アリアメル連合の陰《かげ》・1-2
「そ、それにしても、アリアメル連合の人々は本当に、枠組みに捕らわれず、春を謳歌することに積極的ですね」
「積極的ね。他の国もこんなもんだと思いますけど、まあ、そうかもしれませんね。――そして、だからこそ、貴族階級においては過ぎた窮屈が蔓延っている」
「――どういうことでしょうか?」
にわかに真剣味を帯びたリプカの問いに、アンは唇を尖らせて語った。
「規則社会には、社交の円滑をより高めるため、そして『戦争を避ける』という本来の意味合いを見るために、互いへの尊重を礼節たらしめる、規律が不可欠。けれど――アリアメル連合の場合。要所で枠組みに捕らわれない、お国柄な自由を、歪んで伝わったエレアニカの教えを根源とする常識の枠組みに無理矢理押し込めると――」
「あ――……」
「馴染むはずのないものを押し込めた常識の枠組み、信仰の絶対がそのまま固さになって、ハイ、所々が狂った、行き過ぎた窮屈の完成です」
リプカは息を飲んだ。
あのとき、セラが苦しそうに語っていたことの、根幹……。
「――セラ様は、もし仮に私がアリアメル連合に嫁げば、他の国々の常識から見れば隷属と変わらぬような、窮屈な女性らしさを求められる、と仰っておりました。どうしてでしょう? エレアニカの教えの、何が歪んでしまっての理由なのですか?」
「それは単純な話で、同性で結婚すれば夫と妻の立場が分かりづらくなりますから、アリアメル連合の貴族間では男性らしさ、女性らしさ、その所作が殊更に求められるんですよ」
「…………は??? い――いや、でも……!」
「そう、エレアニカの教えの教義とはなんだったのかという有り様です。しかし……信仰を
リプカは困惑の中、思わず笑ってよいのやら、迷ってしまったけれど。
よく解してみればそれは、事情が複雑に絡んだ深刻であった。
「…………。難しい――」
「そうですね。言葉にすれば『習わし』の四文字で表せてしまう単純明快故に、非常に難しい問題だ。まあ、乗り越えるしかないわな」
実際そうなのだろう。乗り越えるしかない。
身も蓋もないけれど、紛れもない真実。
(けれど――私はここに、それをしに来たわけではない――はず……)
元々は三十九日を上限に据えて準備を進めるつもりであったので、為すべき明確が未だ見えない現状も、当初の計画を思えば問題とされるほどのことではなかったかもしれないが、シュリフの明示した一つの期間、その短さを考えると、どうしても不安は募った。
(……――大丈夫)
「あのー……」
と、苛みに整理をつけようとしている、シリアスな心情であるところに。
先程聞いたものと同じ、浮足立ちながら窺うような、可愛らしい声がかけられた。
(エッ!?)
(ま、また――!?)
「あのー、よければ、私たちとお店を巡ったり……一緒に、遊びませんかー……?」
振り向けば、そう思わせておいて意外なハプニングという捻りもなく、僅かぎこちなくも物怖じのない積極性で声をかけてきたのは、今度は十の歳以下と思われる、幼年の女の子二人組だった。
このたびは分かりやすく、二人の熱っぽい視線がはっきりと、オーレリア目当てであることを物語っていた。
「お食事とか、一緒に、ど、どうでしょうか……?」
あら、とオーレリアは光栄の表情を浮かべて、そのあと、目を瞑って断りの姿勢を見せた。
「ごめんなさい、今日はこちらの方々と一緒に来ておりますので。また別の機会に」
割とはっきり、さっぱり断ると、撃沈した女の子たちは心底の残念に肩を落とし、未練に後引かれた様子ながらも、頑張って形作った笑顔で了解の旨を告げて、手を振って去っていった。
「みんな、青春に全力なんだなぁ――」
と、そんな十代娘とは思えないぼやきを、リプカは思わず、思い馳せるような感心の表情で呟いていた。
それに応えるように、アンは肩を竦めて言った。
「まあ、ココ、特に盛ってる連中が集まりに集まる場所ですからね」
「そうなのですか!?」
「でも、悪い事じゃないでしょ? 若さの盛りは今現在の一度きり、脇目も振らず恋せよ華の子ってね。飲み屋の婆さんが言ってました、歳とってから初めて、星よりも重い、この言葉の重大に気付くって。愚かじゃないのなら、この言葉を笑わんときなさいって」
「まあ、確かに――そうですね。決して悪い事なんかじゃない、それはとても、素敵なことです」
その、リプカの心からの言葉に――オーレリアは微笑みを浮かべて頷いた。
それが、
エレアニカの皇女と向かい合う。
『この世界における自由について』という命題を挙げて。
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