては意識するまでもなく理解している常識未満、けれど知らない人にとっては幾つの歳になっても認識できない、この世の道理。
「ねえリプカちゃん、この服どう思う? 『緊縛コーデ』っつって、次のコンペはこれで行きましょうって
――ああ、この街に住む人たちも生きていて、その一人一人にも、個々人一生分の意思というものがあるのだな。
認知の平野が空を望んだように広がって、そして――そのあまりに幼い認識の
でも。
本当に、今までそんなことを、思ってもみなかったのだ……。
「リプカちゃん、どうしたの?」
「――いえ、なんでも……」
リプカは頭がズキズキと痛むくらいの赤面を見せながら、そのような大人なりに平静を取り繕って首を振った。
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