前夜・1-2
「オっ、オイオイ……、本当か……?」
「――ほら見ろォ、このダンゴムシはやるときゃやる節足動物だと言っていただろう私はぁ」
「いや可能性としては考えるなって話だっただろ。――まあ、それにしても……凄いな……」
「えっ、えっ、えっ……?」
「ハイ勝ちー。一気にほぼ全ての解決である」
「ウオオ鳥肌立った……! 薄い可能性としての話だったけど――まさか本当にリプカちゃんが、こうして決定的な情報を持ってくるなんて――」
「ん――、だがな」
頭上にハテナマークを躍らせるリプカに何を説明する間もなく、今度はビビが頭上にクエスチョンを浮かせた。
「しかし、計画に光明が見えたとはいえ、ここからどうするんだ……? それはまだ、私たちは聞かされていないが……」
「まあそれはおいおい分かる。もう言ったが、それを言うわけにはいかない。全てを明かせない性質上、信用が難しいのがこの計画の弱みだ。そのときが来るまでは分からんままだろうが、そこはダンゴムシに対する誠意が無ければ私が滅ぶという現実をもって信任してほしい。――まあそもそも全てが皮算用で終わる可能性もあるがな。ダンゴムシっ!」
「は、はい!」
「この計画は、シュリフとやらをある程度まで納得させた上で成り立つ構想図だ。結局のところお前次第。お前にしかこなせない……そこは、任せたぞ」
「――ミスティア様は……可能性を見出せたその未来で、消えることを選ぶでしょうか?」
「私の企てに乗った先の予期は、おそらくシュリフの眼をもってしても見通せない画策の話だ。現時点では奴の眼をもってしても見通せない……そのことは今までの会話で推察できる。だから、乗ってくるかは結構微妙なところである。そういったわけで、そこはお前の説得にかかっているということだ」
「――分かりました、そのことは任せてください」
「まあ、それはいいとしてだ」
そこでビビが話に割って入って、浮かされた熱に、現実の冷や水を浴びせた。
「開発のほうはそれでいいとしてだ……、輸入ルートに関する話の破綻は、いったいどうするんだ?」
「それはこれから考えればよかろうがァ! オラッ、お前も余裕ができたんだから話に加われ。リリーアグニスのはダンゴムシを節足類から進化させる作業に移れ、こっちは二人でやっとくから!」
「了解っ。んじゃリプカちゃん、やりますか!」
アズの突き抜けた声を皮切りに、各自それぞれのことに着手し始めた。
クインとビビは何らかの計画を煮詰める話し合い、アズとリプカは勉学の続き。削れていく時間に追われながら、散らかしっぱなしの部屋みたいな有り様の轟々で、とにかく尽力することに全力を注ぐ時間が始まった。
クインの計画構想。断片的な話を聞くに、どうやらパレミアヴァルカ連合にアルファミーナ連合の何らかを輸入する手はずの話であるようだったが、こちらもこちらで気合いで乗り切るしかない切羽詰まった猛勉学の最中であったので、詳しいことは分からなかった。
「いや無理だってッ。これは明らかに無駄なことに時間を使っている。輸入費用だけは家柄の信用問題だから、見積もり値をそこに収めないといけないのは分かるが……パーツごとに輸入額の計算を勘定するなんて仕業、詳細な図面が手元にないと無理だ! この道の先には破滅しかないから一旦引き返そう、クイン」
「こっちから詰めないと話が続かんじゃろがッ。いいんだよテレイグジスタンス素体? の情報が手に入る前提で話を進めてんだから」
「そもそも本当にそのバイオヒューマノイドは機能しているのか?」
「お前が分からんかったら誰も分からんわ」
「はいはいリプカちゃん気にしなーい! ――礼儀の哲学みたいな話はまだ早い、今日はこれを脳みそに染み込ませて!」
「最初はスタッカート調子を……心掛ける……。声を遠くに飛ばすように――」
「その素体、実際に見ておくべきだったなぁ」
「言っても仕方ない、今は今できることをこなす、それだ」
「…………――。――――無理だって……ッ」
「罰金。お前マジで払え。――オラ、ダンゴムシを見てみろ! 節足動物なりにヨチヨチ一生懸命やっとるじゃろがッ」
「姿勢は……人それぞれ……」
「……――やるか」
「ここから煮詰める。無理ならまた戻ろう」
壁もゆうに突き抜ける喧々囂々――そんな喧噪だったから、気になったのだろう。
ふと気付けば、いつの間にかサキュラがひょこりと扉から顔を覗かせて、こちらを窺っていた。
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