アリアメル連合のマリンスポーツ~水上スキー競技体験~・1-2

 ――船体にくくりつけられた五メートル以上あるロープの先に、しっかりと掴める、中空洞の三角を描く持手ハンドルが備わっている。これを掴んで、時速120キロの爆速で牽引され水上を滑る。


「なるほど……なら姿勢は、こうか?」

「その通りです! 他には――……スタート時に衝撃が来ますので必ず――」


 受付嬢とは別の、モーターボートを運転する女性から受けるレクチャーを聞きながら、「無理」と顔を青くする者と「あ、できそう」と予感を浮かべる者とで表情が二分する。クインも十二分に実戦できると考える気構えで、「ではやるか」と、臆するところもなく水辺へと近寄った。皆、再度に感心と憧憬を浮かべたものだった。


 岸に腰掛けるようにして、スタートの構えを取る。――ここまではクインの想定通りであった。


 想定外であったのは――走行の準備に入ったモーターボートから、低音から始まった異様なエンジン音が轟き始めたそのことだった。


 異様。


 いやそうとしか言いようがない。一種、ギャグのようですらあったのだから。




 ボボボボボロボボ―――ドォーーーッッ!!!!↑ ――デゥボロドドュボボボゥ……ボーーーォッッ↑ ダゥボーーーッッッ↑↑ ドォオーーーダァアーーーーーッッッッ↑↑↑↑バーバババーバババーァバァアアアアアーーーーーッッッッ!!!!




 おや? と皆の表情が変わり始める。

 クインの顔付きも一瞬にして移り変わった。


「お、おい……?」

「それでは行きますよー! 準備はいいですかー?」

「お、おう……」

「ではいきまーす! 前方良し、左右良し、プレイヤー良し、機体OK! カウント、3,2,1――」


 ――発進。

 いや、発射。


『ウィンボボーーーッ』、という凄まじい音を立てながら、モーターボートが水面を飛ぶように駆け始めた。


 ――初速がまずおかしかった。

 プレイヤーを気遣うのなら、まずは徐行のスピードで発進するべきであるのに、最初から機体の馬力まかせなスピードで発射されたのだ。


 何を思って――と疑問に思う間もなく、しかしクインは素晴らしい反応と大幹を見せて、なんとかスタートについていった。


 ハンドルを万力で握り、しばらくはカッコよく水面を滑走していたのだが――。


 第二のおかしい点……やはり、時速120キロは無理があった。


 見ているだけで分かる程度に、独特のコツを要する技術を必要とし、ただでさえ難しいのに……。このスポーツは絶対、もうちょっと常識的な速度で楽しむものだと、皆思わざるを得なかった。


 大きく弧を描いてカーブに差し掛かった、その瞬間であった。

 さしものクインもGに耐えきれず、体勢を崩して転んでしまった。


 そして――。


 車は急には止まれない。転げようとなんだろうと、モーターボートは120キロで容赦なく走行し続けた。

 また、今まで万力で掴んでいたものを急に離すという臨機応変も、素人が簡単にできることではなくて……。


「ク、クイン様ーッ!」


 トビウオのようにダッパンダッパンと水面を跳ねるクインを、リプカは顔面を蒼白にしながら、無意味に陸から後を追った。皆も、へたりと腰を抜かすクララを置いて、慌ててクインのほうへと駆け寄った。


 ショバーッと最後に水面を滑り、やっとハンドルから手を離したクインはぶくぶくと水面下に沈んでいった。――運転を担当していた係の者が、慣れた様子で、水に飛び込み素晴らしい手際でクインを救い上げた。



 これが、アリアメル連合のマリンスポーツ、水上スキーであるようだ。



「――――いや殺す気かァァアッッ!」


 おかに上がったクインが、むせながらも割れるような声で叫び上げた。



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