財力の国のお宿にて・1-2
標準なデザインの扉を空けた先には、旅先に相応しい素晴らしい景観が広がっていた。
落ち着いた雰囲気がありながらも随所が輝く、高級な装飾。
外の景色を一望できる窓ガラス。
扉の冷たい雰囲気とのギャップもあり、普通であればそこに大変な感動を抱き、そのリッチに気持ちを高ぶらせること間違いのないデザインの工夫が凝らされていたのだが。
そんな景観を目にして、リプカは――。
(あら、思ったよりも、広いんですね……)
他のお宅を訪れたようなドキドキを抱きながらも、そんな感想を思っていた。
なんだかんだ言っても、お嬢様な家柄の出自である少女であった。
――ちなみに他の三人の王子は同刻、部屋のあまりの高級と広さに失笑の声を漏らしていた。
ベリィVIPの部屋である、どれくらい広いかといえば――エルゴールの屋敷の一室ほどの空間的ゆとりがあった。
(わぁ、高い。街並みが見下ろせる……)
(あ、お風呂がこんなところに……。広くて……か、開放的ですね……)
(家具も揃っていて、ゆっくりできそうな部屋ね。アズ様に感謝しなくては……)
それがどれだけ凄いコトであるのかも知らず、リプカはのんびりと部屋を散策した。
(…………。クイン様、来るかしら……。来ないのなら、こちらから出向いたほうがいいかな……)
とてつもなくゆとりのあるベッドに、しかしエルゴール邸宅の自室にあるベッドよりも小さかったので特に感慨も抱かず腰掛けながら、そんなことを考えていると――。
はたして、『ピピピ、ピピ』という電子音が部屋に響き、解錠の音が聞こえた。
「あ、クイン様――」
「――――眠れるかァッッ!」
「ヒッ……!?」
バンと扉を開き登場するやいなや、クインは夜中であるにも関わらず大声を轟かせながら部屋に踏み込んできた。
「馬鹿か、あの女はァ! 頭がパーになるわッ!」
「ク、クイン様、どうなさったんですか……!?」
その喧しい様子に驚きを見せるリプカを見やると、クインは「フン」と鼻息を漏らした。
「……お前、この部屋を見て何も思わなかったのか?」
「え? い、いえ、素敵なお部屋だなと思っておりました」
「……なんだかんだと、金持ちの家のお嬢じゃよな。……今日はここで寝る」
「あ、はい……。…………?」
ズカズカとベッドへと直行したクインを、リプカは首を傾げて見つめた。
「あの……いったいどうなさったのですか、クイン様……?」
「……この度の過ぎた豪勢に失笑する気持ちと、お国の財力差を見せつけられたショックが入り混じっておるだけだ。レヴァロドルマ領域のオルエヴィアハイクラスでさえ、ここまでのデザインは……。――ベッドもでかいなぁ、オイ……」
なぜか気落ちしてベッドに突っ伏してしまったクインを、リプカは不思議なものを見るように見つめていた。
――と、再び部屋扉に音があった。
今度はノックの音であった。
「あ、はい――!」
リプカが駆け寄って扉を開けると――。
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