ミーナの時間・2-3
「――もちろんいいですよ。今日は一緒の部屋で寝ましょうか。あっ、私は明日、朝早いけれど……それでよければ」
「全然、構いません。お時間を作ってもらえるのなら……」
そうですか。
リプカは頷くと、――――溌剌とした声でそれをミーナに伝えたのだった。
「では、今晩はクイン様とも一緒に、私と、三人で眠りましょう! お部屋の広さも十分ですし、クイン様も聞き入れてくれることと思いますから」
「…………――えっ? クイン・オルエヴィア・ディストウォール……??」
……今までの、多感で繊細な雰囲気はどこへやら。
呆け顔でリプカを見上げたミーナは、間の抜けた地声を漏らした。
その様子にリプカは僅か首を傾げながらも、笑顔で頷いて、話を続けた。
「ええ、理由があって、最近ではクイン様と……同衾という意味ではなく、部屋を一緒にして、夜を明かしていて。フフ、三人であれば、きっと二人よりも賑やかで――そして
「えっ、ちょっ、えっ、えっ、えっ…………? …………??? ……ちょぇ――」
せっかく、
「…………。リプカ様、あの――。…………。どっ、どうして、クイン様も同じお部屋で……?」
「――彼女が眠れるように。ミーナ、あなたならきっと、その意味を察することでしょう。――先の戦争でのこと……そしてディストウォール領域から遣わされた王子であることを、――せめて夜の間だけは忘れられるように」
「…………! ――ッッアっ、スゥ――ゥ……、なるほど、です。…………。――リプカ様」
コヒュー、コヒュー……。
そしてミーナは、再び多感で繊細な表情でリプカを見上げて、声を上げた。
「私、わたし……上手く、言葉にできないけれど……今日だけ、今日だけは……二人で、二人だけで一緒に眠るというわけには……いかないでしょうか……? そうしたいんです、どうしてか……今日だけは……」
「――ごめんなさい、気持ちは伝わるけれど――そういうわけにはいかないの」
リプカは、これにはハッキリとご不承の返事をした。
ある種コメディチックな、まん丸の形に開かれた目と口。……ロコの表情が、魂が抜け出たように褪せた茫然の白色に染まった。
「あの……ミーナ……? だ、駄目だった……かしら――?」
「アッ……、ハッ……ハヒェ……――。い、いいえっ、駄目なんてことは……! …………。――こマ?」
実は、どうあっても不可能だったことへ挑戦していたという冷たい現実を前に。
目を回して俯き、冷や汗をダラダラと流しながら何事かを呟き漏らすミーナは、まるでもう、哀れな敗残兵のような有様そのものであった――。
「ハッ、ハッ――。…………。…………」
ミーナは、再び、無言でリプカの胸内に身を寄せて。
そして、胸内の中で、静かにそれを伝えたのだった。
「――リプカ様、やっぱり、今日はクイン様とお二人で、夜を過ごしてあげて……」
「えっ――? で、でも……ん――。――どうしてか、聞いてもいい?」
「クイン様が、とても頑張っていることは、知っているから……。その状態でとてもお疲れなら、きっと、二人きりのほうがいいから……。だって、私もその気持ちが……分かるもの――」
「ミーナ……」
リプカは呟くように彼女の名前を呼んで――僅かの逡巡の後、彼女の頭を抱きしめた。
「クイン様はきっと了承してくれる」
「いいえ、今日はクイン様と夜を過ごしてあげて……」
「――分かりました」
言って、リプカはミーナの額に口付けした。
「ミーナ、大好きよ。あなたの尊い心も、私が、あなたを忘れ難く想う確かな一つだわ。それを声にして、伝えさせて――」
胸内に抱くミーナの身体が、細かに震えていることに、リプカは気付いていた。
そんな彼女へ慈しみを伝えるように、リプカはまた、震えるミーナの頭へ手を滑らせ、優しくその髪を撫で始めた。
くぐもった声が胸内で震えている。
リプカはなお一層、彼女を抱き寄せて、――抱き締めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます