皇女オーレリアの説教――貴方にエールを――・1-2

「なんとなく――自分がそれを成すことを真の意味で覚悟したそのときこそ道が拓ける、といった教訓のお話であることと思われますが、それが実感としては理解できない。当たり前のお話でもあります――私は願った何かを成した人間ではない。


 ここで言う『何かを成す』コトとは、幼い頃に思い描いた憧れに留まらず、生きる中で芽吹き、気付いてゆく大小の願いを指しての趣意でもあるのです。その仕事を自身の証としたいという憧れはもちろん、世俗の相容れぬに屈せず主張を声にして届けること、それも何かを成し遂げることであります。大切な誰かのために仕事を成すこともそう、己のために世間に立ち向かい在り方を勝ち取ることも、そして遠くの目標に限らず、友を助けるといった目前のことまで、全てその意味。――友を助けること。なるほどそれを考えれば、『何かを成す者とは、自身がすでにそれを成すことを知る者』であるという意思の話も、分かろうというものです。


 ――――と、普通の説教であれば語られるところですが。


 しかし正直な話、私はそこまで話を聞いても、まったくピンとこなかった……。

 だって、友を助けるといったって、私の話からすればそれは、火中かちゅうに手を差し伸ばすような艱難など伴わず、あっても、食べ物を分けるといった対面の仕方しかなかったわけで。それはそれで様々あったことだったけれど、続く説教の一節、『つまり為すべき使命と捉えたこと』と言われても、難しい顔を浮かべるばかりでした。


 ふと横を見れば、一人二人、寝ていた子がいたくらいでしたから、それはそも、子供には分かり辛い話なのではないか、なんて考えたりもしました。アイリーン様ごめんなさい。実は今も、私は話しながらに、少し眠たくなってしまったんです」



 苦笑のさざ波が立って――そして、子供たちからは温かな拍手が送られた。その様子に大人はまた「フッ」と笑みを漏らして、銘々、手で顔を覆った。


 小さく手を挙げて応えたオーレリアは、場の軽やかな雰囲気のまま、話を進めた。



「そこで私は考えた。こういう時は、そのような経験を経た人に直接、話をお伺いしようと。私は一番身近な年長者、私のお兄様にそれをお尋ねしましたが……返ってきた答えは、これまたイマイチ実感の得られない教示でありました。


 のたまわく、その意味は実際にそのときが訪れないと分からないことであり、つまりその説教は『友を助けること』という例に話とするところの実感を見ることで、いざ何かを成さなければならない状況にあったときの手掛かりとなる、ヒントを見出すための教唆である、とのことで。


 なるほど、それは私に準備を与えるための説教だったのか、と得心すると共に、ではやはり、今の私には理解しづらい話であるのか――と、ふんわり思っていたのも束の間。


 説教の話とは場合が異なり、私にも、時期というものがやってきてしまいました。


 早々に訪れた試練の内容は、ジュミルミナの象徴として、拝聴者に説教を執りなさいというもの。


 七つの歳になったときでした。


 正直、そんな馬鹿なと思ったものでした。説教とは、人生を通して見てきた様々に視た、それぞれの真理願い祈りを解釈したお話しを人々に託すものではないのか、やっとのこと様々学ぶということを覚えたばかりである七つの子が、いったい何の人生訓を人々に話すというのか……?


 茫然としている時期の中で、出会いがありました。


 私と同じ程の歳であるその子は、自分に自信というものがなくて、優秀な姉に少しでも追い付き隣に立ちたいと願う、頑張り屋さんでした。けれど、なかなか上手くいかなくて……当時は大きな不安を抱えて、俯きがちでありました」



 聞いたことのある話。


 リプカは自分のことを挙げられているのかと一瞬思ったけれど、過去にオーレリアと会っているということもなく、歳も離れている――。自分ではない……?


 そして僅かの後、それに気付いた。


(そうか、これは――表のミスティア様のお話だ……)



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