【令嬢リプカと六人の百合王子様。】第二部完結:令嬢リプカと心を見つめる泣き虫の王子様。~箱入り令嬢が踏み出す第一歩、水と不思議の国アリアメル連合での逢瀬物語~
第百十四話:アリアメル連合のマリンスポーツ ~水上スキー競技体験~・1-1
第百十四話:アリアメル連合のマリンスポーツ ~水上スキー競技体験~・1-1
水上スキーという名称なのだという。
元々流行ってはいたが、アルファミーナ連合との貿易がある程度規制緩和された時期から特に注目の集まったスポーツであるそうだ。
円形に囲まれた広大な水たまりに、アルファミーナ産の新動力モーターボートが岸に繋がれて、ぷかりぷかりと浮いている。また水たまりの所々に、
「まずはコースとか関係なく、思いっきり水面を滑ってみよう! ってことなんだけど……」
水上スキー場の受付で、アズはちょっとだけ強張った表情で、皆のほうを振り返った。
「えーと……やってみたい人っ!」
「……その前に、パレミアヴァルカの」
若干眉間に皺を寄せながら、クインが尋ねた。
「もう一度、水上スキーとやらの説明を解説してくれ」
「うん、昔は人力の水車で引っ張ってたんだけど――今はなんと、時速120キロで走行する電動モーターボートを使って楽しむんだって! エキサイティング!」
「んで、いまあえて暈して言語化しなかったところを、はっきりと、詳細に余す漏らさず説明すると?」
「ん……んー、あのー、まあ簡単に説明すると――」
目を微妙に逸らしながら、アズは努めて明るく、それを明かした。
「時速120キロで走行する電動モーターボートで、人を引っ張るようにして、それで水面を滑走するんだって。エ、エキサイティングだね……!」
「…………」
皆の表情には、それぞれはっきりと、それに対する感想が感情として浮かび上がっていた。
顔を青くして、暗い表情で俯きがちになっている者が一名。――クララだ。
なんつーことを考えているのだ、と呆れているのが二名。――ビビとクインだった。
そして、ワクワクと頬を赤く染めている者が一名。――リプカである。
そんな一同の様子を苦笑いで見守っていた受付の女性が、個人の親しみが見える適度な距離感をもって、親身な声をかけてくれた。
「説明だけ聞くと、厳つい印象を受けますよね。でも、実際にやってみると、運動神経の良い方ならすぐにできてしまいますし――なにより、風や水飛沫の抵抗を全身で受けるのは、本当に爽快ですよ。生きてる! というか……ドキドキして! そう、スリリングです。一般のお客様も楽しまれるスポーツですし、あまり身構えなくとも大丈夫ですよ」
――身振り手振りを交えた、気を和ます、レジャーの場に相応しい受付嬢の距離感。
思えば、その心地よい和やかさが、一つ目の
皆は、クララを除いて「そういうものか」と納得を浮かべて、互いに視線を向けあった。
「――フン、ではまず……私から、やって、やるかァ――」
そして、最初に挙手したのはクインだった。
やれやれ仕方ないな、と言わんばかりに、肩を回しながら、一歩進み出る。おお、と
そうして、和らいだ朗らかな空気感の中、受付嬢に案内されたのは、水面を滑るための板を選ぶ部屋であった。
縦に長い細板や、城下町の街中で子供が転がすような、スケートボードのような板がたくさん。
どうやらこれに乗って、水面を爆速で滑走するらしい。
「…………」
二度目の沈黙。
が、先程の説明もあり、「こんなものか」とクインはすぐに気を取り直した。
聞けば中々奥が深く、スケートボードのような板を使用し、足先が横を向いた姿勢で滑るスタイルを指して『ウェイグボード』というようで、こちらは水上スキーとは別競技であると識別されているようだ。波の影響を受けにくいため、海でも気軽に行うことができるスポーツであるという。
どちらも親しまれたスポーツであるという話だったが、――この説明から来る普遍認識の油断がまた、クインを襲う第二の
「まあ、これでいいだろう――」
と、クインが選んだのは、二枚一組である、やや幅広の板だった。
左右一枚ずつで履くタイプの水板。初心者にはオススメなものだという。
当然、ドレス姿のままではなく、装いもそれ専用のものへ改めた。
瀟洒なデザインの、赤色の
水飛沫避けの、虹色に輝くゴーグル。
そして、水を弾く、ウェットスーツ。
いかにもスポーツに適した動きやすい装い、スタイリッシュな印象を受けるそのデザインはクインに本当に良く似合っていて、クインの立ち姿に、皆小さく拍手を送ってやんやを口にした。
「フン、まあ、見ていろ」
レジャーの場で引き合いに出す話ではないが、彼女は戦場を駆けた軍師、通常考えられない屈強を兼ね備えた令嬢である。激しいと噂に聞くアリアメル連合のマリンスポーツといえど……見守る王子たちも、そして本人もまた、まさかそんな
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