第五十四話:再び、立ち上がる

 クインが指示し振舞った料理は、本当に不気味なほど体から活力が湧く料理だった。


 見た目にも綺麗な透明のスープ料理で、具には、奇妙な歯ごたえの小ぶりな鳥肉に根菜と、あっさりした風味がベースになっていて、そこに擦られていたり刻まれていたりする香草が適量加わり、味に変化を与えていた。


 頂いてみると、鳥ダシの優しい美味の中に、じんわりと後ひく特徴的な、ピリリとした辛みが現れ、それがよいアクセントになっていた。


 一口二口味わうと、リプカはその辛みに察しがついた。


「生姜、ですね」

「そうだ。なかなか美味いだろう?」


 生姜の他にも香草に僅かな辛みがあり、食べるうちに、じわりと汗が浮き出るほどに体の芯から温かくなってきた。


 あまり貴族の食卓では出ない類の料理を、リプカは残さずに楽しんだ。


「ごちそうさまでした。――美味しかったです。スープ一品の料理でしたが、食べてみると十分に満足できる、しっかりとした朝食でしたね」

「ふふん、そうだろう」

「スープに入っていた鳥肉ですが、初めて味わう触感と風味でした。あれは何の鳥のお肉だったのでしょう?」

「あれか。知らんほうがいいぞ」

「え」

「オルエヴィア連合では一般的に食される食材だが、他国では珍味中の珍味らしいからな。あまり良い顔をされないのだ……。正直よくそんなものが置いてあったなと感心している」


 固まるリプカにそんな情報を明かし、クインは肩を竦めた。


 リプカは再び「え」と固まってから……その意地悪のような仕打ちに、唇を尖らせて問うた。


「ではどうして、今朝はこのお食事を……?」

「何故、だと? 決まっている。活力の湧く朝食。――色々と忙しい日、だからな」


 勿体ぶるように溜めて言い、意味深な笑みを浮かべるクインを見て、リプカは不気味なほど活力の湧く料理のせいか、背につうと一筋の汗を流したが――。


「冗談だ」


 ――しかし意外なことに、クインはすぐに悪戯っぽく笑って、その発言を取り消した。


 そしてリプカの瞳を真っ直ぐに見つめると、打って変わった真面目な口調を向けた。


「これは誓って本当だが、お前にその料理を振舞いたかっただけだ。――美味しかっただろう?」

「えと、あの……美味しかったです……!」


 そのクインらしくない素直な打ち明けに面食らいながらも、リプカはしっかりとそれを伝えた。

 クインはそれを聞くと立ち上がり、リプカから視線を切って微笑みを浮かべると、その背でリプカに語った。


「とりあえずな。――これは、昨日の答えだ」


 それだけ言うと、クインはリプカが立ち上がるのを待たずに歩き始め――。


「それが何の肉であるのか、当ててみろ」


 ――一言を残して、去っていった。


 難しい顔で小首を傾げるリプカ。

 クインの背を見送ると、その言葉の意味をうんうん唸り考え込みながら――クインと共に食した【ヘビ肉と根菜のスープ】が開けられた椀をしばしの間、見下ろしていた。



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