第百三十三話:アルメリアの怪人・1-1

 私は、今回【シュリフ】の願いでここへ参りましたが、正直――彼女はここで消えるのが、自然な定めだと思っています。

 また私は、今後きっと、それを望むように動くことでしょう。


 ――オーレリアのそんな打ち明けに動揺を示したのは、リプカだけではなかった。


 というより、驚愕のレベルで驚きを露わにして、その話に一番顕著な反応を示したのは――誰あろう、それとなく二人の会話に気を向けていた、クインであった。


 このたびの婚約者候補たちは、もしかすれば、リプカに助力を授けるための存在である可能性がある。


 昨晩は、ああいったことを皆に話したが。


 しかし、あくまでそれは『想像上あり得る』という希望的観測に過ぎず、まさか本当にそうであるとは露ほども思っていなかった、というのが実際であったようで。


 それでも可能性が残っている限りは、一応のことそれに備えて動いていた当人であったが――それは敗戦処理の経過を観測するような心持ちで、テンションも押して測るべしというものだった。


 そこへきて、明らかに『しかし、けれど』の文法でその先を述べそうな、唐突な打ち明けと――そして、漠然たるが形となった、希望の一等当選みたいな、あの歩み寄りを見せた激励の言葉である。


 マジで!? と思わず仰天の表情を浮かべたクインは見物であった。


 味方に引き入れるどころか、最初から敵対の意思なく手を差し伸べてきた。

 そんな一連を経て、「待てよ、今我々はどこに向かっている……?」と、はたと考えを巡らせたクインは、構成された状況をほぼ正確に読み取るに至った。――つまり、ロコの存在への気付きである。


 、リプカへ助力を授ける存在であるかもしれない。


 オーレリアの語りは確かにクインにとっての衝撃だったが、希望的観測の裏付けにはまだ弱く、依然、先の分からない状況は続いていた。


「このスポーツも、実際に体験することもできるのか。アルファミーナの、お前昨日はロクにスポーツ体験できなかったんだから、ちょっとやってみたらどうだ?」


 それでもどうやら、内一人が味方であることは確かなようだと考えたクインは、機を逃さず迅速に動き始めた。


 今回見に来たスポーツは『スケートサーフ』と呼ばれるもので、一枚板のボードに乗って、傾斜を活かしながら水面を滑走し、設定されたコースの踏破タイムを競うという競技だった。



 ビビが挑戦し始めた途端、ロコが絶叫と奇声の中間みたいな音響の激励を送り始めた。



 自然とビビのほうに視線が釘付けになって、皆の注意が逸れる。


「考えますねぇ。まあ、なにかしらの予定外があったほうが爽快ですから、個人的にはなんらかの意味に繋がってほしい気もしますが」


 皆がワイワイ盛り上がりながらビビを応援する傍で、一人賑わいの輪の外にあるアンが、リプカの隣で呟いた。


「賑わいの中でこそ、重要を含んだ雑談は捗るということですよ。森の中に鳥を隠すようなもんです。それを察して、あの軍師どのは更に熱気を煽ったのでしょう」


 小首を傾げたリプカへ、アンはビビの活躍に興味の薄そうな視線を向けながら、そんなことを教えてくれた。


「――で、なにか私に聞きたいこととか、あります?」


 ツラの良い女性が一生懸命に頑張る姿に湧き立つ観衆の中、雰囲気を察してか、アンは飾り気のない単刀直入で尋ねてきた。

 リプカは面食らったが、それならばとこちらも、前置きを挟まない真っ直ぐな問い掛けを向けた。


「裏のミスティア様を強引な方法で生かそうとする悪漢の輩達について、なにか知っていることはありますか?」


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